第12話 魔王
散開して俺たちを取り囲むコボルトたち。
俺は高揚しながら槍を構え、【魔王】のスキルを発動させる。
現在使用できるのは【闇術】。
暗黒の力を持って敵と戦えると言うわけだ。
中二心がくすぐられる……さらに俺は興奮していた。
手にしているのは『力の槍』。
これだけでも十分なような気がするが気にしない。
とにかく【魔王】の力を試してみたい。
「【ダークフォース】」
槍を包み込む暗黒の力。
俺はそれでコボルトの肉体を一突きする。
「ギャバー!!」
槍を喰らったコボルトは、サラサラと砂となり消えていく。
おお。これは凄い威力だな。
気分を良くした俺は、空いた左手で【闇術】を発動する。
「【ダークショット】」
手の平から飛び出す闇の弾丸。
弾丸に直撃したコボルトは、やはり砂となって消えて行く。
俺は酷い高揚感を覚え、さらに暗黒の力でコボルトたちを倒そうとスキルを解放する。
だが、ゴンが俺の前に立ち、俺の動きを制止した。
「……もうその力を使うな、レオ」
「ゴン?」
まさか、闇の力に飲み込まれていたとか?
確かにその力に俺は興奮していた。
外から見ても異常だったんだな……
止めてくれたことに感謝しながら、俺は彼女の背中を見つめる。
「それを使うと相手を喰えなくなる」
「結局それかよ!」
全然違った。
相手の肉体が消えるから、自分の食料がなくなるから止めたようだ。
どこまでも食い意地の張った奴!
俺はヤレヤレと肩をすくめ、槍だけでコボルトと対峙する。
まぁ、見た感じ動きも早くないしこれだけで十分だろ。
俺の考え通り、コボルトは槍の一撃だけで絶命していく。
ゴンも勇者の力を控え、拳で、あるいは直接コボルトを捕食していた。
「で、コボルトの味はどうなんだ?」
「うーん……マズいな。これは消滅させてもいいぞ」
「あっそ」
ゴンのゴーサインが出た。
残りは一匹。
俺は【ダークショット】でコボルトを消滅させる。
その力に快感を覚えた俺は、変な笑みを浮かべながらゴンを見た。
いや、自分の意志で浮かべたわけじゃないんだけど、こう、ニヤニヤって収まらないよね?
ゴンは特に何か言うこともなく、死んだコボルトの肉体を捕食していく。
「あれ? マズかったんじゃねえの?」
「マズくても食事は残さない。それがオレのモットーだ」
なんか無駄にカッコイイ。
俺はそんなゴンの凛々しくも気怠そうな顔を見て彼女を見直していた。
ま、こんなぐらいしかカッコいいと思える部分もないしな。
良い奴ではあるんだけどなぁ。
その後もモンスターを倒して行く俺たち。
この辺ではコボルトの他にもウルフが出現していた。
コボルトはマズいらしいので、コボルトに関しては【魔王】と【勇者】の力で滅殺していく。
ウルフは食料として手加減をして倒す。
途中で数匹ウルフを捕食していくゴン。
空腹はそれで何とかしのげていたようだ。
「だけど、それだけ痩せても食欲は変わらないんだな」
「変わらないというか、前より腹が減るようになったな」
「さらに燃費が悪くなった!? お前、今どんだけ食えるんだよ」
「さあ? 無尽蔵に食えるような気がするよ」
「……前と変わらないような気がするけど」
「前よりも腹が減るペースが速いんだよ。とにかく腹が減る」
とうとうコボルトまで食い始めるゴン。
俺はコボルトも手加減して倒していくことにした。
と言うか、どれだけ食えるんだよ、こいつ。
狩り……もとい、ゴンの食事に付き合っていると、とうとう夕方となり、【帰宅】で小屋に戻る俺たち。
体が戦いに適しているのか、あまり疲れは感じなかった。
ゴンもそれは同じだったようで、小屋に戻るなり外でウルフの肉を焼き始める。
「レオ。お前が焼いてくれよ」
「自分で食う分だろ? 後で代わってやるから自分で焼いてろ」
俺はゴンの横でステータス画面を開く。
露木玲央
HP 73 MP 40
腕力 51 防守 43
魔力 40 敏捷 66
運 32
スキル
槍 2 魔王 2 帰宅 2
倉庫 2 鑑定 2 製作 2
コボルトと戦ったからかどうかは知らないが、ステータスが昨日より随分高くなっていた。
さらに【帰宅】の熟練度まで上がっている。
【帰宅】で新しくできることってあるのか……?
【鑑定】の熟練度が上がった時は、モンスターを鑑定できるようになった。
熟練度が上がることによって、できることは増えるのだ。
頭の中で【帰宅】の情報を確認し――俺は声を上げた。
「ああっ!?」
「どしたん?」
ゴンが気怠るそうな瞳をこちらに向ける。
俺はヒクヒクと顔を引きつらせながら、ゴンを見る。
「か、帰れるようになったぞ……」
「はっ?」
「俺たちの世界に戻れるようになったんだよ!」
「……マジかよ」
「マジだよマジ! これでこんな世界からはおさらばだ!」
【帰宅】の新たなる能力。
それは、もう一つの帰宅ポイントというものを設定することができるようになり、そこへ帰宅できるよるというもののようだ。
帰宅ポイントは行ったことある場所限定ではあるが、好きな場所を設定できるようで、俺は自宅をポイントに設定する。
「よし、帰るぞ」
「待て」
ゴンは真剣な顔でこちらを見る。
何かやり忘れたことがあるのだろうか?
俺はゴンの顔を真剣に見つめ返す。
「……ウルフの肉を食べてからだ」
「…………」
元の世界に帰れるよりも、食い意地の方が勝ってたようで。
俺は彼女が肉を喰い終わるのを、黙って待っていた。
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