第21話 ケイロスバーン①

 タオルで頭を乾かし、教室で待機していた。

 ゴン目当てだった神崎を含めた俺をイジメていた3人は、怪訝そうな目でこちらを見ている。

 俺をイジメに行ったのに俺一人で帰って来たからであろう。


 俺は神崎たちを気にすることなく、机でうつ伏せになって眠りにつく。

 雨でイライラするし、弁当が食えなかったから腹が減って仕方がない。

 弁当の件を思い出し、倭たちがいま味わっている地獄を心の中でざまぁみろとほくそ笑む。


 そのまま午後の授業が始まるが倭たちはまだ帰って来なかった。

 入ってきた教師は首を傾げてクラスの連中に聞く。


「おい。他の連中はどうしたんだ?」

「さ、さぁ……」


 神崎が首を振ってそう答えていた。

 地獄を味わっているのですよ、ゴン特製の。


 授業が進み、ゴンに捕まってから一時間ほど経過した時であった。

 ずぶ濡れで震えに振るえる倭たちが教室へと戻って来る。


「ど、どこに行ってたんだ、お前ら」

「……この世の地獄です」

「は、はぁ?」


 遠い目をしている男。

 涙を流している男。

 何故か頬を染めている男。


 反応はそれぞれであったが、ゴンの言われるがままに「何か」をやらされたというのは理解した。

 俺はそんな彼らの姿を見てほっこりする。


 そんな俺の姿を見て、神崎と下柳が俺を睨んでいた。

 おー怖い怖い。

 直接相手してやってもいいけど、こいつらは武活動で叩きのめす。

 特に下柳、お前には一番辛い目に遭わされたからな。

 覚えてろよ。


 倭たちが席に着き、それ以上何も聞かない教師。

 授業は滞りなく進み、放課後となる。


 俺は屋上の入り口まで移動し、ゴンを待った。

 ゴンは神崎を筆頭とした男たちを巻いてから来るらしい。


 軽快な足音で走ってくるゴン。

 心なしか、嬉しそうな気がする。


「何かあったのか?」

「ん? 昼休みの行事が楽しかったからな」

「そ、そうか……」


 俺は青い顔で【帰宅】を発動する。

 白い光が生まれ、俺たちはその光へと入って行く。


 その先はいつもの小屋で、外では雨が降っていることに肩を落とす。


「こっちも雨かよ」

「お前、雨の時は調子悪いもんな」


 ポテチを食べ始めるゴンに、俺は手を伸ばす。


「悪いけど俺にもポテチくれない? 腹が減ってしょうがないんだよ」

「仕方ねえな。ほれ」


 そう言ってゴンはポテチを一枚くれた。


「一枚かよ! 頼むから一袋くれよ」

「……ちっ」


 こいつ、舌打ちしやがった。

 そりゃ好きな物だから気持ちも分からんでもないが、ちょっとぐらいいいだろ。


 俺はゴンからもらったポテチを食いながら、外の様子を見る。


「完全に雨だな……今日は帰るか」

「おい。お前が約束したんだろ」

「でもさ……雨だぜ?」

「雨でも約束は無効にはならんぞ」

「あれー? 明後日って言ったんだけどな! って言ってもダメかな?」

「……オレは別にいいけど、首を長くして待ってんじゃね?」


 正直今日は外に出たくない。

 しかしここで行かなければ、約束を破るクソだと思われてしまうかも。

 異世界人の代表として、それはそれで問題だよな。

 これから交流があるかどうか分からないけど、一応ちゃんとしておこう。


「しょうがねえ。行くとするか。嫌だけど」

「オレも雨の中冒険なんかしたくはないけどな」

「同感だ。嫌だが行くとするか。嫌だけど」


 ゴンは手前の部屋で、俺は奥の部屋で着替えを開始する。

 いきなり脱ぎ出したことに一瞬戸惑ったが、そこは慣れだ。

 無言で背を向けて別室に移動した。


 着替えを済ませ、【製作】でカッパを作り出す。


「そんなの作れるんだな」

「まぁ、ある位程度頭で理解している物は作れるみたいだな」


 しかしいつもと比べると調子が悪い。

 雨の日は自身の能力も低下しているようだ。

 おのれ天敵め……

 俺は天井の先の雨を睨み付けながらカッパを着込んだ。


 雨の中、ゴンと共に森の中を歩く。

 俺は槍を二本手にしてはいるが……あまりの気怠さにゴンの後ろを歩くだけであった。


 ゴンは雨の日の俺をよく理解しているので、無言で一人戦っている。

 ありがたい存在だ、こいつは。


 ゴンはスライムとウルフに関しては【暴食】で喰らい、コボルトは素手で叩きのめして行く。

 意地でもコボルトは食わないつもりなんだな……


 そうこうしているとケイロスバーンへと到着し、入り口では数人の兵士が直立して俺たちを待ち構えていた。


「お待ちしておりました、レオ様、愛花様!」

「様って……何で兵士がオレたちを待ってるんだよ」

「はっ! 姫様の命令でございます!」

「「……姫?」」


 俺とゴンは、同時に素っ頓狂な声を上げる。

 姫って……もしかしてリーシャのことか?


「あいつ、姫様だったのかよ」

「やっぱそういうことだよな」

「……そういうことなら、美味いもんたらふく食わせてもらおうじゃないか」

「いいもの食わせてもらえるかもな。よし、行こうぜ」


 ほんのり嬉しそうなゴンを横目に、俺は兵士に連れられて城へと向かう。

 やっぱ何より食事が一番なんだな、こいつは。

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