第4話 シスターと私達
まー君は異性に好かれる能力をもらったって言っていたけど、このシスターは見た目が完全にマッチョなおじさんなんで能力の適用範囲外なのね。このおじさんシスターにまで好かれてしまったら私の精神はとてももたないと思ってしまったよ。まー君がモテるのはあんまり嬉しくないんだけど、モテないっていうのもちょっと癪に触ってしまうのよね。この辺って複雑な女心を理解していない男子にはちょっと難しかったかもしれないよね。
それにしても、さっき私が倒した人たちのうち何人かが逃げちゃったんだけど、本当に追わなくて良かったのかな?
おじさんシスターの話ではどこに隠れているのか見当もつかないって話だったんだけど、こっそり後をつけておけばどうにでもなったと思うんだよね。でも、まー君もほっといていいって言ってたから素直に従っちゃうんだけどさ。私はまー君が言う事なら何でも信じたくなっちゃうんだな。
とりあえず、捕まえた六人のうち二人はもう死んじゃってるみたいだからいいとして、残っている四人からは情報を引き出さないとマズいよね。マズいかもしれないけど、私達はこの人たちに関わるつもりも無いんでどうでもいいと言えばどうでもいいんだけど、ただでここに泊めてもらうのも気が引けてしまうし、少しくらいは協力しても罰は当たらないんじゃないかな。どうやって情報を引き出したらいいんだろう?
「生きている四人から情報を引き出す必要があるんだけど、シスターが必要な情報ってどんなものかな?」
「そうね、とりあえずは奴らの本拠地なり隠れ家が分かればいいわね。後は、奴らに協力している人がいるかどうかも知れたら最高ね。ま、協力者が分かったとしてもこちらから手出し出来ないような人だったら意味が無いんだけど、それでも誰が黒幕か調べることは大事だと思うのよね」
「ところで何だけど、こいつらってあの道で金をせびっている以外に何かしてるのかな?」
「奴らは力や権力の弱い人から金をむしり取っている悪党なのよ。私みたいなか弱いシスターにも因縁をつけてきているし、私も怖くてお天道様のもとを優雅に歩くことも出来ないのよ。奴らの被害を受けている人って他にもたくさんいると思うんだけど、みんな大手を振って街を歩くことすらできないのよ。ねえ、あなたたちはとても強いみたいだし、私達を助けてくれないかしら?」
「助けるのは構わないけど、出来ることならみさきの手を汚したくはないんだよね。平和的に解決出来る方法がないか探すところから始めてみようか」
「みさきちゃんは見た目も可憐で美しいし、そんな美しい花はみんなで守るべきよね。でも、さっきの闘い方を見ている限り、この中で一番強いのはみさきちゃんよ。他の建物から見てた連中もそう思っているに違いないわね」
「ま、その話はいったん置いといて、下にいる連中から情報を引き出さないとね。その方法なんだけど、僕に任せてもらってもいいかな?」
「私は構わないけど、みさきちゃんもそれでいいのかしら?」
「うん、私はまー君がしたいことをしてくれるのが一番だと思うからね。私に出来ることがあったら何でも言ってね」
「ありがとう。シスターは黙ってみててくれるだけでいいんだけど、みさきには少し手伝ってもらう事があるからお願いね。じゃあ、ちょっと準備してから地下に行こうか。たぶんだけど、夜になったらあいつらが仲間を引き連れてやってくると思うからそれまでには何とかしようね」
どんな時でもまー君は頼りになるなって思うよね。私の親友も言っていたけど、まー君は他の人とは違った視点で物事を見つめて考えることが出来るって評価してたもんね。私なんかじゃ思いつかないような凄い方法で情報を引き出してくれると信じているよ。
私はまー君に言われた通りに四人を別々の柱に括り付けたんだけど、お互いに姿が見えないように背中合わせにしておいたよ。これからどうするのか楽しみだね。
「皆さんはまだ気絶していらっしゃるのかな?」
「……。」
「返事がないようですが、気絶していらっしゃるなら仕方ない。みさきはまだ手を出さなくていいからね」
まー君は一人一人の近くに行って本当に気絶しているのか確かめているようだった。彼らが本当に気絶したままなのかはわからないけれど、まー君は持っているナイフを一人一人の太ももや肩に刺すと、柱に括り付けられている人はその痛みで声をあげていた。
「あ、おはようございます。皆さんは大変疲れていらっしゃるようで、ずいぶんとお休みになられていたようですね。目隠しをしたままなので何もわからないとは思いますが、これから皆さんにいくつか質問をしたいと思います。もう少ししたら目隠しは外しますのでご安心くださいね。とりあえず、最初の質問です。あなた方の拠点はどちらにあるのですか?」
「は、そんなの教えるわけないだろ。仲間を売ることはこの業界じゃご法度だぜ」
