第58話 子供好きな妖精 第三話
妖精の目撃情報の多い泉は森の奥深くにあるという。妖精の姿を目撃している者は皆四歳以下の子供であることを考慮してなのか、泉の近くは子供以外立ち入ることを禁止しているのだが、私は妖精を見ることが出来て捕まえることも出来ていたのでリツと一緒に泉のほとりまで行く許可を得ることが出来た。
リツのおじいさんであるドンポ卿の口添えもあっての事ではあるのだが、私はチャンスがあれば妖精を捕まえるか話をする役目を仰せつかった。命令されるのはあまり好きではないのだけれど、ここは相手の顔を立てておくのも必要な事だと思って仕方なく命令を聞いてあげることにした。
「あのね、リツは妖精さんを見たことが無いんだけど、お姉ちゃんは妖精さんを見たことがあるって聞いたんだよ。お姉ちゃんと妖精さんはお友達なの?」
「どうだろうね。私は妖精と話をしたことが無いからわからないけど、捕まえたことはあるよ。もう少ししたら妖精の巣があるかもしれないからちゃんと見てようね」
「うん、妖精さんに会えたらリツはお菓子をあげようと思ってるのです。おじいちゃんがくれたお菓子はあまりおいしくないから妖精さんにも食べてもらいたいのです」
「美味しくないお菓子はもらっても嬉しくないかもよ。あげるなら美味しいお菓子にした方がいいと思うんだけどな」
「美味しいお菓子はリツが食べたいのです。あんまりおいしくないお菓子は好きじゃないのです」
「好き嫌いはダメだよ。小さいときはいろんなものをたくさん食べないとね。大人になったら好きなモノばっかり食べればいいんだよ。私は好き嫌いあんまりないから何でも食べたりするけど、虫とかは食べたくないかも」
「リツも虫は食べたくない。妖精さんは虫とか食べるのかな?」
「妖精が何かを食べるのか知らないけど、虫とかも食べてそうだよね」
「ええ、リツは虫食べる妖精さんと友達になりたくないです」
「そんな事を言わないで仲良くしてあげなよ」
まだまだ小さな子供なのに意外としっかりしているなと思っていたら、いつの間にか泉の近くまで来ていた。それまでも綺麗な緑色の葉が生い茂っていたのだが、泉に反射している太陽光のせいか泉の周りに生えている木々の葉はより鮮やかな緑色で輝いて見えていた。
妖精の目撃情報が多いのはこの泉だと思うのだが、どこを見回しても妖精の姿は見られなかった。
とりあえず今日は会えなくてもいいかなと思って泉のほとりを散策することにしたのだが、泉の傍にある獣道を道なりに進んでいると小さな人形がたくさん置いてある不思議な小屋があった。入口は鍵がかかっているのでそのままでは入ることは出来ないようだが、窓から中の様子を覗いてみると、外に置いてある以上の人形が無造作に積んであった。何の人形なのかわからないけれど、見た目は可愛くないしどこかの部族の魔よけのようにも見えていた。それにしても、見れば見るほど気持ちの悪い人形たちだ。
私は気持ち悪いと感じていたのだけれど、リツはそう思わなかったらしく、外に置いてある人形をいくつか手に取って急に遊び始めた。人形遊びは小さいときにしたきりだが、リツは私の小さい時とは違って設定を細かく決める子供だった。
お父さんのお人形とお母さんのお人形とリツ本人。そして、なぜか私もその家族に加えてもらっているのだけれど、私の人形だけ薄汚れていて少し不愉快になってしまった。小さな子供が適当に近くにあった人形を持ってきただけだとは思うのだが、それにしても一番汚いのを私にしなくてもいいのではないだろうかと真剣に考えてみた。真剣に考えてみたのだが、小さな子供がやっている事なので深い意味は無いだろうと思う事にしょう。
リツは私の問い掛けにも応えないくらい集中して人形遊びをしているようなのだが、不思議な事にリツが動かしていない人形も勝手に動き出していた。これが何かの魔法だったとしても、魔力を持たない私はそれを調べる方法なんて持ち合わせていなかった。それが魔法だとしても私の持っているブレスレットで無効化しようとしても、私がそれを抱きかかえないと効果が無いので意味のない行動になるのだった。
