第57話 子供好きな妖精 第二話
唯ちゃんの紹介で私はこの国で力を持っている政治家の家にお世話になることになった。
私がお世話になる家には小さい子供がいるのだけれど、私の捕まえていた妖精を見ることは出来なかったそうだ。この子はリツと言う名前で少しだけ引っ込み思案なところがあるようで、私と目が合ってもすぐに逸らすような子だった。だが、内気なだけかと思っていると、私と目が合うことが多かったので私に対して興味はあるようだった。それなのに、私に話しかけてくることは無く距離間の掴みにくい女の子だった。
「うちの子は人見知りが強くてね。私達以外にあんまり話しかけたりしないんだよ。おばあちゃん達もそれを悲しがったりしてるんだけど、悪いこともしないし今はそれでいいのかなって思っているんだよね。でも、みさきさんの事は興味があるみたいだから、出来れば仲良くしてあげてね」
「私もリツちゃんと仲良くなりたいんでいいですよ。あんまり子供と遊んだことは無いですけど、したいことがあったら何でも言ってくれていいからね」
「リツ、良かったね。みさきさんがリツと仲良くしたいって言っているよ。それに、この子が大きくなる前にフェアリスランドが昔みたいに人間と妖精が仲良く暮らす国になってくれるといいんだけどね」
「その辺は詳しく知らないんですけど、この国は妖精の国と戦争をしているんですか?」
「戦争はしていないんだけど、妖精の国に拒絶はされているんだよ。戦争だったらこっちからアプローチを仕掛けることも出来るんだろうけどね。私の父もそれが出来れば昔のように友好的な関係を結んで豊かな暮らしを送れるんじゃないかって考えているんだよ。今は政治主導なんでそんな考えも通るんだけど、私が小さいときは先代の国王が好き勝手していたそうなんだよ。その国王が妖精を裏切ったために人間と妖精の間に深い亀裂が生じたそうなんだけど、私は小さかったから詳しくは知らないし、教えてももらえなかったんだよね。そこで、妖精を捕まえることが出来るみさきさんなら人間と妖精の仲を取り持ってくれるんじゃないかなって思っているんだけど、そんな事って出来そうかな?」
「どうでしょうね。私が捕まえたのが妖精だって気付いたのはここに来てからだし、妖精を見付けたのも唯ちゃんにまとわりついていたのを偶然捕まえたってだけですからね。妖精が良そうな場所がわかれば捕まえることは出来るかもしれないですけど、捕まえたことで妖精側の人間に対する印象が悪くなったりしないですかね?」
「印象は悪くなるかもしれないけど、先代の国王がやったことに比べたら捕まえるくらいはどうって事も無いんじゃないかな。今度父が来た時に聞いてみようかと思うんだけど、みさきさんは協力してくれるかな?」
「ただでお世話になるのも申し訳ないので協力しますよ。私に出来ることなら何でも言って欲しいんです。でも、私の彼氏が迎えに来てくれたらその時はごめんなさい。彼氏の言うことを聞いちゃいます」
「あはは、そんな時は気にしないで彼氏に会いに行っていいんだよ。私達だって人の恋路を邪魔したいわけじゃないからね。みさきさんの彼氏って唯さんのお兄ちゃんなんだってね。唯さんはみさきさんよりずいぶん年上に見えるけど、みさきさんの彼氏も結構年が離れているのかい?」
「えっと、本来なら唯ちゃんは私の二歳下なんですけど、この世界とかいろいろな世界に行っている時に唯ちゃんは成長しちゃったみたいなんですよ。私も彼もほぼ元の世界にいた時の姿なんですけど、唯ちゃんともう一人いる先輩は大人っぽく成長しているんですよね。私も成長したかったけど、彼が私と変わらない感じなので問題ないかなって思ってます」
「私達はそういう風に転生したことが無いからわからないけど、転生にも色々あるんだね」
「私も自分で良くわかってないですけど、そう言うのもあるみたいですよ」
軽く聞いた話では、この国はもともと人間と妖精が協力し合って様々な作物の育つ豊かな国だったそうだ。今ではわずかな穀物を生産しているだけで、食糧は主に狩りで賄っているとのことだ。狩りで得る獲物は安定性が無く、近場で獲れるものも少なくなってきているせいか、安定して食料を確保することも難しいそうで、若い男性はほとんど家を空けて狩りに参加している。この家の主人も今は狩りに出ているそうなのだが、今のところ大きな怪我もなく毎回ある程度の収穫は得ている。だが、それも徐々に少なくなっていっているそうで、食糧問題の解決がこの国の一番の問題になっている。
その原因は先代国王が妖精の国王を裏切ったことが原因でこの国から妖精がいなくなった為らしい。妖精がもたらす様々な奇跡と技術によって安定した作物の生産はこの国が再び栄えるために最低限必要なものだとのことだが、今は妖精が人間を拒絶しているため交渉すら出来ない状態にある。それぞれの町を治めていた政治家が協力して先代国王を処刑したそうなのだが、その時にはすでに交渉すべき妖精がこの国から去った後だったのだ。国王主導の絶対王政から議会制民主主義へと変化したのだが、良くも悪くも絶対的な権力を持つものが消えて各地がそれぞれの力を持つようになってしまったことも、国土の荒廃が進んだ要因の一つとされている。先代国王とはかなり血の離れた現国王は政治的な発言力もほぼ皆無と言ってよく、何かあった時の保険と言った役割だそうだ。
そんな状況で人間と妖精が仲良くなることなんて難しいと思うのだけれど、豊かな時代を知っている大人たちはその過去を忘れることは出来ず、それを知らない世代の子供たちは大人から聞かされている妖精と暮らしていた豊かな世界を夢見ているのだった。
「あのね、リツも妖精さんを見てみたい」
「じゃあ、今度捕まえることが出来たら見せてあげるね」
私の服を掴んでいたこの子は妖精を見てどんな反応をするのだろう。私が想像していた妖精とは違う醜い妖精しか見たことは無いのだけれど、それを見ても泣きだしたりはしないのだろうか。その辺が心配だったりするけれど、まずは妖精を探すところから始めてみようかな。
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