第11話 勇者

 食事を終えた俺は、本の続きを読んでいた。

 適当なところで読まずに置いていたのだが……最後まで読んでいた方が良かったと後悔する。


「なあゴン」

「なんだレオ」


 ゴンは腹を押さえながら俺を睨む。

 もうお腹が空いたらしい。

 もうちょっとすれば狩りに行くから我慢しろ。


「奥に本棚があるだろ」

「あるな」

「あの本って、スキルのことが書かれてるらしくて、あれを読んだらスキルを取得できるらしいぞ」

「ふーん」

「…………」


 興味なさそうだな! 

 そんなに飯の方が大事かよ。


 俺は本を閉じ、奥の部屋へと足を踏み入れる。

 周囲の本棚にはぎっちりと書物が詰まっており、この中から好きなスキルを選べるらしい。

 ただし、今は一つだけ。

 条件を満たせばまた習得できるようになるらしいが、とにかく今は一つだけらしい。


 ゴンは俺に続きこちらの部屋にやってきて、気怠るそうに適当に本を選ぶ。


「おい。そんな適当でいいのかよ」

「だって悩んだところでどれがどんなスキルなんて分かんねえだろ」

「そうだけどさ」

「だったらあみだくじ的な? 気分で選んだ方が面白いじゃん」

「適当にもほどがあるな……ってか、そんなので外れ引いたらどうする――」


 パーッと光る本。

 ゴンの体がその光に包まれる。


「って、もう習得したのかよ! 大事なことなんだからもう少し悩めって!」

「時すでに遅し」


 ゴンは無駄にキリッとした表情でそう言った。


「カッコつけていうようなセリフじゃねえよ……で、何習得したんだよ?」

「んー……【勇者】」

「大当たりかよ! 何でそんなに引きいいの? 【勇者】なんてどう考えても超々大当たりだよね? 宝くじだったら一億当たってるようなもんだよね? 凄すぎだろ、お前」

「そんな大当たりなのか。それよか、早く狩りに行こうぜ」


 ゴンはとことんまで興味なさそうに呟いた。

 俺は呆れながらも、役に立ちそうな本を探すように、表紙を眺めていく。

 しかし、見た目からはどんな内容なのか分からず、選びようがなかったため、ため息をついた。


「ほれ。これでいいだろ」

「うおい! だからそんな適当に選ぶなって」


 ゴンは本棚から一冊の本を選び抜き、俺に手渡す。

 俺はぶつぶつ文句を言いながらも、表紙をめくる。

 この本で習得できるスキルは……【魔王】


「えらい物騒なもん引き当てたな……」

「【勇者】と【魔王】……二人で世界を半分ずつ手に入れるか」

「いらねえよ、世界なんて。でも……」


 何というか、【魔王】と言う言葉の響きに、変に興奮する。

 あれ? なんだかこれでいいような気がしてきた。

 他に色々スキルがあるようだけど、これも運命のような気がするし、これでいいかな。

 

 俺は本のページをペラペラとめくっていき、スキルを習得できるページにいきつく。


「結局それにするんだな」

「【魔王】とか強そうでいいじゃん。【勇者】より強そうだし」


 本が光を放ち、俺は【魔王】のスキルを習得する。


「じゃ、強くなってオレを楽させてくれよ」

「勇者が魔王に言う台詞じゃないな。お前は強くなって世界を救わないと」

「いや。魔王側に寝返って世界を掌握するような勇者に、私はなりたい」

「最悪じゃねえか……いや、災厄だ」


 まさに人間に降りかかる災い。

 こんな勇者、世に送り出してはいけない。

 魔王である俺が管理しなければ……

 なんてバカなことを考えながら、俺たちは狩りに出る。


 スライムを倒しながら、ウルフたちがいる場所へと移動していく。

 ゴンはスライムを食していくが、ウルフに関しては、一匹たりとも捕食しようとしない。


「どうしたんだ? 腹減ってないのか?」

「腹は常に減ってる。だけどウルフは生より焼いたほうが美味いからな」

「ああ……なるほど」


 要するにバカみたいなこの量のウルフを調理しろと?

 嫌だ嫌だ。面倒すぎる。

 絶対自分でやらせてやるからな。


 俺はそんな小さな決意を胸に抱きながらウルフを倒していく。

 全て槍で一突き。

 難なく、苦労なく、一撃で仕留める。


「おいレオ」

「なんだゴン」

「ほれ。また新しいモンスターのお出ましだぞ」


 ゴンが新たに発見したモンスター。

 俺は早速そのモンスターを【鑑定】する。


「コボルトか……ウルフたちに比べると結構強そうだな」


 コボルト。

 手に剣を持った、二足歩行する犬。

 とでも表現すればいいのだろうか。

 人間の子供のような体格に犬の頭をくっつけて、全身毛だらけにしたようなモンスターだ。


 そのコボルトが7匹、森の奥からこちらに近づいて来ていた。


「よーし。【魔王】の力を試してみるか」

「んじゃ、オレも【勇者】としての役目を全うしてやろう」

「世界で一番勇者らしくない奴がなに言ってんだよ」


 ゴンは接近するコボルトを見据え、拳を握りしめる。

 バリッとゴンの拳に稲妻が走り、剣を振り回すコボルトに向かって力を解き放つ。


「【雷拳】」


 雷をまとったゴンの拳はコボルトの顔面を捉え――奴の肉体を爆散させる。

 その威力に俺とゴンは唖然とし、顔を見合わせた。


「強すぎじゃね?」

「強すぎだな」


 俺はゴンの【勇者】の力に驚きながら、自身の【魔王】の力がどんなものなのかと興奮していた。

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