第46話 最強魔導士誕生 第二話

 私が原因で戦争が起こってしまったのだが、それについて何か責められることは無かった。もともとお互いによく思っていなかったこともあるようなのだが、魔法を使うか使わないかで長年揉めているのだ。どうでもいい話だとは思っていたのだが、私とまー君みたいに魔法を使えても使えなくても仲良くすればいいのになと思っていたのだ。

 私が原因とは言ったが、今まで積み重ねてきたものを崩しただけであるのだ。長年の積み重ねが原因なのだから私を悪者にするのはやめて欲しいと思っているけれど、この状況は私にとって好都合だったりするのだ。


 戦争状態と言っても、こちらの国には結界が張られているので直接侵入してくることは出来ないし、何か兵器を使おうと思っても近代兵器のような遠距離から攻撃するようなものはこの世界に存在していないだろう。それらがあったとしても、国境付近に配備されている魔導士たちが迎撃してしまうと思うのでこの国の脅威になることは無いだろう。

 そんな状況ではありながらも戦争状態に突入したのには理由がある。まー君のような人の限界を大きく超えている魔導士を完全に無力化することのできる拘束具があるからだ。拘束具には魔力を感知して強度を高める性質があるのだが、少しでも魔力があるものが触れてしまうとたちまち拘束されてしまうのだ。しかも、それはまー君クラスの魔導士でも気付かないように偽装することが出来るのである。これは魔導士の国にとってとてつもない脅威となりえるのだ。


 その脅威を利用して私はヒカリをこの国最強の魔導士にするという目標があるのだ。国中の魔導士が戦争に参加することになるのだが、ある程度の力を持っていないものは前線に送られることは無いのだ。つまり、ヒカリは戦闘要員として動員されることはあっても戦闘に参加することは無いのである。

 戦闘に参加しないという事は負傷することも無いので安全ではあるのだけれど、ヒカリはその事についても不満があるようだ。不満はあっても自分の実力を考えるとどうすることも出来ないのもわかっている、そう思ってはいてもヒカリは自分のふがいなさにいら立ちを隠しきれないでいたのだった。


 当初は一方的な展開で私のいる国が圧倒すると思われていたのだが、拘束具の力は私達が想定していたよりも恐ろしく、短期決戦を目論んでいたこの国の人達は四人一組で構成した魔導士部隊を敵国各地に投入したのだが、思惑通りに事は運ばず、ほとんどの部隊は全滅か捕虜として捕らえられてしまったのだ。これには最高司令官であるフェリスも焦りを隠せていない様子ではあったのだが、拘束具をどうするかと言った問題を解決することが出来ない以上は座して死を待つ展開になるのもやむを得ないのだった。

 開戦の引き金を引いた私を差し出すという案も出ていたそうなのだが、今更私一人でどうなるという問題でもないし、今現在の状況を考えるとこちら側の無条件降伏に近いものになるという予測もあり、私は相手に差し出されるという事にはならなかった。なっても構わないんだけど、そうなると私はこの国に敵対するだけの事ではあるのだ。

 私は拘束具を外す方法を知ってはいるのだが、それを教えたところでここにいる人達は誰一人としてそれを実行することは出来ないのだ。仮に、魔法が一切使えないものがいたとしても、その人を守りながら敵地を目指すというのは解決でも何でもないように思えるのだが、それについてはフェリスも私と同じ意見だった。


 なぜだかわからないが、私は戦争の最前線へと駆りだされてしまった。戦うこと自体は嫌いではないのだけれど、戦争の最前線に来たという事はまー君と離れたという事を意味するので、それは私には耐えられなかった。

 あの拘束具に包まれている状態のまー君の顔を触っても何もなかったし、拘束具がある間はこの世界が崩壊することも無いように思えたのだ。それを確かめるためにももう少しまー君と一緒に居たかったのだけれど、今の状況ではそれもなかなか難しい事だ。

 世界の崩壊の引き金になるのはまー君の魔力で間違いないと思うのだけれど、私の何かがまー君のそれに反応して崩壊を引き起こしているのか検証する必要があるよね。そのきっかけさえ分かってしまえばこれからまー君と一緒にいられる時間も増えていくと思うのだからね。

 それにしても、私が最前線に出る理由は何なのだろう?

 魔法が使えない私は無数に仕掛けられている拘束具を使ったトラップにもかからないので、私の後についている魔導士連中が次々とトラップにかかって命を落としているのは少し気が引けてしまうのだ。


 結局のところ、私は二週間の間に二十人近い魔導士と行動を共にしたのだけれど、生きて帰ってきた魔導士は誰もいなかった。私は魔力が無いのでトラップにかかることは無かったのだが、トラップにかかった魔導士は私が気付く前に音もたてずに殺されていたのだった。まー君についている拘束具が命を奪うものでなくて良かったと心から思っていた。

 一部の魔導士からは毎回一人で帰ってくる私の事を死神だの悪魔だの言っている人もいるのだが、そんな人達の事をフェリスが窘めてくれていたので私はそれほど気にせずに行動することが出来ていたのだ。もっとも、私の事を死神とか悪魔と言っているのは、まー君を独占している私に嫉妬しているという面もあるだろう。


 ちなみに、ヒカリは相変わらずとても弱い魔力のままで成長の兆しも見えないのだが、魔導士としての順位は大きく上昇していたのだ。私と行動を共にしていた部隊以外にもあいつらのトラップにかかっていなくなったものが多くいたためなのだが、いなくなった人たちが無事に見つかるといいな。その時はヒカリの順位も落ちてしまうだろうけれど、この国の戦力が少しでも整う事の方が大事だと思うからね。

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