第13話 帰宅

 【帰宅】を発動し、輝く光の中へと足を踏み入れる。

 光を抜けたその先は――俺の部屋だった。

 大型TVに穴ができており、俺たちはそこから出て来たようだ。


 ベッドが一つに漫画が詰まっている本棚。

 勉強机が一つあるだけで、後は別段変わったものがない平凡な部屋である。


「……この普通さ。どう見てもレオの部屋だよな」

「普通かどうかで認識してるの? どう見ても俺の部屋だろ」


 俺とゴンはベッドに腰かけ、同時に大きくため息をつく。


「帰ってこれたな……」

「ああ。良かった。本当に良かった」


 ゴンは少し微笑を浮かべ俺に言う。


「これでまたポテチが食える」

「お前は食うことばっかだな」

「ボーイズラブのこともあるぞ。話してやろうか?」

「……飯のことだけでいいです」

「だろ? オレはあえて黙っててやってるんだぜ。レオ、そういう話そんなに好きじゃないだろ」


 好きじゃないというか、困るんだよな、反応に。

 別にゴンが好きならそれでいいのだが、興味ないこと話を振られてもどう返していいのか分からなくなる。

 こうやって何気なく気を使えるのもゴンのいいところ何だよな。

 基本的に人の嫌がることはしないし口にしない。


「んじゃ、オレも家に帰るわ」


 ゴンは靴を脱いで手で持ち、部屋を出て行く。

 俺は玄関までゴンを見送りに来ていた。


「じゃあな。また……明日か?」

「さあ? オレも曜日がわかんねえ」

「だな」


 苦笑いする俺にいつも通り表情の読めないゴン。

 彼女はサッと手を挙げて、早々と自宅へと帰って行ってしまった。


「……ただいま」


 俺は靴を玄関に置き、リビングへと向かった。

 するとまぁ、両親は騒ぎに騒ぐ。


 どうやら俺たちは一週間ほど向こうの世界にいたらしく、行方不明者届を出していたようだ。

 俺とゴンが二人揃って消えたものだから、心中でもしたのかと思っていたとか。

 逃避行とは思わなかったの?

 まぁ、そんなことする必要もないし、そんな風に考えるわけないか。


 母親は涙をボロボロ零しながら俺に抱きついてきた。

 うーん。親に心配かけたらダメだな。

 こんな母親の姿は見たくないや。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 翌日の天気のいい朝。

 どうやら今日は月曜日らしく、またあの学校に行かなければいけないのかと考えると憂鬱になる。


 ベッドの上で嘆息していると、ゴンから連絡があった。


「?」


『大至急、我が家に来るべし』。

 そんな一文がメールに表示されている。


「……なんだ?」


 俺は普段よりも早く家を出て、ゴンの家へ向かった。

 彼女に何かあったのだろうか?

 この世界に戻って来たことで、あるいは向こうの世界に行っていたことで弊害が出た?

 俺は焦る気持ちでゴンの家へと急いだ。


「おはよ」

「……おはよう」


 ゴンのマンションに到着すろと、彼女はお尻をかきながら玄関へと出て来た。


「で、何かあったのか?」

「いや、あのな。制服のサイズが合わなくなってだな」

「は?」

「ほら。オレの体、細くなったろ? 制服が着れなくなったんだよ。だから寸法頼むわ」

「…………」


 焦って損した。

 そんなことぐらいで朝っぱらから呼び出すんじゃねえよ。

 なんて思いながらも、俺は素直に彼女の家へと入って行く。


「レオくんおはよう。あなたも何だか、たくましくなったわね」

「おばさん。おはよう。ちょっと筋肉がついたみたいで」


 ゴンのお母さんは俺の姿を見て、抑揚の無い声でそう言った。

 元のゴンとそっくりでふくよかな体型で感情の乏しい顔。

 

 ゴン曰く、細くなった彼女を見ても「ふーん」としか言わなかったらしい。

 普通、驚きに驚くよね。


 ゴンの質素な部屋に入る。 

 整理整頓がしっかりされており、部屋は一切散らかっていない。

 ただし、昨日食べたポテチの袋だろう。

 それが大きなゴミ袋の中に何十と捨てられている。


 制服が布団の上に置かれており、俺はそれを【製作】でサイズの調整をしてやった。

 どうやらこの世界でもスキルは発動できるらしく、問題なくそれは完了した。


 するとゴンは俺の目の前でジャージを脱ぎ出す。


「おまっ! 何でそんな躊躇ないんだよ! 俺男だよ?」

「……お前のどこに女要素があるんだよ」

「そんな話してない! 男の前だから恥じらえって言ってんの!」


 後ろを向く俺に、怪訝そうにそう聞いてきたゴン。

 ちょっとズレてるよな、こいつ。


 制服を着たゴン。

 うん。どっからどうみても美人女子高生だ。


 俺たちは家を出て、学校へと向かった。

 電車に乗っていると、ゴンに視線が集中している。

 やっぱり今のゴンは美少女なんだな、と実感したり。


 電車を降り、同じ制服を着た男子生徒諸君の視線まで集まり始める。

 それに女子生徒も何故か、こちらの方を見ているようだ。


「あ、あんな美人、俺たちの学校にいたか?」

「下柳より美人だよな、あれ」

「それに隣にいる男の人もカッコよくない?」


 周囲の男たちがゴンの容姿を褒め称え、見惚れているようだった。

 それに何故か、数人の女子は俺の容姿を褒めているようだ。

 何で? ゴンはもう別人だし分かるんだけど、俺は外見変わってないと思うんだけどな。


 ゴンはそんな男たちの視線にうんざりしながらポテチを食い始める。


「……やっぱゴンはゴンだな」

「そりゃそうだろ。何言ってんだよ、お前」


 俺は変わらないゴンの姿を横目に、安心しながら通学路を歩いていた。

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