第31話 地震

 謁見の間。

「シルビア、”迷い人”の様子はどうだ」

 皇帝シュナウザーが聖女シルビアに尋ねる。


「二人とも順調に力を付けているかと…」

 聖女シルビアが答える。


「うむ、先日のコロニアル城塞都市攻防戦でも、アストリア王国軍撤退の立役者であったと聞いている。迷い人を召喚を成功させた其方そなたの功績は大きいぞ」

「身に余るお言葉」

「其方にも何か褒美ほうびを用意せねばな」

「有難き御言葉。陛下、この場をお借りして、伏してお願いがございます。彼ら迷い人の待遇たいぐうをもう少し良いものにしていただけないでしょうか。待遇を良くすれば、彼らの活躍に更にみがきがかかることでしょう。陛下の大いなるご慈悲じひを…」

「う、うむ…」


「陛下、奴隷を甘やかせば付け上がるだけです。聖女殿もお優しすぎるのも如何いかがなものかと」

 宰相クラウドが口を挟む。


 ガタ、ガタガタ、タ、ガタン、ガタン、タン、ドッ、ドオ、ドーン。


 謁見の間が激震が走る。

「何事だ」

「「陛下をお守りしろ」」

 突然の激しい揺れに、謁見の間に緊張が走る。

「何事だ、至急、確認し報告せよ」

 近衛隊長が指示を出す。


「陛下に申し上げます。これは、異世界召喚に関する古文書にも記載されていたいにしえに聞く地震という災害かも知れません」

 聖女シルビアから言葉がれる。

「私に臣民救助しんみんきゅうじょ御下命ごかめいを。また、私に”迷い人”の二人をお貸しください。慈悲深い陛下の名声を城下に広めて参ります」

「陛下、この大地を揺るがすこの揺れが地震という災害かどうか分かりません。しかしながら、陛下自らが迷い人を使役しえきし、速やかに事態の収拾に動いたとの実績を作れば、”迷い人を召喚すると地力が衰え災害が起きる”といった言葉を封じることができます。聖女様が速やかに動かれることに、陛下の利得りとくはあれど、損失はございません。ここは聖女様に動いて頂いては」

「うむ、分かった。ではシルビア、迷い人を使役し、我が臣民をこの災害から救いだすのだ。頼んだぞ」

「クラウド、今回のこの揺れに関する情報をシルビアに集まる様、万事手配せよ」

「御意に」


 ***


「キャッ」

 激しい揺れに、遥はヨースケに抱き着いた。

「ヨースケ、怖い」

 僕は遥をあやしながら、辺りの様子を伺う。周囲の人達は揺れの激しさからか、立っているのも困難なようで、ほとんどの人達が地面にいつくばっていた。

 僕らは身体能力が上がった所為せいか、この揺れの中でも立ったままの姿勢を保つことができる。遥もよく見れば、怖がっているというよりも甘えて僕に抱き着いているだけのように見えた。

 

 僕はそんな遥をお姫様抱っこすると、上空に向かって飛び上がる。

 僕らは日頃の鍛錬たんれんの成果からか、浮遊魔法と風魔法を併用することにより、空へ飛び上がり自由に飛翔ひしょうすることまで出来るようになっていた。

 辺りを見回せば、古い小さな建物は倒壊とうかいしているものが多く見受けられ、ところどころ、土砂崩れが起きたかのように土砂があふれている場所も見られた。

 僕は使い魔のクーによる空からの更なる情報収集を遥に頼んだ。

 遥は使い魔クーとの情報収集の間、抱っこすることとを僕に要求してきた。

 僕は訓練場の傍に茂っている木の影に座り込むと、そのひざに遥を乗せ、その身体を包み込む用に抱きかかえながら、頭を撫でた。

 遥は満足そうに眼をつむると使い魔クーとの精神同調を始めた。

 遥は使い魔のクーと念話できるだけでなく、精神を同調させることにより、使い魔クーと視界を共有することができた。ただ、クーと視界を共有すると、遥の身体の身体制御がおろそかになるので、僕の膝の上に乗りながら、クーと精神同調をすることが多くなっていた。


 僕は遥の頭を撫でながら、自分の使い魔ウルと念話で連絡を取り、ウルの母親フェリルの元に行き、森の様子とこの地震について聞いてくるよう頼んだ。

 果たして、フェリルはこの地震のことをどう思っているのだろうか。僕達の召喚と何らか関係があるのだろうか。そんな想いを巡らせていると、


「ヨースケ殿、ハルカ殿」

 聖女シルビア付きの侍祭であるアイリカが、傍まで駆け寄ってきて、僕らに呼びかけてきた。

 アイリカからは、先ほど起きた大きな地震で被害を受けた王国民の救済活動と被害状況の調査について、シルビアが行うこととなり、その手伝いをお願いされた。

 アイリカの話では、聖女シルビアが皇帝シュナウザーから地震により災害からの救済活動を命じられたと共に、シルビア自身が受けた下命を僕ら二人が手伝うことについても皇帝より許可が下りたことも併せて知らされた。

 アイリカは聖女シルビアとの連絡役として、派遣されてきたとのことで、僕らと一緒に先行して、被災者の救済活動と地震による被害状況の調査を行うこととなった。

 アイリカは聖女シルビアの侍祭として、普段は聖女シルビアの身の回りの世話をしているのだが、その実態は聖女シルビアの使い魔で狐の魔獣が人化した姿であった。 

 最も、周りの人達はその事実を知らず、只の侍祭としか認識されていないのだが…


 遥は、使い魔のクーを辺り一帯に飛び回らせ、周囲の情報を集めた。

 遥は、使い魔のクーとの精神同調による視界共有により、クーが飛び回って得た情報を次々と僕に伝えていく。


「王都のあちらこちらで家屋が倒壊し、山の斜面に当たるところではところどころでがけ崩れが、中には家屋にまで土砂が流れ込んでいるところもあるわ。それと、煙が立ち上っている場所も幾つか見える。最も、被害が大きそうなのは王都の北側かしら…」

 遥がクーとの視界共有で得た情報を刻々と伝える。

 僕らは急いで現場へ急行するべく移動を開始した。


「遥、先ずは北側へ行こう。アイリカさんも宜しいですね」

「…、ええ、お願いします。シルビア様にも了解を得ました」

 聖女シルビアとアイリカも互いに念話で連絡を取り合うことが可能なようだ。

「遥、行こう。案内してくれ」

 僕らは、遥の案内に付き従い、現場へ急行した。

 

 道中、アイリカから、

「街の人達の救援・救護を最優先でお願いしたい、もし、貴族や街の警備兵からの横やりが入ったら、『皇帝シュナウザーの命をうけた聖女シルビアの指示で動いている。貴方あなた達は皇帝の意思をはばむのか。文句があるなら聖女シルビアに言え』と言って、貴族達の主張を無視して僕達の思うとおりに救援・救護活動をして欲しい」

と聖女シルビアから伝言を伝えられた。



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