一人ぼっちの戦い編

第50話 一人ぼっちの戦い 第一話

 私のお母さんはとても優秀な魔法使いだった。私のおばあちゃんもひいおばあちゃんも優秀な魔法使いだった。私のご先祖様は皆優秀な魔法使いだった。

 でも、私だけ魔法が使えない。使うことは出来るのだけれど、何の役にも立てていないので、これなら使えない方がましだと思える。そんな落ちこぼれな私だけれど、お母さんも一緒に魔法を学んでいる仲間も基本的には優しくしてくれている。

 どんな時も私の存在を否定してくる人はいないのだけれど、その代わりに私のお父さんがおばあちゃん達に責められている場面は何度か目撃した。

 お父さんは男なので魔法は使えないのだが、その分優秀な技術を持っていた。魔導士用の杖を作ることも出来たし、魔力を高めるブレスレットやアクセサリーなんかも作っていた。あとから知ったことなのだが、私は生まれた時から以上に魔力が弱く、魔力探知の得意なおばあちゃんでも私の存在に気付かない程だったらしい。そんな私の魔力を高めるために、お父さんは魔力を強化する道具を色々と作ってくれていたのだそうだ。

 そんなお父さんも私が魔導士の学校に入る前にいなくなってしまった。当時はおばあちゃん達にきつく言われ続けたストレスで家出をしたのかと思っていたけれど、お父さんは魔法のキノコを探しに行って途中で魔物に襲われたという事を噂で聞いた。自分の命を懸けてでも私のために魔法のキノコを採ってきてくれようとしたお父さんの事が大好きだったので、そんな事で命を落としてしまったのがとても悔しかった。お母さんもおばあちゃんもお父さんがいなくなったことは知っていたはずなのに、仕事が終わって帰ってきてもお父さんを探そうとはしなかった。その時は少しだけお母さんの事が嫌いになっていたけれど、お母さんもお父さんがいなくなって辛かったというのは最近聞かされた。お母さんも辛かったんだと思うと、私は溜まっていた涙が一気に溢れてしまった。お母さんも泣いていたと思う。

 お父さんが命を懸けても見つけられなかった魔法のキノコだが、最近この町にやってきた転生者の佐藤みさきちゃんが何の苦労も無く採ってきてくれたのはどんな顔をして喜べばいいのかわからなくて困ってしまった。

 魔法のキノコは嬉しかったんだけど、後少し早くみさきちゃんがきてくれていたらお父さんは死ななくても済んだんじゃないかって思うと、素直に喜んでいいのかわからなかった。

 魔法のキノコ料理の味も全く分からなかった。


 魔力を高めるという噂のある魔法のキノコだったのだけれど、私が食べても何の効果も無く、お父さんが命を懸けてまで探しに行ったのは何の意味も無かったのだと思うと、私は怒りをどこにぶつけていいのかわからなかった。

 私の周りの人はみんないい人だし、他人からストレスを与えられることも無かったので、私は自分の中に溜まっているストレスとどうやって向き合えばいいのかわからなかった。ストレスを魔法の勉強にぶつけてみたのだけれど、勉強を重ねたところで魔力が高まるわけでもなく、基礎魔法とそれを応用した中級魔法と上級魔法の知識はあるのだけれど、私は基礎魔法を使うことも出来ないのだ。近所の子供でも使える基礎魔法を、この国を代表する魔導士の娘である私は使うことが出来ないのだ。

 ちなみに、転生者の佐藤みさきちゃんも魔法は使えないそうなのだが、魔法を使う必要が全く無いくらいに力が強く、様々な耐性も持っているようなので弱点が無いように思えた。私がみさきちゃんと戦う事なんて無いんだろうけど、もしも戦うとしたらどうすれば被害が少なく済むだろうかと言う後ろ向きな考えしか浮かんでこないのも事実である。

