第15話 クーの母親

 別れ際、ウルの母フェリルから、ここより南方にある山にクーの母親がいるのでクーを連れて是非一度会いに行って欲しいと頼まれたので、僕たちは快諾した。


「では、頼んだぞ! ξιεζη…」

 フェリルが呪文のような言葉を唱えると周囲の景色がぼやけ始め、気が付くと違う場所にいた。

『えー、まさか!? クーの母親に会うのは、そのうちにって意味だよね? まさか、今すぐにって意味じゃないよね!?』

 僕の心の中の疑問を余所よそに僕らは知らない場所にいた。


「えっ、ここ、何処?」

 遥が呟く。

「ピィー!」

 クーが大きな鳴き声を上げ、翼を広げ飛び上がる。

「クー待って」

 突然、羽ばたいていったクーを呼び戻そうと、遥は声を上げる。

 クーは、遥の静止の声にもかかわらず、目の前にそびえ立つ大きな木の頂上付近へ向かって飛び去っていってしまった。

 目の前にそびえ立つ巨木の幹は30m程の太さだろうか、高さはちょっと分からない。


「クーが戻ってこない…」

 遥が涙声で呟く。

「大丈夫、すぐに戻って来るよ。ここでクーを待とう」

 僕は遥を慰めながら、辺りを見渡す。

 周りは緑豊かな広場のような場所で端の方には泉のようなものも見える。

 辺りは小動物や小鳥がたわむれ、色とりどりの草花が咲き誇っていた。

 僕は辺りの景色の素晴らしさに言葉を失う。


「クーちゃん…」

 遥は相変わらず涙ぐみながらクーの名前を呼んでいる。周りの景色は目に入らないようだ。


 10分ほど経っただろうか。

「ピー!」

 クーの鳴き声とともに、遥の許へクーが戻ってきた。

「クーちゃん」

 遥はクーを抱きかかえ嬉しそうにクーを撫で上げる。

「クー、クー」

 クーが答える。


「えー!?」

 遥が突然、奇声きせいを上げる。

「遥どうした⁉」


 僕は遥に声を掛けながら近付こうとした足が止まる。

 大木の頂上付近から大きな美しい鳥が急降下してきた。

 その鳥は金と銀の鮮やかな色の美しい鳥でおごそかさをを感じさせる威厳と華麗な美しさは兼ね備えた大きな美しい鳥だった。その鳥ががこちらに向かって羽ばたいて来たかと思うと、華麗に僕らの前に舞い降りた。


「人の子よ。我が子を救ってくれて礼を言うぞ」

 目のまえに舞い降りた大きな美しい鳥は、クーの母親だった。

 僕たちは、クーの母親から熱い歓迎を受け、美味しいそうな木の実や果物を僕らにたくさん振る舞ってくれた。

 クーの母親とウルの母親は古くからの友人で子供が生まれてからもお互い行き来していた仲だったらしいのだが、互いの子が行方知らずになってからはその交流も途絶えていたらしい。

 僕らがここに来た経緯を聞いて、喜ぶと共にウルの母親に会いに行かなければとも言っていた。

 クーの母親からは、改めて子供のことをよろしく頼むと言われた。

 ウルもそうだが、クーも長命の種族で、若い頃の他者との関りは子の成長に著しい影響を与えるらしい。

 特にこの世界で最大数を占める人族との接触は、大きな転機をもたらすとの話であった。

 育ちの違いで、人族をあなどさげすむ者、人族の知恵と生き様に興味を示し人族をいつくしむ者、人族を嫌悪或いは興味を示さず人族と距離をとる者など様々な個体がいるとの話だった。しかし、中には人族を侮り、或いは敵対した結果、その命を散らしてしまいその長寿を全うできない個体も一定数いるとのことであった。

 クーの母親の話では、だからこそ、幼生体から成体になる頃にこの世界で最も数の多い人族の生態や性格を知ることは、長命種とはいえ希少種である我々にとって非常に有用であるとを教えてくれた。

 そして、クーのことをくれぐれもよろしくお願いしたいとの話をもらった。遥は大喜びでクーを大事にするとクーの母親に約束していた。

 クー達長命の種族にとって、人との付き合いはほんのひと時の事に過ぎないが、人族の者たちと共に過ごすということは、クーにとって今後生きていく中での行動に大きな影響を与えていくことを知っていて欲しいと改めてクーの母親から告げられた。


 また、クーの母親からは、この世界のことについても教えてもらった。人族が主に支配している領域はこの世界全体の3割ほどで、主に平野部が中心であること。また、人族の支配の及ばない魔境あるいは秘境と呼ばれる地域が各地にあり、その地域にはその地を守るぬしと呼ばれる存在がおり、人族を寄せ付けないことが多いとのことだった。

 実際この地も人族からは秘境と恐れられ、クーの母親がこの地の主として君臨しているとのことであった。また、周囲には強い魔物を多く生息しており、人族がこの地まで入ってくることは殆どないとの話であった。

 しかしながら、僕らに対しては、クーを連れ度々たびたび顔を見せて欲しいと頼まれ、この場所へ転移できる魔法陣を刻まれた帰還石を十数個渡された。帰還石は使用した都度補完するので、気兼ねなく使って欲しいと何度も何度も言われた。

 遥はその頼みを快諾し、クーの母親と仲良くなっていた。


 クーの母親との和やかな懇談のあと、別れ間際には、雷≪いかづち≫の剣を僕に、そして風の剣を遥に贈ってくれた。

 そして、クーとウルには俊敏の首輪という身体能力の素早さを上昇させるアイテムをくれた。このアイテムは身体能力を上げ、動きを常に10%ほど加速させる効果あるそうだ。そして時間制限はあるものの、魔力を充填すれば加速させる能力を50%まで段階的に増加させることができる優れもののアイテムであった。これでウルとクーの機動力が大きく上がった

 別れ際、改めて、クーを連れて度々訪ねてきて欲しいと懇願された。

 僕が快く快諾していると、遥も横でうなずいていた。

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