リツは自分が動かしていない人形が動いていることに気付いてはいるのだけれど、それがどうして動いているのかは全く気にする様子もなく、自分の想定とは違う動きをする人形が楽しくてしょうがないようだった。小さい子供なんて身近で起こることは不思議なことだらけなんだから人形が勝手に動き出したって疑問に思わないのだろう。ちゃんと理解していることが少ないので不思議な事の方が多いという事は、世の中の不思議な事なんて今は気にするだけで一日が終わってしまうといった状態なのかもしれない。
だが、私はどうしてもその勝手に動いている人形が気になって仕方が無かった。私とリツを襲うにしては完全にタイミングを逃しているし、純粋にリツと遊びたいのだとしたら動きも見た目も気持ち悪すぎる。もう少し普通にすることは出来なかったのだろうか。そう思っていると、人形がテクテクと私の前へと進んできた。
人形は私の前で立ち止まると、顔を真上に向けてその口を大きく限界まで開いていた。今にも裂けそうなほど口を大きく開けた人形ではあったが、どうしてそこまで大きく開くのだろうと思っていたら、その口から人形以上に気持ちの悪い見た目の生き物が出てきた。私が捕まえた妖精に少し似ているけれど、どちらが気持ち悪いかと聞かれれば目の前にいる妖精が気持ち悪いと答えるだろう。そんな見た目の妖精が口を割って出てきたのだ。
「あんたってさ、何度か死んでるだろ。それで、生き返るたびに他の世界に行ってるって感じかな。あ、俺の事なら気にしなくていいよ。普通に生きている妖精だからさ。つか、大人がきてるって思って人形に隠れてみたのは良いけれど、あんたって見た目はおとなに近いのに肉体的には生まれて間もないって感じなんだよな。どういう理由でそうなったのか知らないけどさ、あんたっていろんな世界を転々としてるんだろ。俺もそう言うのに憧れたりもするんだけどさ、俺みたいな弱いやつは何度生まれ変わったって同じことを延々と繰り返すだけのようにも思えるんだよな。そんな事になったら俺は発狂しちゃうと思うんだけど、あんたってその辺も上手くやってそうだよね。え、妖精と人間の仲を取り持ってほしいってか。別に俺個人としては構わないんだけど、一つお願いを聞いてもらえると助かるよ。そのお願いってのが、ここを南に真っすぐ戻るとあんたたちが最初に入った場所に戻ると思うんだよね。で、ここを南じゃなくて北西に進んだ場所にもう一つ森があるんだけど、そこに住んでいる死人使いをどうにかして排除してもらえないかな。そいつが無駄な事をしているせいで俺たちは人前に出ることが出来ないんだよね。それで、その死人使いをどうにかしてくれたらあんたたちの手助けをしてもいいって思うんだよ。どうだい、死人使いを殺してくれるかな?」
「私はどうでもいいって思ってるんで殺してもいいかなって思うんだけど、今はこうして小さい子を連れているから我慢することにするよ。でもさ、その死人使いが何をしてるって言うのさ?」
「あの死人使いは陰険な奴でさ。もっとも、死人使いになるような奴はみんな陰険で陰湿で困っちゃうんだよな。あいつが妖精を殺しまくっているせいか、人間界と妖精界が少しずつ離れているような気もするんだよね。俺には離れててもくっついていてもどっちでもいいんだけど、美味いものを食って美味い酒を飲めればそれだけでもいいってもんさ」
「じゃあ、いったん帰ってみんなに相談してからまた来るよ。その時は一人かもしれないけど、君を呼び出すのに人形遊びが必須とかないよね?」
「それは無いから安心していいよ。俺もあんまり好きな動きじゃないんで、こういうイベントは早く終わらせたいからさ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます