第2話 宝玉

 夜中になり、ゴンと共に学校へ忍び込んだ。

 俺は私服、ゴンは上下ジャージ姿だ。


 職員室のある校舎に地下へと続く階段がある。

 こっそりと階段を降りて行き、あまりにも静かな雰囲気に俺はひっそりと怯えていた。

 怖いよね。夜の学校って。


「ゴンは怖くないのか?」

「何が?」


 ポテチを食べながらドシドシ音を立てて歩くゴン。


「おい。お忍びだぞ。身分は高くないけどお忍び行動だぞ。もう少し音を控えめに……」

「大丈夫だって。バレても殺されやしないから」


 俺は呆れながら階段を下りて行き、とうとう『宝玉』の前まで到着した。


「さてと。ここに『宝玉』があるわけだけど……どうする?」


 目の前には扉があり、鍵がかけられているようで、『宝玉』にまで手が届かない。

 中は廊下のような造りになっており、全身鏡が立てかけられているだけで『宝玉』以外は何も無かった。


「壊す」

「壊すって、どうやって?」

「こうやって」


 ゴンは扉のノブを握り締め、力づくでそれを捻り上げる。

 するとバキッとノブが壊れ、扉があっさりと開いてしまった。


「なんてバカ力! 侵入したのバレるだろ!」

「バレても殺されやしないだろ」

「殺されないにしても退学になるかも知れないだろ!」

「退学になったら……養ってくれる?」

「養うか! 逆に養ってほしいぐらいだよ」


 至って平常心のゴン。

 俺はドキドキしながら『宝玉』へと近づいていく。

 『宝玉』は占い師などがよく使用しているような物で、人の頭ほどの大きさがある。


「…………」


 俺は『宝玉』を前に立ち止まり、大きく深呼吸した。

 これに触れれば【スキル】を習得できると言うわけか……

 緊張し、中々手が伸ばせない。

 しかし俺の横ではゴンが当然のように手を伸ばし、『宝玉』に触れていた。


「躊躇なしかよ」

「迷ってても一緒だろ? どうせ触れんだから」


 パーッと光るゴンの体。

 『宝玉』には何やら文字が浮かび上がっている。


「え、こんなあっさり終わるの? もっとこう、私はスキルに目覚めました! みたいな感じになると思ってたのにさ」

「ま、武活してる奴らは皆やってるやつだからな。そんな大層なことになってたら時間がかかって仕方ないだろ」


 ゴンと共に、浮かび上がった文字を確認する。

 そこに表示されていたのは【暴食】。


「【暴食】……」

「ああ。食いすぎだから。お前いつでも何か食ってるもんな」

「いつでもじゃない。寝てる時は食ってない」


 ポテチを食べながらゴンはそう言った。


「起きてる時はいつでも食ってるのかよ……そりゃそんな【スキル】になるはずだわ」


 武活動をやっていれば武活動に適した【スキル】を習得できると聞いていたが……ゴンは食べてばかりだから【暴食】を入手した。

 これは確かに、適当に触れたらとんでもない【スキル】を習得してしまうことになるようだな。

 

 だったら俺はどんな【スキル】を……

 もやしだから【小食】とかは止めてくれよ……


 ドキドキしながら、俺は『宝玉』に手を触れた。

 ゴンの時のように、俺の体も光り輝く。


 そして映し出される文字。

 

「……【帰宅】?」


 ゴンは俺が見るよりも早く、文字を読み上げてしまった。

 ……【帰宅】? 何それ?

 俺はパッと文字にかぶりつくように『宝玉』を凝視する。


うん。ゴンの言った通り、【帰宅】と表示されていた。


「【帰宅】って……帰宅部だからか! もう少しあったろ、何かさ!」

「ま、ネタにはなるからいいんじゃない?」

「ネタ作りにこんなところ来たわけじゃない! 少しでも自分が変わればいいと思ってここに来たの!」

「一歩踏み出せたんだから、それでよくないか?」

「こんな結果はあんまりだ……」


 そりゃ、凄い【スキル】は求めていなかったけど、【帰宅】はあんまりだろ。

 そもそもなんだよ、【帰宅】って。

 家に帰るのが得意になるとかか?


 俺はフラフラしながら、壁際にある鏡に手をついた。


「なあ、奥にも行ってみるか?」


 ゴンは部屋の奥から続く階下へと続く階段を指差してそう言った。

 ここから先はダンジョン……見たことないけど、モンスターがいるって話だよな。

 俺はゾクッと背筋に寒気を覚え、全力で頭を横に振る。


「いやいやいや。行くわけないだろ。だって俺の【スキル】は【帰宅】――」


 突如。


 俺が触れていた鏡が光を放ち始めた。

 俺とゴンは、鏡の方に視線を向ける。


「レオ……手品?」

「んなわけあるか! 俺はそんな器用な特技は持ち合わせていない。これは……俺にも分かんねえよ! 何が起こったんだよ!」

「知らね」


 相も変わらず冷静にポテチを口にしているゴン。

 鏡の光はさらに大きくなっていき、部屋全体を眩く照らす。


 あまりの光量に目を閉じる俺たち。


「っ。何だよこれは……」

「……レオ」

「え?」

「ここどこ?」


 ゴンの言葉に目を開くと――


 そこは見知らぬ部屋であった。


「え? ここどこ?」

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