第5.5話 阿倍 遥2
訓練が始まった。
訓練は確かにきついが耐えられない分けではない。
元の世界でもそれなりに、身体は鍛え上げていたから。
私の家は平安の頃から続く陰陽師の家系。幼いころから、陰陽術、剣術、弓術、合気道など様々なことを習得させられた。体力作りも常に怠っていない。
それよりも、あの男が気に食わない。
私を殴る。彼のことも殴る。そして、また、私を殴る。
『いや、いや、痛いのはいやだ』
怖い、怖い、あの男が怖い。私の心が折れていく。
『助けて、助けて、ヨースケ』
いつの間にか武術の訓練は終わっていた。
身体が動かない。
何か呪文のようなものが耳に聞こえてくる。
身体から淡い光が発せられる。
何故か身体の痛みと全体に感じられる疲労感が、そして、あの男に殴られた跡がきれいさっぱり消えて無くなっていった。
今度は魔法の訓練らしい。
身体の中の魔素を感じろと言われ、座禅を組む。
身体の中に気を向けるがどこにあるか分からない。
でも、幼い頃から感じていた霊気の塊は感じられる。元の世界で感じていた霊気よりも、その量が格段に増えている感じがする。
魔力はよく分からない。この霊気を集め霊力へと練り上げる。中々上手くいかない。でも、少しづつ慣れてきた。私は手を前に突き出し霊力を放出する。手の平から淡い光が漏れ出す。更に霊力を練り上げ放出すると手から光の玉が出現した。
これが魔法らしい。こちらの世界では、霊気のことを魔素、霊力のことを魔力と呼ぶようだ。
これなら、簡単だ。私はしばらく光の玉の発現の練習を繰り返した。問題なく発現できる。思わず笑みが零れた。こちらの世界に来て久々の達成感を味わった。
ヨースケとあの女が話をしている。
「…かなり特別でちょっと危険な方法なのですが、…感じる…方法があります。やってみますか」
え、ヨースケそんな女と止めて⁉
「はい、お願いします」
お願い、止めて、私を棄てないで…
「大変危険で、………、特に遥さんと二人きりで試たりしないことを約束してもらえますか」
な、何、どういうこと。この女、私からヨースケを取り上げるつもり…
「はい。分かりました」
『ヨースケどうしてあの女の言うことをきくの? お願い、お願い私を、私を棄てないで…』
面と向かって言えない私は心の中で強く叫ぶ。
私の意に反してヨースケがあの女の正面に立ち両手を広げている。そして、あの女がヨースケの手を繋ぐ。
『いやよ、止めて!?』
あの女からヨースケの身体へ魔力が流れている。そして、ヨースケからもあの女へ魔力が流れ始めた。
『だ、ダメ、私もヨースケの魔力を感じたい』
「キャァ」
あの女がヨースケに押し倒されている。
『う、うらやましい…』
あの女の顔は発情したメス豚の顔だ。
「ア、ヤン」
ヨースケの手があの女の胸に伸びている。
『お願い、もう、止めて』
と心の中で叫ぶ。これ以上二人の様子を直視できず目を
「バシッ」
私の願いが叶ったのか、なにか叩く音がした後二人は立ち上がる。
でも、二人とも顔を真っ赤にしてとても仲が良さそうだ。
その後も、仲良さげに何か喋っていた。
私は二人を見ていられず、独り魔法の練習を始める。
『ダメ、集中できない』
目を開けると二人は、また、顔を赤らめながら仲良さげに二人で話していた。
「……」
「いえ、私こそ
ヨースケの言葉がよく聞き取れない。あの女の言葉も、最後の方は尻つぼみな感じになりよく分からない。ただ、二人の仲に甘い雰囲気が漂い始め、あの女が顔を赤くしながらヨースケに色目を使っているのだけは分かる。
そんな二人の様子をジーっとみていることだけしかできない自分が悲しい。
『グヌヌヌ、あの女狐、ヨースケに色目使いやがって』
やはり、言葉には出せず、ひたすら、心の中で罵倒する遥であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます