第9話 ウルフ
俺がスライムを倒し、ゴンがスライムを食べていく。
そんな風に森の奥を進んで行くと、別のモンスターを発見した。
「あれ、モンスターだよな……?」
「多分」
俺たちの前にいるのは、狼のようなモンスターであった。
【鑑定】でそれを確認してみると……『ウルフ』というモンスターだということが判明する。
「犬とかじゃなくて良かったな」
「でも犬を食う国もあるらしいぞ」
「味の心配なんかしてないよ? 愛玩動物を殺すのはどうかって話してんの」
「ほれ、来たぞ」
ゴンが珍しく構えを取り、ウルフを顎で指した。
俺はウルフの方に視線を戻すと、相手はこちらに向かって駆けて来ていた。
動きが速い。
それに、他のウルフたちも集まってきており、いつの間にか俺たちは囲まれていた。
俺はゴンの後ろに回り、彼女に叫ぶ。
「ゴン。正面は頼む。俺は後ろを!」
「……俺だって後ろの部分食いたんだけど」
「ウルフの部位の話じゃない! 後ろを守るって言ってんだよ!」
「そういうことなら、任された」
ゴンが拳を突き出すと、鈍い音が森に響き渡る。
破壊力抜群のゴンのパンチは、ウルフの顔面の骨を砕く。
こちらを警戒しながら接近してくるウルフの群れ。
飛び掛かって来るウルフに対して、槍を喰らわせる。
腹部を突き破ると血が散乱し、接近するもう一匹のウルフを別の槍で切り倒した。
「オレたちでも十分勝てる相手みたいだな」
「だな。このまま行くぞ」
バクン! とウルフの死骸を喰い、ゴンはさらに襲い来るウルフを待ち構える。
「生肉だけど、味は悪くない。ローストビーフでも食ってる感覚だ」
「味の報告とか後でいいよ! ほら、行くぞ!」
次々と飛び掛かってくるウルフたち。
俺は二本の槍を駆使し、相手を突き、裂き、切り伏せていく。
ゴンにやられたウルフたちは骨を砕かれて絶命していく。
「めんどくせえな」
ゴンは殴るのも面倒になったのか、【暴食】で生きているウルフの肉を直接喰らい始めた。
「最初からこうしておけばよかったな。戦いながら強くなり腹も膨れる。一石二鳥の戦い方だぜ」
「そりゃ良かったな。後でさらにたらふく食わしてやるからな!」
なんとも頼もしい奴だよ。
ゴンの強さに安堵を覚え、自分自身も戦っている最中に強さを増していくのが分かる。
俺は戦いながらゴンの横顔をチラリと見る。
こいつがいたら何だってできそうな気がするよ。
そうしているとウルフたちを全滅させることに成功し、俺たちの周囲にはモンスターの死骸が20ほど横たわっていた。
「これ、全部食っていい?」
「一応数匹残しておいてくれよ。【倉庫】に保管しておいたら非常食として使えそうだしな」
不思議なことに、【倉庫】の中では物が腐ることがないようだ。
何故そんなことを知っているかって?
だって頭の中に情報が流れ込んできたから。
俺にもよく分からないが、そういうことらしい。
二匹ほどウルフを空間にしまい、残りを【暴食】で食っていくゴン。
「うん。やっぱりスライムよか美味いわ」
「直接喰わねえの?」
「食ってもいいんだけどさ、口が血まみれになりそうだろ?」
「……確かに」
血まみれのゴンなんて見たくないな。
無表情のこいつの姿なんて……ちょっとしたホラーじゃないか。
寒気を感じた俺は、さらにウルフがいないかを確認する。
「俺の体験だけどさ、スライム倒すより強くなるのが速い気がする」
「強くなるのも速いし美味いし、言うこと無しだな」
「お前は美味けりゃいいのかよ……後でウルフ焼いて食うか」
「お、いいね。お前、焼肉のタレとか作れねえの?」
「残念ながらそんな能力は持ち合わせていませんので」
その後もゴンとアホみたいな会話を繰り広げながらウルフを倒して回った。
気づけば夕方となり、そろそろ撤収しようと考えた俺は【帰宅】を発動する。
「何だよ、それ?」
目の前の空間が光り輝く。
ゴンは表情を変えることなく、それを見つめている。
「【帰宅】だよ。どうもあの小屋の鏡に繋がってるみたいだ」
「ほー。便利なもんだな」
空間に入る俺たち。
次の瞬間には、小屋の中にいた。
【帰宅】はどこでも発動できるようで、ここにある鏡まで帰って来れるというスキルのようだ。
これが自宅とかだったら言うこと無かったんだけど。
俺たちは隣の部屋で腰を下ろし、ステータスを確認した。
露木玲央
HP 39 MP 17
腕力 20 防守 19
魔力 8 敏捷 25
運 7
スキル
槍 1 帰宅 1 倉庫 2
鑑定 2 製作 2
これはまたいい感じでステータスが上昇しているではないか。
俺はウキウキしながらステータス画面を閉じ、ゴンのステータスを覗き込む。
権田愛花
HP 55 MP 2
腕力 47 防守 26
魔力 1 敏捷 4
運 5
スキル
格闘 1 暴食 2
「お、敏捷上がってんじゃん」
「痩せたからか? 昨日と比べたら体が軽い感じがするしな」
ゴンは立ち上がり、なぜか反復横跳びを開始する。
そこそこの速度ではあるが……普通ぐらいとしか表現できない速さであった。
「どうよ? 体操選手になれそう?」
「それはまだ無理そうだな」
ゴンは飽きたのか、「あっそ」と言ってまた床に座り込んだ。
しかし着実に強くなっているな、俺たち。
俺は喜びながら、晩飯の支度を開始するのであった。
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