第47話 最強魔導士誕生 第三話
魔導士の成長は運に頼ることが多いらしいのだが、中にはまー君のように倒した相手の力を吸収して成長するタイプもいるのだ。私は魔法は全然使うことが出来ないのだけれど、魔力をいただく代わりに肉体的な強さをいただいている。相手が強ければ強くなるほど自分が倒した時の影響が大きいのだけれど、普段のトレーニングではどんなに頑張っても成長することは無かった。その点はヒカリと共通している事なのだが、私達は相手を殺しさえすれば成長していくのでその事は問題にはなりえないのだ。
ヒカリは私達と違って相手を殺しても成長することは無いし、トレーニングをいくら積んでも成長する兆しすら見られないのだ。何が悪いのかそもそもの原因すら特定することが出来ていないのだった。
「私自身は全然成長していないのに、魔導士としてのランクが少しずつ上がっているんだよね。たぶんなんだけどさ、相手国に攻めている魔導士のうち何人かは死んでいるよね?」
「そうかもしれないけど、死なずに捕虜になっているパターンもあるからそう決めつけるのは良くないと思うよ。私もまー君に会えないときは不安でいっぱいだったけれど、今は時々会えているから問題ないよ」
「私も正樹さんに会ってみたいけど、会って何をするって決めてないんだよね。それでも会ってくれるなら嬉しいな。でも、そんな事が難しい事だって知っているからね」
「じゃあ、後でまー君にヒカリに会いたいか聞いてみるね。でも、まー君は死の拘束具に包み込まれているから近付かないように気を付けてね」
あの拘束具が死の拘束具と呼ばれているのにも理由はある。
一番大きな理由は、あの拘束具にとらえられた魔導士は全員もれなく死んでいるからだ。この事は魔導士だけではなく一般市民にも動揺が広がっているようで、この世界に住んでいる人は基本的に魔力はそれなりにあるのだが、ほんの少しも魔力が無いものは私以外にはいないようだった。いたとしても魔力が無い時点で戦力にはならないだろう。
「まー君はヒカリと会ってもいいと思うかな?」
「僕は構わないよ。みさきは僕とヒカリが会って何か良い事があると思うかな?」
「本当のことを言うと、まー君がヒカリと会うのは嬉しくないんだけど、嬉しくは無いんだけども、ヒカリにはお世話になっているし、会ってみたいって言う気持ちには答えてあげたいなって思っているんだよね。でもね、ヒカリがまー君と会ったところで強くなれるわけでもないんだし、ヒカリが満足するためだけに私とまー君の時間を取られるのはどうだろうって思っているんだよね。だからと言って、ヒカリの事を無碍にするのも違うんじゃないかなって思っているんだよね」
「僕はみさきが一番いいと思うことをやってくれたらいいと思うよ。この拘束具がある限り僕は何も出来ないんだからね」
「ありがとう。まー君がそう言ってくれるなら、私も頑張ってみるよ。それと、唯ちゃんの事なんだけどさ。唯ちゃんは私と違って拘束具に縛られるくらいは魔力があるみたいなんだ」
「唯はみさきと違って魔法に耐性があったみたいだし、その点を考えると拘束具に触れられるのはみさきだけってことになるんだよね。みさきにはこれからも負担をかけてしまうかもしれないけど、無理をしないでおくれよ」
「大丈夫。私は無理なんてしてないからね。出来ることをやるだけだよ」
私は無理はしていないのだが、出来ることもしていない。何度か唯ちゃんで試したことがあるのだが、私はこの拘束具を簡単に外すことが出来る。魔力で結び付けられている拘束具を思いっ切り引っ張ってやれば外れるのだ。それほど力もいらないのだけれど、魔力のあるものが触れてしまうと一緒に拘束される恐れがあるのだ。
誰かを拘束している状態で触れても平気だったのは私とヒカリとあとは数名だけだった。ヒカリは魔力も弱く頼りない存在ではあるのだけれど、他の数名は普通に戦えるような人材で、その共通点が何なのかは調べてもわからなかった。何せ、その数名もその後の実験でちゃんと拘束されてしまったのだから。