「そう言うと思っていましたよ。いや、そうじゃなきゃ困るんです。僕は前々からやってみたいことがありまして、それに付き合ってもらえると嬉しいです。だから、簡単に仲間を売るようなことはしないでくださいね。あなたが起きる前にちょっとだけお仲間の方に同じことを聞いてみたんですけど、その方は一切喋ることなく死んでしまいました。力加減ってすごく難しいんだなって学ぶことが出来たんですけど、完全に理解したわけではないので勢い余って殺してしまったらごめんなさいね。でも、あなたもきっと仲間を売ったりはしないんだから、死ぬんでしょうね。お願いだから簡単に死なないでくださいね」
「てめえ、俺たちの仲間を殺したらどうなるかわかってて言ってんのか?」
「いいえ、何もわかりませんが」
「化け物みたいなシスターから何も聞いてないのか?」
「聞いてないですけど」
「良いかよく聞け。俺たちはこの街だけじゃなくこの国のいたるところに仲間がいるんだ。その仲間たちは血よりも濃い絆で結ばれた関係なんだ。そんな俺たちを一人でも殺してみろ。そんな事をしたやつは家族だけじゃなく親戚一同まとめて同じ目に遭わせてやるからよ」
「そんな事をいまさら言われても困るんですけど。それに、僕の家族も親戚もこの世界にはいないからどうだっていい事だね」
「そうか、てめえは別の世界から来たってやつか。いいぞいいぞ、俺たちのボスはてめえらみたいな他の世界から来たやつを探しているんだ。お前の連れの女はちょっと幼すぎるけどボスのモノにするには申し分ないと思うぜ。今すぐ俺らを解放してくれたらその女に免じてお前の両手と両足を切り落とすことで許してやるぜ。命までは取らないから安心しろよ。さあ、今すぐこの縄をほどけ」
「はあ、縛られているのにそれだけ強がりを言えるのは大したもんだよ。この中で一番偉いのってあんたじゃないだろ?」
「ああ、俺が一番に決まってるだろ。大体おめえみたいなガキがこうして話していることだっておかしいんだ。いいか、よく聞けよ。俺たちが連絡も無しに戻ってないってことは何かあったって思うわけだ。そうなると、俺たちの仲間が様子を見にここにやってくる。つまり、お前らは今頃俺らの仲間に囲まれて身動き一つとれない状態ってことだよ。俺が捕まってどれくらい時間が経っているかわからないけれど、もう謝っても許してもらえないレベルになってるんじゃないかな」
「言いたいことはそれだけかな?」
「それだけってどういうことだ?」
「他に言い残すことは無いかなって聞いているんだよね」
「てめえは何が言いてえんだ?」
「本当はさ、君たちにどこに隠れているのか聞こうと思っていたんだけど、向こうから来てくれるって言うんならその必要も無くなったよね。でもさ、本当に君たちを助けに来るのか心配になっちゃうな。僕は君たちが考えを改めて正直になんでも言ってくれるのを期待しちゃうけど、きっと君たちはその期待に応えてはくれないんだろうね。でもいいんだ。僕はそんな君たちが本当に固い絆で結ばれているって信じているからさ」
「おい、てめえはさっきから何を言っているんだ?」
「それは後からのお楽しみさ。じゃあ、ここから先はみさきに頑張ってもらおうかな。さっき言った通りよろしく頼むよ。シスターさんもお願いしますね」
「うん、まー君のためにも頑張るね」
「私も出来る限りの事はするわ。あなたたちを信じているからね。私の神もあなた方を祝福してくれるわよ」
まー君がこれから地下室で何をするのかは聞いていないし聞くことも無いんだけど、そんな事を気にする必要はないんだよね。だって、私はまー君にお願いされたことをちゃんとやり遂げないといけないんだからね。
でもさ、あの人たちの仲間って本当にやってくるのかな?
やってきたとしても、ちゃんとみんな始末することが出来るか心配だな。
「そうだ、今度は手加減しなくていいからね。多少なら街を壊してもシスターが何とかしてくれるからさ」
「ちょっと、私は壊れたものを直すことなんて出来ないわよ」
「直接直さなくても他の人に説明してくれるだけでもいいからさ」
「それなら任せてよね」
「みさきも無理しないでね」
「うん、まー君もあんまり無茶しないでね」
私は足取りも軽く階段を駆け上がった。地下にいたせいでわからなかったけれど、もう完全に日は落ちているようだった。誰かがつけてくれた蝋燭と松明の灯りは少し心もとなく感じてしまったけれど、揺らめく炎を見ていると不思議と心が落ち着いていたのだ。
この落ち着いた気持ちでちゃんと戦えるといいな。
教会の入口を開けて外へ出ると、地下に監禁している男の仲間だとわかる集団が今にも襲ってきそうな感じを見せていた。私の姿を見た誰かがリーダーっぽい男に何かを言っているようなのだけれど、ここからじゃ私には何も聞こえなかった。ただ、そのリーダーっぽい男が合図を出すと、教会を取り囲んでいた集団が一斉に私に襲い掛かってきたのだ。
私は大人数を相手にするような技は知らないし、とりあえず思いっきり手足を使って攻撃することしか出来なかった。
まー君の言った通りに手加減をしないでやみくもに手足を振り回していただけなんだけど、私に触れた人達は豆腐を叩いた時のように簡単に粉々になっていったのだ。
その様子を見たほとんどの人達は完全に腰が引けているようだったけれど、それでもかまわずに襲ってくる何人かがいたので、それにはちゃんと当てるように攻撃を繰り出してみた。
