第12話 使い魔

 聖女シルビアから受ける講義の中に「使い魔」の話があった。

 事例としては、非常に少ないが魔物を使役できることがあるという。これを一般的に「使い魔」或いは「従魔じゅうま」と呼び、これを使役できる者を「従魔士」と呼んでいるという。


「どうしたら使い魔を得ることができるの?」

 珍しく、遥が発言する。


 遥は日々の訓練も真面目に行っているほか、シルビアの講義も何時も真面目に聞いていた。

 しかし、騎士アーノルドや聖女シルビアとは会話したくない様で、遥自らが発言することはほとんどない。

 そんな、遥が質問するということは余程興味をかれたのだろう。


「はっきりとした定説はありません。ただ、知性を持った魔獣と心が通じ合った時、初めて可能になると言われています。

 魔獣との心と心の信頼度によって、従魔士との関係は異なってきます。互いの契約により、魔力パスが繋がり関係が維持されていくのですが、基本的に従魔士から魔獣へ魔力を供給し、その見返りに魔獣は従魔士に従うと言われています。

 従って、従魔士と呼ばれる者であったとしても、自身が保有する魔力量を超えるような大量の魔力が必要となる強い魔獣やたくさんの魔獣を従魔として従えることはできません。

 また、従魔契約は互いの相性が合わなくなったり、互いの信義則が裏切られた場合はどちらからでも解消することができます。

 中には、従魔契約を装い従魔士に近づき、従魔士を食い物にする狡賢ずるかしこい魔獣もいると言われていますので注意しなければなりません」


 シルビアの説明は分かり易かった。

 だが、従魔を得るための確実な方法を示すものではなかった。ただ、魔獣と何らかの関係を持てたとき、魔力を魔獣の身体に流し込むと契約が成立すると言われているとの話であった。


「ヨースケ、私、使い魔、欲しい」

「分かった。今度、森へ行った時、試してみよう」

「うん」

 僕と遥は、森での訓練のとき、魔獣に魔力を流してみて試してみようと話し合った。


「鳥の使い魔が欲しい。狐の使い魔も欲しい。」

 珍しく自分の欲望をあらわにしている遥だった。


「使い魔ゲットできるといいね」

 僕はそんな遥の頭を優しく撫でると、何時ものようにその身を僕に預けてきた。僕らはその後も使い魔の話をした。


 二人で話し合った結果、ゴブリン、オークは絶対止めておこう。

 狙いは、鳥獣系、狼や狐系、そして猫系を従魔にすることを狙い、いろんな状況で魔力を流し込んで試してみようと決めた。


 今日は森での実践訓練の日、この頃は騎士団の付き添いもなく、二人きりでおもむき、結果報告だけをアーノルドに行うようになっていた。

 結果報告時には取ってきた魔獣の肉を半分アーノルドに渡すことが恒例となった。残りの半分はシルビアへの差し入れと僕らの晩御飯としてアンナとメリーの元へ持ち込むのが日常と化していた。アンナとメリーに渡した分は、当然他のメイドや料理人の胃袋にも収まるので、比較的好意的に見られ、僕らの扱いは悪くなかった。


 今日は使い魔を探して森の奥まで来ていた。

 今まで出会ったのはゴブリン、オークとビックボアなど何時もの相手、使い魔にするのは遠慮したい存在だ。

 中々、使い魔にしたいという存在には出会えない。ある意味想定の範囲内ではあるものの、僕としては少し残念だ。一方、遥は今日の森への実戦訓練に相当の思いを込めていたらしく、かなり凝っているように感じられる。


 森の大分奥深くまで来た。

 ここら辺りが限界だろ。この辺りに出現する魔獣に、今のところ勝てないということはないが、結構苦戦している。正直言って、更に格上の相手が複数現れたら結構危ない。

「遥、そろそろ引き返すぞ」

「…」

 遥は、使い魔を見付けられなくて心残りのようだ。


「機会はまたある。今日は野宿の予定だ。明日もある。それに、今後は3日に一度位の割合でこの森で鍛錬を繰り返す予定になっているんだ、ゆっくりと、いい使い魔を見付けよう。取り敢えず、安全に野宿できる場所まで引き返そう」

「…、分かった」

 遥はようやく、僕の言葉に従い今来た道を戻りだす。

 遥の使い魔に対する思い入れはかなり深いものがあったようで、意気消沈している様子がありありと見える。


「遥行くぞ」

 僕は遥に声を掛けると遥の手を引きながら、足早に森の深部から立ち去るのだった。 


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