第21話 夜襲

「今回の特別指令に係る戦略物品補給のための司令官特別免状だ確認してくれ。貴君らにも本作戦に対する協力をいただく」

「ハッ」 

 僕と遥は、帝国第八方面軍司令官であり、かつ、コロニアル辺境領の領主であるマグカート辺境伯から発行された今回の作戦を実行するに当たって、必要な物資を確保することを許可する特別免状を示して、好き放題に備蓄と食糧を備蓄庫から亜空間倉庫に蓄えていった。

 正直に言えば、今回の作戦では夜襲時に火を放った時に、延焼えんしょう拡大かくだいの助けとなる油などのたぐいのほかは特に必要な物は無かったのだが、先程の軍議で決まった僕らの夜襲やしゅう敢行かんこうに当たって、必要な物資を求めたところ、好きなものをもってけ的に作戦を履行りこうするに当たっての糧秣りょうまつの準備を含め、作戦の立案、実行まで全てを丸投げ的に任された。

 そんな折に発行された特別免状を使って、ここぞとばかりに備蓄庫から必要以上の物品を備蓄庫から運び出し、自分たちの亜空間倉庫に移し込んだ。

 それでも、僕たちが亜空間倉庫を使えることを内密にしていること、更に、ほぼ二人きりのミッションで使うことができる物量に限りがあるということも影響して、大手を振って持ち出せる物品の量にはああ限界があったのだが…


 深夜、僕と遥はクーの背に乗り、敵陣の上空にいた。

 クーは鷹に似た大きな鳥の魔獣で、遥お気に入りの使い魔である。


 僕らは敵陣の陣容じんようを粒さに観察する。


「下に見えるあの大きな物は攻城兵器みたいだな」

遥に話し掛ける。

「1、2、3、6機ある」

 遥の回答をうけ、作戦を指示する。

「遥には、あの攻城兵器の破壊をお願いするね」

「わかった。ヨースケは?」

「僕は陣の後ろの方に見える食糧らしき荷車の集積場、3か所の焼き討ちに行ってくるよ。攻城兵器破壊の後は集積所焼き討ちの応援をお願いしても大丈夫かな」

「分かった」


 二人は上空から、再度、敵陣の状況を観察したあと、敵陣から見て、小山のかげになる場所に降り立ち、待ち合わせていたウルと落ち合う。

 暗闇から浮き出るように現れた漆黒の狼が、僕の使い魔である狼の魔獣ウルだ。

 敵陣後方に食糧や武器らしきものを積んだ荷車の集積している場所が三か所程あることを、先程、上空から確認している。僕は素早くウルの背に乗ると、その集積場所の一つに向かって移動し始めた。

 集積場所のそばまで来ると、僕はウルの背から降り、傍に設置されたテントの物陰に隠れる。ウルもその姿を暗闇に溶け込ますように消し、その姿を隠した。


 一方、クーと共に上空に漂っていた遥は、油の詰まった革袋を亜空間倉庫から次々と出し、攻城兵器へ向けて投げ落とした。


「パシャ、パシャ、パシャ」

「何の音だ!?」

 攻城兵器の周りで警備していた兵士達が騒ぎ出す。


「おい見ろ、革袋のようなものが転がっているぞ」

「なんか周りが濡れていないか」

 兵士の一人が革袋を拾い上げる。


「オイッ」

 革袋を拾った兵士に、別の兵士が語り掛ける。

「これは油だ⁉」

 革袋を拾った兵士が答える。


「「エッ⁉」」

「「なにっ⁉」」

 周りの兵士達が騒ぎだす。


 その時、突然、上空が明るくなり、攻城兵器のある辺りが照らし出された。


「おい、上を見ろ」

「「あれは、何だ?」」


 突然、明るくなった上空を見上げると、人の頭ほどあるのではないかと思われる大きさの炎のかたまりが十個程浮かんでいるのが見えた。

 更によく見ると、浮かんでいる炎の玉と一緒に大きな鳥に乗った人影も見えてくる。

「”迷い人”の襲撃だ」

 兵士の一人が、人影に向かって、あわてて矢を射かけるも、矢は途中で失速し人影までは届かない。他にも何人かの兵士が追従して矢を射かけるが、やはり、矢は人影まで届かなかった。

 そんな兵士達をあざ笑うかのように、オレンジ色に輝いていた炎の玉は、その色を黄色、そして白色、最後には青白い色へと変化させていく。

 兵士たちは、はるか上空に浮かぶ炎の玉から感じる威圧感とその熱量からか、一歩、二歩、三歩と後ずさった。

 青白く輝く炎の玉が攻城兵器に向かってゆっくりと降下していく。


「逃げろ、総員退避」

 兵士達の怒声が響く中、青白い炎の玉が攻城兵器のある辺りに次々と撃ち込まれる。

「ドーン」

 炎の玉は攻城兵器に当たり炸裂した。かなり高い温度まで昇華された炎だったのか、青白い炎のかたまりが当たった攻城兵器は、溶け出し、燃え上がった。

 炎弾を撃ち込まれたアスタリア軍の攻城兵器があった場所は、地面が窪み、そこにあった土や石が溶けたのか、ガラス状に黒く固まっていた。

 辺りに残ったものは、ところどころ溶解した攻城兵器の部材らしき鉄部の破片だけだった。


「油は要らなかったかもね」

 鳥の上の人影は独り呟くと、その場から消えていった。


 アスタリア王国軍総司令官であるアスタリア王国第三王女ネターニャは、突然、響き渡る爆音に自身に当てがわれ休んでいたテントから飛び起きると、控えていた側近に尋ねる。

「何事ですか」

「直ぐに確認を取ります。しばらくお待ちを」

「司令部へ移動します。全軍に第二種警戒態勢を発令し、その場での待機を指示すると共に、異常事態発見時には、各人の速やかな司令部への報告の徹底を指示してください。併せて、斥候部隊には周囲の索敵の指示を、それと幕僚達に司令部への収集命令の伝達をお願いします」

「「はっ、直ちに」」

 第三王女ネターニャ総司令の命を受け、側近達が動き始める。

「皆さん、司令部へ行きます」

 ネターニャはそのまま護衛に就いている自身の近衛兵達と共に司令部となっているテントへ移動した。

 アスタリア王国軍司令部では、遥が起こした奇襲攻撃による爆音と閃光せんこうにより、あわただしい動きが始まっていた。

 






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