第16話 再び異世界へ

 山下を置き去りにし、俺たちは学校を後にした。

 最寄り駅へ向かう途中でゴンが現状の不満を口にする。


「しかし何と言うか、気持ち悪いよな」

「何がだよ?」

「だってこの間までデブゴン、デブゴンってバカにしてた奴らが、目の色変えて迫ってくるんだぜ。恐怖以外の何物でもない。いや、恐怖ってか豆腐?」

「何で豆腐なんだよ?」

「芯が無くてプルプルしてるから。もっとしっかりしてりゃいいのによ」


 あいつらが豆腐かどうかは分からないが、確かに気持ち悪いという気持ちは分からんでもない。

 急に態度を変えたり、急にへつらったりしたり。

 別に中身が変わったわけでも立場が変わったわけでもないのに。

 

「お前は変わんねえよな」

「だって、ゴンはゴンだろ?」

「……変わんねえな。お前は」


 ポテチを食いながらゴンは歩く。


「だけど嬉しかったことも、なくもない」

「嬉しかったこと? 何かあったのか?」

「おう。ポテチを大量にもらえたことだ」

「結局食い意地かよ! お前、ポテチ要求してたもんな」

「ああ。多い奴は20袋ぐらい持ってきてた奴もいたぜ」


 ちなみにゴンは【倉庫】を習得し、そこに全部お菓子を入れているらしい。

 どこまでいってもこいつは食べることが一番のようだ。

 ある意味尊敬するよ。


「誰だよそれ?」

「神崎」

「ああ……」


 神崎。

 いつも俺をイジメてきていたラグビー部の角刈りだ。

 俺は神崎の姿を思い浮かべ、げんなりしていた。


「あいつもこの前までデブゴンって言っててさ。おにぎりぶつけられたことあったんだよ」

「もったいねーな」

「ああ。だからそのおにぎり食ってやった」

「食ったの!? 男が放り投げたおにぎり食ったの?」

「あいつが口にする前だったしな。地面に落ちることなく、オレの顔面にへばりついたから。無言で食ったら、何とも言えない顔してたぜ、あいつ」


 ゴンは本当に豪傑だからな。

 男よりも漢らしいところがある。

 俺だって惚れ惚れすることもあるしな。


「そういやレオ。校内武活動大会、あるだろ」

「校内武活動大会?」


 校内武活動大会。

 それは俺たちが通っている学校内の、部活対抗大会のことである。

 最強の武活を決め、校内における実力者を選別し、地区大会に出場する選手を決める校内活動だ。


「それがどうした?」

「あの大会、一緒に出ねえ?」

「武活動大会に? いや、でも俺たち武活に所属してないし……」

「弱小武活に所属すりゃいいじゃん。そうすりゃ、簡単にエントリーできると思うぜ」

「目的は?」

「目的は簡単。皆を見返してやるんだよ」


 ポテチをひっくり返し、中身を全て口にかき入れるゴン。

 同じ物ばかり食っていて飽きないものかね。


「見返すか……悪くないかもな」

「だろ? ただ暴力で仕返ししていくよりかは、下だと認識してる奴が自分たちより上位に立つ方がよっぽど腹が立つんじゃないかなって」

「……やるか」


 暴力で相手を屈服させるようなら、あいつらと一緒。

 同じ穴の狢と言うやつだ。

 だけど、公の場で皆を見返すのは楽しそうだよな。

 

 妙に楽しくなって来た俺は、ワクワクしたままでゴンに言う。


「なあなあ。だったら向こうの世界に行ってもっと強くならないか? 今でも負ける気はしないけど、出来る限り勝率を上げておきたいんだよ」

「ああ、いいぜ。オレももっと色々食べたいと思ってたところだしな」

「お前はまだモンスターを食い荒らすつもりかよ」

「まだ見ぬ食材を求める。ロマンがあっていいじゃないか」

「結局食い意地が張ってるだけだろ」


 やることが決まった俺たちは、人通りの少ない路地に入り込む。

 そこで【帰宅】を発動し、異世界の小屋へと移動した。


「さてと……まずは武器を作るか」

「まだ作んのかよ」

「作れば作るほど【製作】の熟練度も増して行くからな。武器ももっと欲しいし、一石二鳥ってわけだ」


 俺は熟練度2に達したことにより作れるようになった槍を次々と創り出していく。


「そういや、そろそろ防具も作っておいた方がいいよな? ってか、もっと早く作っておくべきだった」

「別になんとでもなるんじゃねえの? 今までだった問題無かったじゃん」


 ゴンはポテチを食いながら興味なさそうにそう答える。


「今まで運が良過ぎたって考え方もできるだろ? とにかく、安全に越したことはないよ」


 俺は槍の製造を止め、防具作りに移行する。

 

 ゴンは鎧とかは面倒くさくて着たくないだろうから……動きやすさ重視の服を作ろう。


 魔石を消費し、ゴンの防具を作成する。

 見た目は中世の騎士なんかが着てそうな服。

 色はピンクで、ゴンも女だしちょっとぐらい可愛くてもいいだろう。


「ほら」

「ん」


 服を見てお気に召したのか、うんと頷くゴン。

 これなら着てくれそうだな。

 よかったよかったとほっこりしていると、急にゴンは服を脱ぎ始めた。


「おおい! だからいきなり服を脱ぐなっての!」

「だからお前になら見られても問題ないって言ってるだろ」


 こいつは本当に……ったく。

 俺はゴンに背中を向け、自分の防具の作成に取り掛かった。

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