第48話 最強魔導士誕生 第四話
最初から期待はしていなかったのだけれど、フェリス達は拘束具によって行動に制限はあるようなのだが、街中を自由に歩いていた。監獄のようなところにとらえられて日々拷問を受けているのかと思っていたけれど、少し拍子抜けしてしまった。
遠くから見ていてもある程度の自由が与えられているのだという事はわかるのだが、それでは困ってしまうんだよな。捕まって数日とはいえ、あの人たちも街に馴染み過ぎているように見えるのも良くない。
さて、街中にいるみんなの様子をもう少しだけ観察してみることにしたのだが、よくよく見てみると、フェリス達はお互いに接触しないような微妙な距離感で行動していた。これに何の意味があるのかわからないが、お互いに接触しないことに何か意味があるのだろうか。直接聞きに行くことも出来るのだけれど、そんな事をしたらその場で殺してしまいそうなので我慢することにしよう。
それにしても、この町の人達は戦争状態にあるという危機感は無いのだろうか。いたって平和に暮らしているようにしか見えないのだが、これはどういうことなのだろうか。
私も自然に街の中へ溶け込もうとしたのだけれど、なぜか私は周りの人に避けられてしまい、兵隊に囲まれてしまった。どこに隠れていたんだろうと思うくらいの数の兵隊に囲まれ、私は一切抵抗することも無くその場に立っていたのだが、目の前にやってきた兵隊の一人が私に拘束具を付けようとしていた。もちろん、拘束具は私に効果が無いので意味のない事なのだが、次々と色々なタイプの拘束具を私につけて何かを確認しているようだった。
最初は恐る恐ると言った感じで私に近付いていた兵士たちも、私が一切の抵抗を示さなかったことで気が大きくなったのか、少しずつ話しかけてくるものも現れ始めていた。
と言っても、世間話をするのではなく、ここに私が来た理由を確認するものが多く、そのほとんどがフェリス達を奪還しに来たのかといったものだった。私はそれに答えようとしたのだが、その前にみんな離れていったので何も伝えることは出来なかった。
私につけることのできる拘束具がない事をやっと理解してくれたのか、私は普通の手錠と足枷を装着された上に目隠しの布を被らされてどこかへ連行されていった。
私は前が見えない状況ではあったのだが、この場所には多くの人がいることは理解していた。時々聞こえる衣擦れの音や咳払いなどで、ここには私以外にも多くの人がいるというのだけは理解できた。だが、ここで何をされるのだろうという事はわからなかった。
「この町に侵入した理由は何だ。魔導士どもを助けに来たわけではないようだが、貴様の目的はいったい何なのだ?」
「目的って言われても、最初の目的はフェリス達の安否確認なんだけど、それはもう達成しているし、後はフェリス達がいつ処刑されるかの確認くらいですかね」
「我々は魔導士どもを処刑するつもりで捕らえたわけではないぞ。むしろ、我が祖国のために働くよう説得しているところなのだ。貴様は魔法を使えないと聞いているが、どうやってここまで侵入したのだ?」
「侵入って。普通に塀を超えて入ったんだけど。何かマズかったかな?」
「マズくは無いが、ここには魔力を感知して全てを排除する防壁があるのだが、それにすら反応されることが無いのか?」
「いや、そんなのは作動してなかったし、私は普通に塀を乗り越えてみてただけなんだって」
「塀と言っているが、アレはこの町にあるどの建物よりも高いのだぞ。それを乗り越えるなど出来るはずも無かろう。貴様はいったい何者だ」
「何者って言われてもね。私は魔法は使えないけど、魔導士の国でお世話になっているものです」
「もしや、フェリス殿が言っていた転生者の一人だな。そうか、貴様はフェリス殿を奪還するためにやってきたのであろう。だが、それは止めた方がいいぞ。彼女らには特別な拘束具を付けているゆえ、無理やりにでも外そうとするとその身を引き裂いて命を奪ってしまうのだ。それに、彼女たちは一定の距離まで接近するとお互いの拘束具が干渉しあい、その内側に隠された針によって己の身を傷つけることになるのだ。その状況でどうやって皆を助けるというのだね。考えがあるのなら今後の参考にしたいので、教えていただきたい」
「その話が本当なら、私は一人一人の拘束具を無理やりにでも外してしまうか、みんなを一か所に集めないといけないことになるんですね。どっちも面倒だな」
「貴様は何を言っておるのだ。そんな事をしたらあの者たちは皆死ぬのだぞ」
「いや、死んでもらった方が都合がいいんですよ。こっちにも事情がありまして、あの人たちに生きていてもらっては困るんです。って言っても、本当に困るわけじゃなくて、ある人が一番になるためには他の魔導士の存在って邪魔になっちゃうんですよね。邪魔ではないんだけど、邪魔って言うか、他の魔導士がいなければ一番になっちゃうんじゃないかなってね」
「貴様の事情は分からんが、そんな事をして何の意味があるというのだ」
「意味なんて特別無いんですよ。私はヒカリがあっちの国で最強の魔導士になりたいって言っているのを叶えてあげたいだけなんですからね。まー君に相談したら、一番強い魔導士にしたいなら他の魔導士をみんな殺しちゃえばいいって言ってたんだもん。まー君の言う事は正しいんだなって納得できたし、あなたたちにとっても魔導士がいなくなるのは嬉しい事なんじゃないですか?」
「貴様はそれを本気で言っているのか?」
「本気ってどういうことですか?」
「あの国から魔導士がいなくなったとして、あの国に張られている結界はどうやって維持をするというのだ。そのヒカリとやらが一人でどうにか出来るとでもいうのか。そんな事は不可能だろう」
「結界とか国を守るとかそんなのはどうでもいいんです。私もまー君も自分の事は自分で守れるんだし、何かあったとしても問題ないですからね。それに、私達が相手にしなきゃいけない相手に対抗するためにはいろんな経験が必要だと思うんですよ。どうせなくなる国なんだったら私達の手で終わらせても問題ないですよね」
「先ほどから貴様は何を言っているのだ。いったい何が目的なんだ。そもそも、貴様は本当に人間なのか?」
「もう、そんな事を気にしたってしょうがないでしょ。私がここの世界で得た事なんて、まー君の魔法を使えなくしちゃえば世界の崩壊を食い止めることが出来るって事だけだもんね。でも、そんな事ってあなた達には関係ないんじゃないかな」
「世界の崩壊とは何を言っているんだ。そんな事が起きるとでもいうのか。貴様はいったい何を企んでいるんだ」
「私は何も企んでいないよ。まー君と私をこの世界に送ってきた奴に聞いてくれたらいいんじゃないかな。でも、それを聞くためには一回死んでおいた方がいいかもね。フェリス達も一緒に連れて行って聞いてくるといいよ」
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