第5話 尋問してみよう
みさきが外で頑張ってくれている間に僕も出来ることをしておこうと思う。
この世界の仕組みの事はまだよくわかっていないけれど、みさきは今も強くなり続けているし、その強さに上限は無いんじゃないかって思うんだ。殺した相手の能力を奪うって言われていたみたいだけど、単純に殺した相手の強さを上乗せしているだけじゃないのかな?
みさきは殺した相手の記憶や技を引き継いでいる様子もないけれど、確実に戦闘力は高くなっていると思うんだ。さっきも街のゴロツキ共を相手にしていた時だって、確実に手を抜いていたのに圧倒していたからね。それにしても、そんな力を手に入れたのが僕じゃなくてみさきで良かったと心から思うよ。みさきは優しいから弱い相手に対した時にちゃんと手を抜けるんだもんね。僕にはそんな器用な事は出来そうもないなって心からそう思うよ。
きっとこの教会は今頃ゴロツキ共に囲まれているんだと思うけど、問題はみさきがどうやってあいつらを始末するかってことなんだよね。出来ることなら一人残らず殲滅してもらいたいんだけど、きっと何人かは逃げ出しちゃうんだろうな。さすがにこれ以上何回もやってくることは無いと思うけど、毎晩毎晩襲われてしまうとしたらせっかく手に入れた家も安らぎの場所にすることが出来ないもんな。
いっそのこと、本当にこっちから相手のところに乗り込むのもいいかもしれないけど、それをするには情報が少なすぎるんだよな。この人たちは思っていた以上に口が堅いし、本当に仲間を売ろうとしないんだよね。もっと気楽に考えてくれればいいのに。仲間を売らずに殺されるよりも、仲間を売ってまで生き延びた方がいいと思うんだけどな。取りあえず、今生き残っているのは一人だけになっちゃったし、情報を引き出すのは慎重に行わないとね。
この人たちは鍛えてそうなのに思っていたよりも痛みに弱いみたいでちょっとがっかりしちゃったな。最後まで生き残ってるこの人は丈夫だといいんだけどね。どこまでもってくれるかじゃなく、情報を引き出すことを考えないとな。何も聞けませんでしたって言うのは恥ずかしいからね。
「もしもし、起きてますか?」
「……。」
「寝てたら質問に答えてもらえないんで起きててほしいんですけど、そんなに寝るのが好きなんですか?」
この人たちはみんな寝たふりをするのが好きなのかな?
さっきの人たちも僕がいくら話しかけても寝たふりを続けていたんだよね。他の人たちだって寝たふりをしないで起きて話してくれたら死ぬことも無かったんだけど、とりあえずは軽い刺激を与えて起きるか試してみようかな。
あっちの人はナイフを刺していたら死んでいたし、あっちの人は禍々しい色の液体を飲ませたら骨だけになってしまったし、あっちの人は僕が話しかける前に死んでたんだよね。この場合ってみさきが殺したことになるのかな?
そんな事は今はどうでもいいし、ちゃんとどこに拠点があるのか聞きだす必要があるんだもんね。でも、あんまり刺激を与えないようにしないとこの人たちは勝手に死んじゃうから困ったもんです。
返事を返してもらえないならちゃんと返事を返してもらえる状況を作ってあげないとね。それが質問をする人のマナーだと思うからさ。
「すいません。答えたくない気持ちは他の人たちを見ればわかるんですけど、こっちもあなた方の拠点を聞かないとゆっくり落ち着いて生活できないんですよね。なんで教えたくないかは他の人たちの事を見ればわかるんですけど、あなたもやっぱり自分の命よりも仲間との絆を重く感じるタイプですか?」
わかってはいたけれど、やっぱり返事は返してもらえないんだね。僕が今できることと言えば何だろうと考えてみたんだけど、普通に質問をして普通に答えを引き出すことだけなんだよね。ちゃんと上手にできるかわからないけど、僕に出来ることを精一杯やってみさきを楽にしてあげないとな。
あっちに転がっている死体とかをこの人が見える位置に移動させてみようかな。途中で目を覚ましちゃうかもしれないけど、出来ることなら全員揃った状態で見せてあげたいよね。目隠しになりそうなものがあればいいんだけど、そんなに都合よくアイマスクなんて落ちていないしな。でも、アイマスクじゃなくても見えなくすればいいだけなんだよな。とりあえず目を潰しておくか。
僕は落ちていた木片を綺麗に削って先端を鋭利にしてみた。とりあえず目を潰すだけだから奥まで押し込んで脳を傷つけないように気を付けないとね。
この人の後頭部を掴んで木片を目に当ててみたんだけど、なんだか喚いているような気がするな。あんまり動くと脳を傷つけてしまうかもしれないから寝ててくれていいのに。でもさ、人の眼球を潰すのってどんな感じなんだろうね?
思っていたよりもこの人は抵抗が激しいなって思っていたら、他の人たちとは違って命乞いを始めちゃった。他の人たちとは違ってこの人には死ぬ覚悟が出来ていないのかもね。
って思ったけど、考えてみたらさっき殺した人たちも抵抗はしてたかもしれないな。ちょっと夢中になりすぎて止めるのを忘れていただけかもしれない。別にそれはどうでもいいか。
目を潰すのは良くないと思うし、そんな機会はこれからもやってくるでしょう。その時はちゃんと綺麗に取り出せるようにしないとね。自分の目で自分の目を見るのってどんな気分なのか想像つかないけど、きっとつらいんだろうね。
目隠しとかは無かったけど、ちょうどよさそうな麻袋があったからこいつをかぶせて袋の口を縛っておくかな。軽くにしておかないと首を圧迫してしまいそうだし、いつ起きてもいいように視界だけは塞いで置く形にしておくかな。
それにしても、死体を運ぶのって意外と大変なんだね。もっと楽なもんかと思っていたけど、こいつは血でべとべとしてるし、こいつは体が大きいから運びづらいし、こっちのは骨だから楽なんだけど一回で持てないし、その辺に転がっている奴らも重くて引きずってしまうよ。
それでもどうにかしてこの人たちの死体を生きている人から見える場所に移動することが出来たかな。さて、麻袋を外してちゃんと見てくれるといいんだけど、そううまく行ってくれるかな?
僕が袋に手をかけると、この男は小刻みに震えているのが分かった。なんでだろうと思ってみてみると、意外とこの麻袋は薄くて外が透けて見えていたんだね。これなら骨を入れて運ぶのに使えばよかったかもしれない。そう思っていたけれど、この男はそんな事よりも目の前に転がっている死体の方が気になっているみたいだったよ。僕が質問をする前にこいつが質問をしてきたんだからね。
「こいつらをやったのってお前なのか?」
「全員ではないけど、大体は僕がとどめを刺したってことになるかも」
「俺たちだってお前らを殺すつもりでやってきているんだから、殺されるのは仕方ないと思うけど、無抵抗な相手を殺すのは人としてどうかと思うぞ」
「あんたたちだって無抵抗な相手から金をせびったりしてたんじゃないのかな?」
「それはそうだけど、こんなに惨い殺し方はしたりしない。俺は勘違いしていたみたいだけど、俺らのボスよりもあんたたちの方がずっとヤバいって予感がしているんだ。あの女だって戦い方はヤバいと思うけど、それを操っているあんたの方がヤバいんじゃないか?」
「僕はみさきを操っているなんてとんでもない。みさきは僕のためにやってくれただけで、僕はそのみさきがして欲しい事をしてあげてるだけだよ。だから、僕はみさきを操っているわけじゃないんだよ。どうしてそう思ったのかな?」
「俺らが捕まる前だってお前があの女に命令してたんじゃないのか?」
「どうだろうね。僕は優しくお願いしたことはあっても、命令したことなんて一度もないと思うよ」
「そうか、わかった。俺は何でも言うから命だけは助けてくれ。俺だって好きでこいつらの仲間になったわけじゃないんだ。命だって惜しい、俺が死んだら残された家族も路頭に迷ってしまうんだ。だから、俺は何でも聞かれたことは答えるし嘘も言わない。な、頼むよ。俺を生きてここから解放してくれよ」
「良くないな。君は曲がりなりにも悪党なんだ。そんな悪党の言葉を僕が簡単に信じるわけないだろ。純粋な気持ちで育ったお姫様じゃないんだし、相手の言うことを全て真に受けるわけないだろ。でもね、その目を見ていれば君が嘘を言っているかどうかなんてわかるかもね。いいよ、君の知っている情報を言ってみてよ。一分だけ時間をあげるからさ」
「ありがてえ。俺はもともとあいつらとは敵対していたんだ。あんたたちみたいに力はないけれど、みんなで団結して立ち向かえば何とかなるって信じてたんだ。でもよ、あいつらは俺たちみたいな小さな力では太刀打ちできないくらい巨大な組織になっていたんだよ。ただの野盗だと思っていたんだけど、実際はこの国を守っている軍隊よりも巨大な組織だったんだよ。そんな奴らに小さな集落の俺たちが立ち向かうなんて無謀過ぎたんだ。最初から勝てるわけが無かったんだ。それによ、あいつらが俺らの集落を襲ったのだって目的があったわけじゃない。ただ暇だったから襲っただけだったんだよ。それだけが理由って酷くないか? あんたたちは強いかもしれないけど、そんな奴らを相手にして無事でいられると思っているのか? なあ、悪いことは言わないから、俺を開放してくれよ。そうすればどうにかしてここを襲わないように頼んでみるからよ。な、頼むって」
「そうだね。君が言っていることが本当かどうか確かめる必要があるんだけど、僕にはそれを確認する手段が無いんだよね。この国の軍隊がどの程度のものなのか知らないけれど、ここまで見た限りでは何か特殊な兵器を使っている感じでもないんだよね。そんな軍隊よりも強いって言われても、いまいちピンとこないんだよね。それに、君って本当にあいつらに敵対していたのかな?」
「もちろんだ。俺は嘘は言わねえ。それだけは間違いない」
「それだけはって事は、他は嘘だって事かな?」
「いやいや、そうじゃないんだ。俺が言っていることは全部真実だ。拠点の場所だって教えたっていいぜ。俺が知っているのはいくつかある拠点の一つだけど、そこの拠点を支配しているのはあんたの女みたいにバカ強いやつだぜ。そいつを殺すなり仲間に引き入れるなりすれば他の拠点だって簡単にわかるってもんだ」
「拠点は一つじゃないのか?」
「そうなんだよ。俺みたいな下っ端が知っているのは自分の所属している地域だけなんだよ。たまに他の地域に行くことはあっても、どこに拠点があるのかまでは教えてもらえないんだ」
「じゃあ、お前が知っている拠点を教えてくれよ」
「俺たちの拠点はな、色街の中にあるんだ。どこにある色街かは教えられないけどな」
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