第11話 訓練

 魔物との実戦の後の訓練は、基礎訓練を終わらせると、二人での連携の確認や前回の反省点を踏まえた模擬訓練と新しい戦闘方法の模索が中心となっていった。

 3日のうち、2日間が城での訓練、残り1日が魔物の森に行き魔物との実戦訓練という訓練パターンに移行していった。


 僕たちの戦闘スピードに、騎士アーノルドはもう完全についていけなくなっていた。剣技などは未だアーノルドに一日の長があったが、身体能力では僕らが完全に勝っていた。剣技などの技術についても今後も訓練で研鑽を重ねていけばアーノルドに追いつき並ぶことも視野に入るレベルに成長していた。

 そうなると、アーノルドは僕らとの模擬戦はやらなくなっていった。そして、以前のように理不尽に難癖を付けて、殴りかかられても簡単に避けられるようになるほど、身体能力に差ができていた。


 アーノルドの拳を避けるようになったら、

「貴様、俺の拳を避けるな」

とか意味不明な要求をしてきたので、遥かに被害が及ばないよう僕が受けるようにしたのだけれど、アーノルドの拳を受ける瞬間、無意識に身体強化を行っているようで殴られることによる痛みを感じなくなっていた。逆にアーノルドは僕を殴った拳を手で抑え、痛そうにしていた。それからアーノルドに殴られることもなくなっていった。

 また、アーノルドから教わることも、既に殆どなくなってきており、そうなると、アーノルドは暇そうにしていることが多く、僕達が真面目に訓練しているのを確認すると、いつの間にかどこかへ居なくることが多くなった。

 アーノルドと一緒にいる時間が少なくなって、遥は喜んでいた。

 隷属の輪で散々苦しめられただけでなく、理不尽に何度も殴られた恨みは中々忘れられないだろう。最ももう殴られても痛くなくなってしまったが…

 しかし、はっきり言って、僕もアーノルドのことは嫌いだ。殴られた恨みもあるが、遥を散々いじめた事実≪こと≫を僕は忘れない。何時か機会があったら仕返ししてやろうと思っている自分に驚いている位だ。

 だが、アーノルドのことより、遥が先走って何かしないかが心配だ。仮に、アーノルドに仕返ししようとして、遥が暴走した結果、遥の身が無事でいられるだろうか。アーノルドの武力が既に脅威で無くなったとは故、アーノルドの背後には帝国、皇帝がいる。そして隷属の輪もある。

 兎に角、可愛い遥を守らなければ…


 一方、聖女シルビアとは未だに一緒に訓練をしている。以前のようにシルビアから一方的に教わるばかりの形ではなく、一緒に鍛錬を行い、切磋琢磨を繰り返しながら、互いの技能を高めていく形へと教え方のスタイルに変化はあるものの、魔法に関してはシルビアから得るものは未だに多い。

 最も、シルビアも一緒に訓練すると自身の能力が上昇することが実感できるだけでなく、自分自身では無かった発想を二人から得ることができ、いろいろと勉強になると言っていた。

 また、シルビアからは、講義の中で、言語やこの世界の歴史や地理、一般的な物の考え方や一般常識など教えてもらっているだけでなく、訓練の合間の雑談の中からも、この世界を生きていくうえで必要なことやヒントを教えてもらい非常に役に立っている。


 僕達は日を追うごとに確実に力をつけていった。

 特にシルビアから治癒魔法と空間魔法を修得できたことは今後この世界で生きていくうえで大きな収穫だった。


 治癒魔法は遥の傷や状態異常を癒す力があり、遥の身の安全を常に心配する僕としてはとても重宝した。

 また、訓練後の傷や疲れも癒すことができ、遥と二人で治癒魔法をお互い掛け合うことで、連日の激しい訓練も十分耐えられることができているのだと思う。


 空間魔法は異なる空間を瞬間的に繋げることができ、様々な制約はあるものの、結果として瞬時の移動が可能となった。

 その他、亜空間に個人的な倉庫を作る魔法も非常に重宝した。保管できる量は術者の魔力の保有量に比例するとのことであったが、僕も遥も魔力の保有量はこの世界の住人に比べ桁違いに大きかったため、はっきり言って僕達が生成した亜空間倉庫の限界保有量がどれ程か分からない程の十分な広さがあった。また、亜空間倉庫の中は幾つか区分することができ、区分したエリアごとに時間経過や温度設定などの各エリアごとの環境を任意に設定することができた。

 異空間倉庫の中の時間の進み具合や温度の設定環境を変えるという概念はこちらの世界ではなかった様で、空間魔法を教えてくれたシルビアも、早速自らの亜空間倉庫の設定を変え、

「これは世紀の大発見だわ。正に空間魔法の新たな一頁を刻んだと言っても過言ではないわ」

と喜んでいた。


 そして、シルビアからは、

「この世界で空間転移の使い手は殆どいませんし知られていません。また、亜空間倉庫の魔法保持者は空間転移魔法の使い手よりはそれなりにいますが、それでも、それ程多いわけではありません。更に、異空間倉庫の保有量もそんなに大きくないのが普通です。だから、他の人に空間転移や亜空間倉庫の魔法が可能であることは秘匿することをお勧めします」

とシルビアからは助言された。


 特にシルビア自身が瞬間移動の魔法を使えることは絶対に誰にも言わないで欲しいと念押しされた。更に、亜空間倉庫のことについてもできる限り、特に保有量や時間設定、温度設定の話などは他の人には言わないで欲しいと頼まれた。

 瞬間移動の貴重さもだが、どうもシルビアの言動から察するに亜空間倉庫の保有量もこちらの世界の人たちから比べるとあり得ない大きさで、シルビアがその能力を保持していると周りに知られれば軍事利用とかに使われかねない恐れもあり、とにかく内緒にして欲しいと懇願された。


 聖女様でも隠し事をするのかとちょっと意外に感じたものの、そんな魔法を僕らに教えてくれたシルビアに僕は感謝した。

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