 佐藤みさきちゃんには彼氏がいるそうなのだが、その彼氏と一緒に過ごすと世界が崩壊するという呪いがかけられているそうで、その呪いを解くカギがこの世界にあるかもしれないのでソレを探しているところだそうだ。

 年齢も一緒で魔法を使えないという共通点もある二人ではあるが、私とみさきちゃんには決定的な違いがある。それは、みさきちゃんは戦闘に何度も参加しているという事だ。私はその魔力の低さから模擬戦すら行ったことは無いのだが、みさきちゃんは複数の魔導士を引き連れて数々の魔物を討ち取っている。その数は一か月間だけでこの国の魔導士が年間に駆除する量に匹敵するという恐ろしいものだった。数だけではなく質も凄いのだそうだが、ここら辺を支配していた魔物も討ち取ったという事はかなりの衝撃だった。それも、その魔物が目的ではなく、魔法のキノコを採ってきた帰りに立ち寄った砦を陥落させただけなのだそうだ。みさきちゃんが倒して強い魔物がいなくなったことも影響してか、この辺りから魔物が極端に減っていた。


 魔物が減ると人は皆幸せになると思っていたのだけれど、現実はそうではなかった。私の国の隣にあるエンリ国は私の国とは違って魔法を絶対に認めないという国だった。魔法とは本来神かそれに近しいものに限って使われることが許されているもので、魔導士と言う存在は神を冒涜していると考える集団でもあった。

 学校の先生は、エンリ国は代々魔法が使えないものが集まって魔導士を敵視している存在だと言っていた。おばあちゃんも似たようなことを言っていた気がするのだが、おばあちゃんも過激な思想の持ち主なので参考にはならないかもしれない。

 エンリ国は魔法を使えない代わりに、魔導士対策の道具をいくつも試作し、使えそうなものは実戦に投入していると聞いている。そのほとんどは魔導士ではなく魔物に向けて使っていたそうなのだが、国境付近に陣取っていた魔物がみさきちゃんの手で排除されるた事をきっかけにして、エンリ国は我々の領土まで進行してきていた。


 誰もが魔法を使える方が有利だと考えて、特に何の対策も立てずに突撃していたのだが、エンリ国の対魔導士用の戦闘シミュレーションは限りなく実践に近かったようで、向こうの被害は物が壊れた程度で済んだようなのだが、突撃した魔導士は誰一人逃げることが出来ずに捕まってしまったそうだ。

 何度も救出に向かう事にはなったのだが、そのたびに全員が返り討ちに遭うという悲惨な結果が繰り返された。対人間の戦闘にお母さんが出る理由もないのだけれど、一番強いという責任からか、お母さんは魔導士の奪還作戦へと加わることになったのだ。

 しかし、そんなお母さんも帰ってくることは無く、敵につかまってしまったのだった。


 このままでは誰も助けに行けないと思っていたのだが、対魔導士用の道具を使ってくるのなら、魔法を使えないみさきちゃんの出番となるのだった。

 みさきちゃんは何度も魔導士を引き連れて行動していたのだが、そのたびに一人だけで戻ってくるという事を繰り返していた。もしかしたら、みさきちゃんが他の魔導士を……なんてことも関耐えてみたこともあったのだが、とてもそんな事をするような人には見えなかったのだ。

 そんなみさきちゃんはお母さんたちを助けるためにエンリ国へと乗り込んでいったのだった。そこされた魔導士は多いとは言えないけれど、お母さんを慕って助けに行くと言ってくれた人ばかりだったので、私はその様子を見て嬉しくなってしまった。


 みさきちゃんが行ってくれればお母さんもみんなも助かる。そう思っていたのだけれど、一人で帰ってきたみさきちゃんは何も喋らず、じっと外を眺めていた。一人で帰ってきてた時点で覚悟はしていたのだが、それに確信を持ちたくなくてみさきちゃんには何も聞けずにいた。自分からは何も聞いていないのだが、みさきちゃんは泣きそうな声で私に教えてくれたのだった。


「みんな、私があの国に着いて助けようとした時にはもう……。」

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