第49話 最強魔導士誕生 最終話
「我々は卑劣な手によって多くの優秀な魔導士を失ってしまった。だが、失ったままで終わっていいわけではない。この国に残っている多くのモノも私と同じ気持ちだとは思う。その気持ちを抑えるためにも、殉職してしまった多くの者たちのためにも、我々は立ち上がりエンリ国を滅ぼすことにした。我々の力ではエンリ国を滅ぼすことは出来ないかもしれない。だが、我々にはみさき殿がついているのだ。生き残った魔導士諸君、そして、一度も戦いに参加したことのない男性諸君。共に立ち上がり、憎きエンリ国を亡きものとし、多くの英雄の無念をはらそうぞ」
この国の人達は私の言うことを疑うことは無いのだろうかと不安になってしまうのだが、そんな事は私の考えすぎだと言わんばかりに思い通りに事が進んでいってしまっていた。まー君の計画でもここまで信じてもらえるかわからないとのことだったので、最終的に疑っている人を全員殺して外堀を埋めて説得しようと話していたのだが、私達にとって都合がよすぎる展開になっていてここから先は何も考えていない。
ただ、これだけ私が信じられているという事はもう少し大胆にこの国の魔導士を殺してしまっても問題無いのではないかと思ってしまうほどだった。
実際に、何人か殺してはみたのだけれど、私以外に目撃者もいなかったこともあって、私が疑われるということは無かった。そもそも、私を疑っていた人が今まで誰かいたのだろうかと思うくらいに見当たらなかったのだが。
「それって、お母さんが殺されたってことなの?」
「そう言う事だと思う。私も助けようとはしたんだけど、着いた時にはもう遅かったんだよね。ヒカリは自分の手で復讐したいって思うかもしれないけど、私も自分の気持ちを抑えきれなくてさ、あそこにいた人達をみんな殺しちゃったんだよね」
「それは良いんだけどさ、お母さんが死んだって本当なのかな。私のお母さんは世界でも超一流の魔導士なんだし、そんな簡単にやられることは無いと思うんだけど、一体何があったのさ。教えてよ」
「私もにわかには信じられないんだけど、フェリスさんよりも強いまー君が何の疑問を抱くことも無く拘束具のトラップに引っかかったことからわかるように、仕掛けられているトラップを避けることは不可能みたいなんだよ。私みたいにトラップが反応しない人も中に入るみたいなんだけど、あのトラップって魔力が高ければ高いほど拘束力が強くなってしまうみたいなんだ。まー君はもう首から膝までを一切動かせないくらいだし、フェリスさんも手足は固定された状態で殺されていたんだよ。こんなことをヒカリに言うのは良くないかもしれないけど、フェリスさんは何の抵抗も出来ないまま殺されたんだと思う。フェリスさんだけじゃなくて、捕まったみんながそうだったみたいなんだけどね」
私はまー君が指示してくれた通りに魔導士を一人一人始末していたんだけれど、あの国にみんなが捕まったのは返って都合がよかったと思う。あの人たちが捕まらなければこの国にいる魔導士を全員を殺すのにかなり時間がかかるところだったのだが、中途半端に攻めてあっさりと捕まってくれたおかげで私達の計画は予想よりも速いスピードで最終局面を迎えることになりそうだった。
この国に残っている魔導士は百人を割り込んでいると思うのだが、中には全く出会う機会のない人もいるので正確な数はわからないのだ。もしかしたら、フェリスが一番強いと言われているだけでもっと強い人がいるのかもしれないけれど、しょせんは魔導士なので私の相手にはならないだろう。強い弱いが問題なのではなく、私に対して魔法以外の攻撃方法を持っていないことは致命的な欠点になってしまう。だからと言って、魔法以外の技を持っていたとしても、私の相手になることは無いと思うのだ。
ヒカリは何も気づいていないのかもしれないけれど、君のお母さんたちを殺したのは本当は私なんだよね。殺す必要なんてないし、殺すメリットなんてのも無いんだけど、私が多くの魔導士を殺すことでどんな成長をするのかまー君が見てみたいって言うんだもんね。それに、この世界から魔導士が一人でも減っていけば、ヒカリは最強に少しずつ近付いていくことになるんだよ。
この世界で一番弱い魔導士だったとしても、他に魔導士がいなければ最強を名乗ってもおかしくないからね。ヒカリが最強の魔導士になる方法なんてそれしかないってまー君も言ってたから仕方ないんだ。最強の魔導士になりたいなんて思わなければよかったのにね。
ヒカリが最強の魔導士になるまでに殺さなければいけないのが何人なのか数えてみたのだけれど、やはり私の知らない人が隠れているみたいで探すことは出来なかった。まー君か唯ちゃんに頼ってもいいのだけれど、ここは魔法を使えない私が行動するのが一番で唯一の正解なんじゃないかなって思っていた。
思ってはいたのだけれど、いよいよ隣の国に総攻撃をかける場面になったのだが、その中にヒカリの姿は見えなかった。
「あれ、ヒカリは参加しないのかな?」
「ヒカリは参加しないですよ。魔法も使えないし武器を持って戦うことも出来ないですからね。何か取り柄があればいいんですけど、ヒカリの取り柄って魔法が使えるって事だけなんです。それなんで、引退した魔導士と一緒に結界の維持に回っているんですよ。私達が攻めている間にここを抑えられてしまったら大変ですからね。あっちが拘束具で魔導士をけん制しているように、こっちは結界で全てを拒絶してやるんですよ」
「結界が出来るなら私達は自由に出入りできなくなっちゃうんじゃない?」
「それは大丈夫ですよ。私達の魔力はあらかじめ登録してあるんで、ここの結界に弾かれることは無いですからね。それに、私達は生きて帰ってこれるとは、正直思ってないですからね」
「そうか、ヒカリにもみんなの役に立てることがあるんだね」
「そう言っても、結界の維持に協力してくれている魔導士たちの身の回りの世話をやるだけなんですけどね」
「それって、結界に直接かかわっているわけではないってことなのかな?」
「そうなんですよ。もう少し魔力があればそれも出来るし、こっちに来て一緒に戦う事だって出来たんです。でも、あの子はいくら努力してもそうなれなかったのです。私もみんなもヒカリが凄く努力をしていることは知っています。フェリスさんもおばあちゃんもみんなそれを知ってます。知っているんですけど、あの子が成長できないってのも知っているんですよ。みさきさんと同じで、もともと魔法が使えなかったんですけど、少しは扱えるようになってきたんです。それも、初歩的な魔法が時々使えるレベルなんですけどね」
この子はヒカリの友達のテンスだったかな。一言で終わる質問に別の回答を混ぜつつ私に教えてくれた。普段だったら余計な説明を加えているなとしか思わなかったのだが、ヒカリが残って引退した魔導士たちと一緒に結界を維持する活動をしていると教えてもらえたのは収穫だと思う。
結界内にも隠れている魔導士はいると思うのだけれど、私はその人達を見付けることは出来ないのだ。魔力が無いので相手の魔力を感知することも出来ず、どこに誰がいるのかも検討すらついていない。
こうなったら、とっておきの手を出すしかなくなってしまう。最高に生かしている魔導士のまー君か、それなりに戦える美少女の唯ちゃんのどちらか。どうやって決めればいいのかわからなくて相談してみたのだけれど、発見と同時に殺さないといけない。なぜなら、そのまま逃げられてしまいそうな予感がするのだ。
私はいったんまー君に会いに行くことにしたのだが、その時にも一応監視はついていた。どれほど優秀な人材なのかは不明だが、私に一切隙を見せないという事は相当な手練れであるのは間違いなさそうだ。
私には出動命令が下されていないのである程度は自由に行動することが出来るのだが、そんな中で目的も無く街中を歩いているのは不自然だと思う。戦争状態にあるという事を鑑みても、今までで一番不自由な時間だった。
そんな不自由も一発で解決する方法があるのだ。
まー君の協力を得て私は外に出て、まー君はこの城の中にいる魔導士をあぶりだすことにしてもらおう。この作戦はきっとうまく行くはずだ。
私はまー君についている拘束具を思いっ切り引っ張ってみたのだ。他の人とは違って肉にめり込むような事態も無く、私の力で多少強引に拘束具を取ってみたのだけれど、他とそん色ない程度には美味しかった。
「みさきって、この拘束具の外し方って知ってたのかな?」
「知ってたけど、外すタイミングも重要らしいんで外さなかったんだ」
「そうか。それならいいんだけどね」
その後も他愛のない話をして残っている拘束具をすべて外してあげた。
久しぶりに自分の手足を使って行動しているまー君であったが、拘束されている間は時の流れがゆっくりなのか見た目は一切変わっていなかった。それは私も同じなのだが、唯ちゃんや愛ちゃん先輩は立派に成長しているのが納得できないかった。
別にこれから成長すればいいんだけど、こっちの世界では私もまー君も肉体的な成長はしていないような気がしてならない。何をしても体が重くなることは無く、身長が伸びることも無かった。
「じゃあ、僕はこの町に残っている魔導士を全員殺しておくね。ヒカリは後で必要になると思うんで、拾ったものは何でも持ち帰ることにしよう」
「この町の事はまー君に任せるとして、私は今から進軍している人たちを応援しつつ、絶妙な感じで魔導士を全滅させてくることにするよ」
「僕もそれに続きたいとは思うんだけど、この世界にはほとんど魔導士が残ってないみたいだよ。とりあえず、結界内の魔導士を全滅させてから玉座で待つことにするよ」
「それが良いかもしれないね。私も出来るだけ自然に殺してくるよ」
魔法を使えない魔導士のヒカリだけが生き残った場合、これから先はいったいどうなってしまうのだろうか。
私はそう考えてみたのだけれど、そうなる前にこの世界が終わりを迎えてしまうような気がしてならなかった。
私が以前殺しておいた魔導士たちも自我のないゾンビとして蘇っているのだが、どの作品も面白くなさそうなので私が進んで見ることは無いだろう。
エンリ国に近付くほどに攻撃は激しさを増しているのだが、我々の土地は精霊が宿っている可能性も高いらしい。
相手の攻撃に乗じて一人ずつ殺していったのだが、この状況に陥っているのに誰も私を疑わないというのは想像もしていなかった。
全員並べてまとめて殺す方法もあるのだろうけれど、そんな事をしなくてもここの人達は次々と死んでいくのだった。
私に向かって飛んでくるものは大体避けられるのだが、極稀に私の攻撃を担当している人もいるらしいのだ。そんな人は見たことも無いのだけれど、私は一緒に戦うことが出来て嬉しかった。
魔導士にとって重要な事は何なのか。それが何なのかまー君が教えてくれたことがあった。
「魔法使いにとって一番重要なのは生きて帰るってことだね」
この中で生きて帰れる魔導士がいるのだろうか。生き残ることが出来る人がいるとは思えないのだが、なるべくなら苦しまないようにしてあげることにしよう。私に出来ることと言えばそれくらいしかないもんね。
生き残っていた魔導士も私の手で一人二人と殺害していったのだが、結局何人殺せばいいのかがわからなくてストレスがたまりそうだった。
三時間ほど戦闘を繰り返していたのだが、敵も味方も綺麗に一掃することが出来たようだ。
私よりも暇な人がいた事にも驚いていたのだが、そんな人達も私に抵抗することも無くあっさりと死んでいった。
魔導士と相手国がほぼ全滅したと思うのだが、それでも生き残っている魔導士はいたようだった。
見つけ次第に殺してはいるのだけれど、私から探し出すことは出来なかった。
「お母さんの仇は打ってもらえたのかもしれない。でも、本当にこれで良かったのかなって思えてきたよ」
この世界がもうすぐ終わろうとしているのだけれど、ヒカリは無事にこの世界で一番の魔導士になることが出来た。
二番目以降はいないのだけれど、一番には変わりないはずだ。
ただ、それだけの話だ。
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