第17話 ダブルリザード

 俺もゴンと同じように動きやすい服をチョイスした。

 防御力は元の世界にある並みの鎧よりかは高いみたいだし、それに俺には槍がある。


 例えば、防御の槍ガードランス

 これを手にしていれば防御力が上がり、それなりに攻撃を防げるはずだ。

 そしてもう一つは俊敏の槍スピードランス

 素早さが上昇するこれを装備して、敵の攻撃を全て良ければ防御なんて関係ないしね。


「じゃあ、そろそろ行くか。あまりのんびりしてる時間もないしな」

「だな。気合入れて効率よく行こうぜ」


 ゴンはポテチを食いながらそんなことを言う。


「いや、気合入れるならポテチやめろよ」

「オレの気合の元はポテチなんだ。これがあれば百人力だぜ?」

「ポテチがなくてもお前は百人力だよ! すげー怪力なんだし。ってか、それ食いながらだったら両手塞がるだろ!」

「両手が塞がってようがレオがいるから問題なしだ」

「えー? 戦う気ないよね? あからさまに守ってもらうこと前提だよね?」


 ゴンはポテチの袋を【倉庫】にしまい、手についたポテチのカスを舐めながら言う。


「冗談だ」

「良かった。もう少しで殴って修正するところだった」


 女性が自分の指を舐める姿って妙にセクシー。

 そんな風に想いながら俺は小屋を出た。


 俺は両手に防御の槍ガードランスを装備し、戦場を駆け巡る。

 試しにウルフの牙を腕に喰らうも、ビクともしない。

 逆に相手の牙が折れ、血を吹き出してた。


「すげーな、槍の効果って」

「だな。お前も武器持ったら?」

「オレの両手はポテチを持つために存在する。ポテチ以上に重い物を持つなんて御免だね」

「カッコついてないぞ。まぁ、お前は拳だけで十分だからいいけどさ」


 ゴンはコボルトに右のアッパーを喰らわせ、すかさず左手でウルフを捕食する。

 何がなんでもコボルトを喰わないという意思を感じるぞ。

 そりゃマズいって言ってたし、食いたくないのは当然か。

 しかしこいつは武器なしでも十分だな。

 俺はさすがに武器なしで戦えないわ。


「【暗黒槍】!」


 魔王の力と槍の技を掛け合わせたスキル。

 コボルトの心臓を貫くと、相手の体がボロボロと消滅していく。


 とにかく俺はコボルトを倒していこう。

 ゴンは真顔で涎を垂らして、ウルフを見据えている。

 とにかく食いたきゃ食えばいい。

 敵を倒してくれたらそれでいいわ。


「キャー!」


 モンスターと戦っていると、突如遠くから女性の悲鳴が聞こえてきた。


「レオ、お前、女の声出せたのか?」

「俺じゃねえよ! 遠くから聞こえてきたろ?」

「……ウルフ食うのに夢中で気が付かなかったわ」


 どうやらゴンは本気で言っているようだ。

 俺は真顔で声の方へと走り出した。

 ゴンも遠くに見えるウルフをチラリと見ながらも俺に付いて来る。


 少し走ると、金髪の美しい女性がワニのようなモンスターに襲われていた。


「なんだあれ?」

「俺にも分かんねえよ。とにかく【鑑定】する」


 モンスターの名称は――ダブルリザード。

 前後両方にワニの顔があり、その獰猛な瞳で女性を睨み付けていた。

 そして後ろの方の顔は俺たちを捉えたようだ。


「……気持ち悪ぃ」

「同感だ。さっさと倒すぞ」


 どれほどの相手かは測りかねるが、俺たちなら負けはしないだろう。

 だって【魔王】に【勇者】だぜ。

 こんな程度のモンスターに、負けないだろ!


 俺は【倉庫】を開き、俊敏の槍スピードランスを二本装備する。

 そして全力でダブルリザードに向かって駆けて行く。


「うおっ!」


 自分の想像以上の速度が出る。

 通常のおよそ倍速ほど出てそうだ。

 一瞬でダブルリザードとの距離を詰め、女性の前に立つ。


「下がって!」

「は、はい」


 女性は腰を抜かしていたのか、膝をつきながら後方へと下がっていく。

 ちょっと情けないけど笑わないよ。


 ダブルリザードは当然のごとく俺をターゲットにし、凶悪な牙を見せてこちらに噛みつこうとしてきた。

 しかし俺は高速で相手の横へと移動し、槍を深々と突き刺す。


「バガアアアア!」


 攻撃は十分通用するな。

 槍を抜くと同時にもう一本の槍で攻撃を仕掛ける。

 しかしダブルリザードは素早い動きを見せ、その攻撃を避けてしまう。

 さらには後ろ側の顔がこちらに襲い掛かろうとしていた。


「意外と速いな」


 俺はダブルリザードの攻撃を槍で防ぐ。


「だろ?」


 ゴンは以前では考えられない速度でダブルリザードの後ろ側につく。

 ダブルリザードの顔はゴンの方に向いており、彼女に噛みつこうとするがゴンはその口を両手で押さえつけてしまう。


「甘いんだよ」


 そしてわきで相手の口を押え込み、雷を纏った右手で顔面を殴り付ける。

 痙攣を起こしながらジタバタもがくダブルリザード。

 だがゴンの怪力から逃れることはできない。


 俺は彼女の怪力に苦笑いしながら、両手の槍でダブルリザードに止めをさす。


「――――」


 相手の両目に突き刺さった槍。

 ゴンは力が抜けていくダブルリザードの体を手放した。


「俺たち最強かもな」

「ああ。この調子だったら武活動大会も優勝できんじゃね?」


 俺たちは拳を合わせ、笑みを浮かべる。


「あ、あの……ありがとうございました」


 その声は、助けてあげた金髪の女性だった。


「いや。君が無事でよかったよ」

「だな。後、腰が抜けてなかったらもっとよかったけどな」


 腰を抜かしたまま俺たちを見上げていた女性。

 それを言ってやるなと、俺はゴンの肩に手を置いた。

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