第3話 異世界

「…………」

「…………」


 俺とゴンは唖然として部屋の中を見渡していた。

 部屋は書斎なのだろうか、本がギッシリと詰まった本棚がいくつも並んでいる。

 後は扉が一つあるだけ。


「学校のどこかか?」

「いや、床の作りが学校らしくないと思うんだけど」


 ゴンは俺の言葉に床に視線を向けてポテチを食べ始めた。


「確かに」

「え? 冷静になるの速すぎない? 何でもうポテチ食べ始めてんの?」

「焦っても一緒だろ?」

「いや、そうだけどさ……もう少し緊張感ってものを持とうぜ」


 後ろを振り向くと、学校にあったのと同じ鏡が壁に立てかけられていた。


「なあ、学校と同じ――って、何やってんの!?」


 気が付くとゴンは扉のノブに手をかけ、躊躇することなく扉を開いた。

 扉の向こうには小さな部屋となっており、さらに扉が一つ見える。


「緊張感無さ過ぎにも程があるだろ。もっと危機感をだな……」


 ゴンと共に隣の部屋に移動すると、そこは何も無い部屋で、俺はただ唖然としたままゴンの背中を見つめていた。


「危機感持ってても何もないぞ、ここ」

「そうだけどさ。何かがあったらどうしてたんだよ。例えば、バックドラフトが起きるとかさ」

「お前は心配性だな」

「お前は神経が図太すぎるんだよ」


 するとゴンはまた躊躇なく目の前の扉を開き、その先を確認する。

 恐る恐る扉の先を視認すると……なんとそこは、夜の森の中であった。


「も、森?」

「森だな。これが海だと思うならお前は病気だぞ」

「よし。森と判断できているから俺は病気じゃないな……って、病気じゃないなら、なんだよこの状況は!?」


 俺は少しパニック状態で外へ出て、大きく深呼吸する。


「焦るな……焦ったら負けだ」

「あ、モンスターだぞ」

「おいおい。そんな冗談通用すると思って……」


 ゴンが指差す方向には、緑色のゼリーのようなモンスターがいた。

 本当にいた。

 モンスターが本当にいた。


 俺はゴンの手を引っ張り、部屋の中へと勢いよく戻る。


「何でモンスターがいるんだよ!」

「知らね。異世界にでも来たんじゃねえの?」

「い、異世界って……あの異世界?」

「どの異世界だよ」


 剣と魔法の世界。

 モンスターと戦う世界。

 美少女と出逢う異世界。


 本当に俺たちは、そんな別の世界にやって来てしまったのだろうか?

 俺はフラフラと尻餅をつき、呆然と天井を見上げる。

 ゴンは冷静なままでポテチを食べていた。


「ん? なんだこの本?」


 さっきまでは無かったような気がするのだが……俺の目の前に一冊の本が放置されていた。

 俺は本を手に取り、ペラペラとめくる。


 本には『初めてのイシュガンド』なんて書かれているが……何だよ、イシュガンドって。


「何だよその本?」

「さあ? 落ちてたんだよ、ここに」

「ふーん。で、内容は?」

「何かふざけた内容だよ。何だよ、『ステータスオープン』って」


 俺が本に書かれていた言葉を口にした瞬間であった。

 目の前に半透明のデータのような物が映し出される。


 露木玲央

 HP 8 MP 5

 腕力 2 防守 2

 魔力 4 敏捷 6 

 運  3

 スキル 

 帰宅 1


「……何だこれ?」

「レオ、ステータスって言ってたよな」

「あ、ああ……ってことはこれ、ステータスってこと?」

「みたいだな……ステータスオープン」


 俺の真似をしてゴンも同じようにデータを開く。


「ふーん……本当にステータスが表示されるんだ」

「ゴンのステータスか……」


 俺は起き上がり、ゴンの開いた画面に目を通す。


 権田愛花

 HP 15 MP 2

 腕力 15 防守 6

 魔力 1 敏捷 1 

 運  3

 スキル

 暴食 1


「やっぱ腕力すげーな、お前」

「レオの腕力はどんなだったんだよ?」

「……2」

「そうか……ドンマイ」

「慰めてんじゃねえ! へこんでねえわ!」


 俺の肩に手を置いたゴンの手をはたき落とす。

 俺は断じてへこんではいない。

 ゴンの腕力が高すぎるだけなんだ。

 俺の腕力は決して低くない。

 ……ゴンが高すぎるだけだよね?


「ステータスが開けるのは分かったけど、どうするんだ、これから?」

「えーっと……」


 俺は本の内容を確認するべく、もう一度本に目を通した。


「……うん。モンスターを倒すことによってレベルが上がるみたいだ」

「ふーん。ゲームの世界みたいだな」

「ああ。それから、モンスターを倒すことによって、アイテムを入手することができる……それで生活をしろだとさ……って!」


 俺は本を床に叩きつけ、大声で叫ぶ。


「この世界で生きていけってのかよ!」

「帰り方が分からないなら、そうするしかないよな」

 

 ゴンは至極冷静にそう言う。

 やはりポテチを食べながら。


「お、お前は不安にならないのか? こんな状況で」

「別に。レオがいるし怖くもなんとも無い」

「……ときめかないよ! そんなこと言われても俺はときめかないからな!」


 ゴンの嬉しい言葉にときめきはしなかったが、内心喜びに満ちていた。

 こんな時だってのに嬉しいこと言ってくれちゃって。

 俺もゴンがいたら……いや、ゴンがいても不安は不安だ。

 

 俺たち、これからどうなるんだよ……

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