第5話 訓練
訓練場に行くと騎士アーノルドが待ち構えていた。
僕達二人は訓練場に立たされると、明日から同じ時間にこの場所へ集合するようにアーノルドから言われる。
どうやって時間を確認すればいいのかを尋ねると、
「口答えするな」
と殴られた。
「お前らが吐いて言い言葉は『分かりました』と『はい』だけだ。それ以外は俺が質問し、喋ることを許した時だけ、特別に他の言葉を喋ること許す。以上、分かったか」
「…」
余りの理不尽な物言いに返す言葉を失っていたら、
「返事がない」
と殴られた。
僕だけでなく彼女も殴られたので思わず
当然のように彼女も殴られた。連帯責任だそうだ。意味が分からない。理不尽だが逆らうことができない、僕らは必死に耐える。
ランニングを一時間、その後、剣の基本の型の教えを受け、そのまま、剣の素振りを1時間、更にその後、剣の基本の型に崩れがないか見直しした後、また、素振りの繰返し。その後は弓の練習を何度も何度も繰り返しやらされた。
訓練の途中に何度か理不尽な理由で騎士アーノルドに殴られた。
手がしびれ剣を落とせば殴られ、教えられた型に乱れがあれば殴られ、息が乱れ返答が遅れれば、また殴られた。
彼女も同様に殴られた。殴られるに従い、彼女は心が折れてしまっていくのか、次第に騎士アーノルドが近付くと
何度も怒鳴られ、殴られ、身体がこれ以上動かなくなった頃、騎士アーノルドと入れ替わるように、僕らを召喚した聖女シルビアが現れた。
彼女は、僕らを見ると走り寄り、即座に
すると、今までの疲労と訓練で生じた傷、そして騎士アーノルドに殴られた
まるで、生き返ったような気分だった。
しかし、訓練はこれで終わりではなかった。
僕たちの疲れきった様子を見て、聖女シルビアは幾ばくかの休憩時間を与えてくれはしたものの、そのあとすぐに魔法の講義が始まった。
シルビアの話では、身体の中には魔素というものがあり、それを意識的に操ることにより魔力に変換される。身体の中で変換された魔力を身体から外に放出したものが魔法という現象を起こすのだと教えてくれた。
また、身体の中だけでなく、この大地や自然の中にも魔素が漂っており、これらを集め操作することにより魔力に変換することができれば、より強い魔法を使うこともできると教えられた。
ただ、自分の身体の中にある魔素以外の魔素、自然の中の魔素を操作し魔力に変換できる人は非常に少ないとのことであった。
魔法を使えるように成るには、魔素の存在に気付き、その魔素を操作して魔力に変換することができるようになることが大事で、魔素の存在を理解することとその操作能力を向上させることがこれからの訓練の中心になると教えられた。
早速、座禅を組み
はっきり言って、何が魔素なのか身体の何処に魔素の存在があるか全く分からない。この瞑想自体が上手くできているか分からない。はっきり言って迷走状態と言えた。
聖女シルビアが見本を見せてくれる。
シルビアの手の先がうっすらと光ると小さな光の玉が具現化した。シルビアは続けてもう一つ新しい光の玉を具現化させる。そして、それら二つの光の玉を手の平の上でお手玉のようにくるくると交互に円を描くように回転させる様子を見せてくれた。
「どうです。魔力を感じ取れますか」
何となく魔力のようなものが見えたような気もする。しかし、いくら身体の中の魔素を探しても心当たりに感じるものは何もない。ましてや、魔素の操作などできるはずもない。
小一時間程経っただろうか、いくら集中して取り組んでも全く上手くいかない。僕には才能が無いような気がしてきた。
魔法は使ってみたいけど…
阿倍さんも先ほどから真剣に取り組んでいる。
たまに彼女の身体から光のようなものが
聖女シルビアさんも阿倍さんの動きを注視しだした。
阿倍さんが手を前にゆっくり差し出す。しばらくすると、その手から光の玉が現れ始めた。
なんと、彼女が魔法の発現に成功した瞬間だった。
「阿倍さん、すごい」
僕は、思わず
「あ、ありがとう」
阿倍さんは、はにかんだ笑顔を浮かべながら、僕に一言返すと、また、光の玉の発現の練習に戻った。
しばらく、光の玉の発現を繰り返した阿倍さんは息を大きく吐き出すと、達成感からか再びはにかんだような笑顔を独り浮かべていた。その姿はとても可愛らしかった。
一方、僕は魔素を身体の中に感じ取ることが全くできず、やはり才能が無いのかと途方に暮れ始める。
「ヨースケさん、初めての魔法の訓練で、初日からできるようになる人は
「…」
聖女シルビアさんの言葉にも、僕は無言で返すことしかできない。
「ところで、かなり特別でちょっと危険な方法なのですが、一つだけ初日から魔素を感じ、魔力に変換する手掛かりを高い確率で与えられる方法があります。やってみますか」
「は、はい、お願いします」
僕は即答する。
「素人が行うと大変危険で、事故が起きると命に関わることもあります。他の人と、特に遥さんと二人きりで試たりしないことを約束してもらえますか」
「は、はい。分かりました。是非、お願いします」
僕はシルビアさんの言葉の意味を深く考えることもせず、魔法が使えるかも知れないということだけしか意識になかった。
シルビアさんに促されるまま、シルビアさんの正面に立ち、僕は両手を広げて静止する。それぞれの手にシルビアさんの手が添えられると、シルビアさんの手の柔らかさに僕は思わず緊張する。
「ヨースケさん、身体の力を抜いてください。こちら側の手から魔力を流し、反対側の手からヨースケさんの身体に流し込んだ魔力を回収します。では、いきます」
シルビアさんの手の先が淡く光ると、何か得体の知れないものが身体の中に流れ込んでくる。その得体の知れないものが身体中を駆け巡り、反対側にある右手から流れ出ていく。同時に激しい
「キャァ」
気が付けば、シルビアさんに
「アッ、ヤン」
僕の左手の先には彼女の豊満な胸があった。
「バシッ」
「ごめん」
慌てて謝る。左の頬が
僕は何とか彼女の身体に触れないように注意しながら立ち上がると、続いて、彼女が立ち上がるのに手を貸す。
顔が熱い、自分でも真っ赤になっているのが分かる。ちらりとシルビアの顔を見ると彼女も顔を
「ごめん」
改めて謝罪する。
「いえ、私こそ
シルビアさんの言葉は最後の方は尻つぼみな感じになり、よく聞き取れない。ただ、顔を赤くしているのだけは分かった。
「ヨースケさん、改めて、自分の魔素を、そして変換された魔力を、自身で感じて見てください。今度は、分かると思います」
シルビアさんの言葉に従い座禅を組み魔素を探る。先ほどの得体の知れないものが身体の
「魔素の
言われたとおり、臍の下辺りに感じる魔素らしきものと思われる塊を動かしてみる。
頭の辺り、右手、左手、右足、左足とぎこちなさはあるものの身体のあちらこちらに動かすことができるようになっていた。魔素が実感できる。
「シルビアさんできました」
「そうですか、良かったです。私も身体を張った甲斐があるというものです」
と微笑みかけられ、僕はまた赤面してしまった。
そんな二人の様子を、不満げな
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