私はいったんヒカリのもとへと戻ったのだが、いつもならいるはずのヒカリの姿が見えなかった。どこにいるのかもわからないので探しに行こうとは思わなかったのだが、いくら待っていても戻ってくる様子は無かった。
少しだけ静かな時間を楽しんでいたのだけれど、その静寂を打ち破ったのは慌てているヒカリだったのだ。何があったのかはわからないけれど、その様子を見る限り何かとんでもない事が起こったのは想像がついた。
「大変だよ。お母さんが敵につかまったって」
「フェリスさんが捕まったって事?」
「詳しいことはわからないんだけど、昼過ぎには連絡も取れなくなってたみたいで、お母さんがいたところの魔導士もみんないなくなっていたって」
「それって、フェリスさんたちが捕まったのじゃなくて戦いに行ったって可能性は無いのかな?」
「お母さんたちの予定では敵のところに攻めるのはまだだって言ってたし、攻めるにしても連絡は来るだろうって言ってたんだよ。でも、戦闘用の装備はそのまま残されていたって言ってたし、おかしいよね。こんなのっておかしいよね」
「何が起こったかちゃんと調べないとわからないけど、私がそこに行ってみるよ。今のところ拘束具を使われても平気なのは私だけだし、ヒカリはおばあちゃんと私の無事を祈っていてね」
「うん、危ないかもしれないけど気を付けてね」
フェリスが襲われるのはもう少し先だと思っていたのだけれど、相手の行動は思ったよりも大胆になっているのかもしれない。拘束具を無効化する何かがあるのだとは思うけれど、それにしてもフェリスを襲うのは無謀だ。それを可能にした何かにここの人達は気付いていないのは確かなのだ。まー君でも気付かない方法でそれを実行していたと思えば、ここの人達程度では何も出来ないのも当然だろう。
私が偉い人達にフェリスを助けに行くことを伝えると、彼らは心底ほっとしたような表情を浮かべていた。もう少し揉めるのかと思っていたけれど、ここにいる人達は自分たちの責任を私に押し付けることが出来るとでも思っているのだろう。私はフェリス達の安否の確認を頼まれた。救出ではなく安否の確認と言っている辺り、もう彼女たちが生きていることは無いと思っているのだろうね。
私は一人で敵国に攻めていることにしたのだが、それにはちゃんと理由がある。私の顔は敵国にも割れているらしく、潜入してもすぐにばれてしまうからだ。それなら足手まといを引き連れていくよりも、一人で自由にのびのびと行動するのが一番だ。
私の後をつけている人もいるのだけれど、監視されたところで私に何か不都合なことがあるわけでもないので気にしないことにした。一人ではなく複数人で監視しているようなのだが、もしかしたら私の監視が目的ではなく、新たな侵攻ルートを探っているのかもしれないね。どちらにせよ、私の行動を阻害するものではないので気にしないでおくことにするか。
そのまま国境を越えて敵国に侵入しているのだけれど、この時点で私の後をつけている人が何人か捕まっていたのは少し笑ってしまいそうだった。
そのやり方は単純で、私が歩いている道以外の場所に拘束具を置いているだけなのだが、どうみてもバレバレの偽装に簡単に引っかかって拘束されるというお粗末なものだ。あとで聞いてわかったことなのだが、この拘束具は相手の魔力を感知してごく自然に風景に溶け込んでしまうことが出来るそうだ。魔力のない私にはバレバレでも、魔力があればソレに気付かずに触れてしまう。そんな力もあるという事なのだ。
私が無事に敵国の中枢に潜り込んだ時点で私についてきた人たちは全員捕まっていたのだけれど、みんな一応は無事だったみたいだ。
もちろん、フェリスも無事だったみたいで、結局死んだのは私と一緒にいた人達だけだったと判明したのだ。
この事実をみんなに伝えてしまうと、私が本当の死神みたいで気分が良くないよね。私だけが死神って言われるのは寝付きも悪くなりそうだし、まー君の受ける印象も良くないと思うんだ。
私と一緒にいた人たちだけが死んでいるのっておかしいと思うんだ。
だから、捕まった人達はみんな死んでいたことにしないとね。
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