と言っても、私は武道を習っているわけでもないし、格闘ゲームだってちゃんと理解してやっていたわけではないのだ。とりあえず、向かってくる相手を全力で殴ってみたり蹴ってみたりしているだけだ。技術なんてものはないし、その攻撃にも合理性なんて一つもありゃしないのだ。それでも、私の攻撃が当たった場所は面白いように砕けていっていた。
私の目の前には死体の山が築かれていたのだけれど、ちょっと邪魔だったので横にどけてもらう事にしよう。でも、誰もやってくれないんで私が自分でやるんだけどね。
視界も開けたところでもう一度仕切り直しと行きたいのだけれど、向こうには完全に戦意が無くなっているようだった。
この人たちが逃げないようにと路地の出口を塞いでいてくれる人たちも、近くの家から見学していた人たちも、シスターでさえも、私の攻撃に驚いているようだった。
もちろん、私もこんなに凄かったんだって驚いているんだけどね。でも、これでまー君の役に立てるなら嬉しいな。
「あんたって、そんなにか弱そうな見た目なのにとんでもない破壊力ね。一撃一撃が大砲の玉みたいな威力じゃない。あんなに強がってた連中も完全に大人しくなっているわよ。とりあえず、残っている連中にこいつらの拠点がどこか聞いてみましょうよ」
「そうだね。まー君のためにもちゃんと聞いておかないとね」
私が前に一歩踏み出すと、生き残っている集団から軽い悲鳴が起こっていた。近付いて悲鳴をあげられるというのはショックだったんだけど、まー君が必要としている情報を手に入れるためなら仕方ないさ。そんな事は気にしないでおこう。
「ねえ、あなたたちの拠点ってどこなのかな?」
「お願いします。殺すなら楽に殺してください」
「いや、殺さないし。私の質問に答えてくれないかな?」
「拠点の場所は知らないんです。僕たちは拠点に行ったことが無いんで。あくまでもこの街を任されているだけなんです。だから、答えることは出来ないんです。お願いだから楽にしてください」
「もう、殺さないって言ってるでしょ」
「お願いします。あなたの手で楽にしてください。このまま帰ったら死んだほうがましだって思えるような拷問を受けてしまうんです。お願いだからここで殺してください」
「え、血よりも濃い絆で結ばれているって聞いたんだけど?」
「それはそうなんですけど、仲間を助けることも出来ずに逃げ出したって知られたら生きていけないんです。どっちにしろ殺されるなら楽にしてください。お願いします」
「そんなこといわれてもさ。無抵抗な人間を殺すなんて私には出来ないよ」
「そこを何とかお願いします」
どういうことなのかはわからないけれど、この人たちはこのまま逃げ帰っても殺されてしまうんだって。生きて帰ってきたのに殺すってのは理解できないけど、そんな事で命を奪うのって良くないんだ。命は大切にしないとダメだって思うけど、今日だけで私は何人殺しちゃったんだろう?
「そうだね、そんなに死にたがっているならみさきが殺してあげたらいいんじゃないかな?」
「あ、まー君。もう下は良いの?」
「下の連中はどうせ何も言わないと思うから途中でやめてこっちを見に来たよ。それにしても、みさきは本当に強くなってるね。こいつらを殺してどれくらい成長したのかわからないけど、多少はプラスになってそうだね」
「ねえ、この人たちって逃げ帰っても殺されちゃうからここで殺してほしいって言ってるんだけど、まー君はどうしたらいいと思う?」
「殺してほしいなら殺してあげたらいいんじゃないかな?」
「そっか、まー君がそう言うならそうするね」
「あ、でも二人くらいは残しといてね。ちょっと聞きたいことがあるから」
「わかったよ。でも、どうやって殺せばいいかな?」
「そうだね。みさきの体が汚れるのってあんまり嬉しくないんで、その辺にあるものを武器として使ってみたらどうかな?」
「そうする!!」
さて、何か武器になりそうなものはないかなと見まわしていると、教会の中に大きな斧が飾ってあるのを見つけた。刃の部分が車のドアよりも大きく見えるけど、たぶんあれは武器だと思うんだよね。
ゲームとか漫画で斧を武器にしている人を見たことがあったし、あれならちゃんと人を殺せそうだもん。シスターさんも使っていいよって言ってるからこれに決めた。
私はその斧を右手に持って、左手には近くにあった盾を持ってみた。武器と同時に盾を持つのは重要だってゲームで聞いたことがあるし、きっとこれから先もこのやり方でやっていけそうだよね。
でも、斧ってどうやって使うんだろう?
よくわからないけど、薪を割る感じでやってみればいいんじゃないかな。
私は右手に持った斧を振りかぶり、左手に持っている盾で身を隠しつつ右手を振り下ろした。
そこにいたリーダーっぽい人は真っ二つになったんだけど、私はその返り血をちゃんと盾で防ぐことが出来たのだ。
やっぱり盾は重要だなって思った一日だった。
おっと、まだ残っている人がいるからちゃっちゃと片付けちゃわないとね。
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