第10話 新たなる武器

 翌朝。

 目覚めるとまた変化が起きていた。

 筋肉痛が収まり、またさらに筋肉がついている。


 たくましい肉体だ。

 まるで格闘家のように引き締まった筋肉。

 力強く、そして俊敏に動く全身。

 

 戦いに適した素敵なボディになっていることに、俺は喜びを禁じえなかった。

 奥の部屋にある鏡の前で自分の体に酔いしれる。

 あ、ナルシストってわけじゃないからね?

 ちょっとばかり自分の変化を喜んでるだけだから。


 すると向こうの部屋でゴンが起き上がる音が聞こえて来る。


「ゴン。見てくれよ。この体……」


 俺は自分の体をゴンに見せようと隣の部屋に移った。

 移ったはいいが……俺はまた、自分の変化よりもゴンの変化に驚く仰天する。


「何か強そうになったな」


 寝ぼけ眼で俺の方を見るゴン。

 何とゴンは、絶世の美女に変化していたのだ。

 無駄な肉の無い、スレンダーな肉体。

 腰回りのくびれ。スラッと長い手足。

 そして胸も大きい。


 するとゴンのズボンとパンツがずるっとズレ落ちる。


「あ、またサイズが合わなくなった」

「っておい! だからちょっとは恥じらえって! 隠せ! 今すぐ隠せ!」


 俺は大慌てで後ろを向く。

 ゴンはあくびをしているだけでズボンを履く音は聞こえてこない。


「だから、別にレオだったら見られても構わないっての。それよりまたサイズ合わせてくれない?」


 今度は上のジャージも脱いだらしく、彼女はジャージ上下とシャツ、そして下着上下を俺の足元に置いた。

 俺は下着を握り締め、ゴンに背中を向けたまま言う。


「お前は恥ずかしくないのかよ……今裸だろ?」

「んー、何かこうやってみたらメッチャ痩せたな。どうなってんだ?」

「話聞いてる?」

「聞いてる聞いてる。なあ、これ凄くね?」

「凄いのは分かってんだよ! 見れないんだからそんなこと言われても困るわ!」


 俺は大声で叫びながら、隣の部屋の扉を閉める。

 そして【製作】でゴンの着衣一式を彼女の体に合わせてサイズを変更した。

 少しだけ扉を開き、服を床に置く。


 部屋の向こうで布がすれる音が聞こえて来る。

 ちゃんと着てるな、と俺はホッとし、音が無くなると扉を開きゴンと対面した。


「ん。ピッタリだ」

「いや、本当にどうなってんだろうな、これ? 俺も体がたくましくなったみたいだし、不思議で仕方ないよ」


 完全なモデル体型となったゴンを見て、俺は首を傾げる。

 ステータスが上昇したことにより、肉体も成長したのか?

 理由は考えれば考えるほど分からなくなる。


 ゴンは何か思い当たる節があったのか、真剣な表情となり、俺を見つめる。


「レオ。ちょっと思ったことがあるんだけどさ」

「あ、ああ。どうしたんだ?」


 彼女は一度うんと頷き、ピンク色の唇を動かす。


「ウルフって焼いた方が美味かったから、今度からは全部焼いて食おうと思ってるんだ」

「今そんなことどうでもいいわ! んだよ、何で体がこんなに変わったか話してるのにさ」

「そんなの考えるだけ無駄だろ。分からんことは分からんでいいじゃないか。それよか、どう美味い飯が食えるかを考えようぜ」


 俺は呆れ返り、小屋の外へ出てウルフの肉を【倉庫】から取り出す。

 ゴンの要望に応えるために、肉を焼き始める。


 枯れ木を集めて【製作】で創った火打石で火を点ける。

 ウルフの肉を太い木の枝で吊るし、直接火に当て焼いていく。


「まだか?」

「焼き始めたところだろ。もうちょっと待てよ」


 ウルフの肉を焼いている間に、俺は【製作】で新たな槍創りを試みようとしていた。

 【製作】の熟練度が上昇したことにより、レベルの高いアイテムを作ることができるようになっており、どんな物が創れるのか頭の中の情報を探る。


 現在創れるようになった槍は……ステータスを上昇させる効果を持つというものみたいだ。


 俺は早速、『力』が上昇する槍を創り出した。

 見た目は普通の槍と変わらないが、持つだけで力が湧いてくる。


 ゴンが肉を凝視している横で、俺は槍を振るう。


「うん。これは中々いい感じだ。名付けて、力の槍パワーランス!」


 俺は槍を地面に突き刺し、肉の焼き加減を確認しながらゴンに聞く。


「そういや、ゴンは武器いらないのか? 必要なら創ってやるぞ」

「いいよ。オレにはこれがあるから」


 そう言ってゴンは拳をこちらに向ける。

 それも肉を見たままだ。


「ま、まぁ、お前には【暴食】もあるしな……腕力も高いし、武器も必要ないかもな」


 肉が焼けたようなので、創っておいたナイフでそぎ落とし、ゴンに手渡す。

 ゴンはあまり感情のこもっていない顔でモグモグと食べ始める。


「うん。やっぱこっちの方がうめえわ。今日からウルフは焼いて食うとしよう。これからも頼むぞ、食料大臣」

「誰が大臣だ、誰が。だったらお前は王様か」

「オレは……飲食王。かな」

「……だっせー」


 なんて会話をしながら俺たちはウルフの肉を食べた。

 どうでもいい話だけど、内心は楽しい。

 ゴンといたら肩ひじ張らずにいられて疲れないし、楽で面白い。

 彼女もそんな風に考えているのか分からないが、俺はそんなひと時を密かに満喫していた。

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