第34話 鉄の爪

 というわけで平和な昼下がりの公園で、ナンジャと小さな子供が走り回っていた。ナンジャはガキだがもっと小さな子供と走り回っているとお姉ちゃんに見えるから不思議だ。


 許可を出したら子連れのママがキャーキャー言いながら写真をりまくってる。子供とナンジャのツーショット画像だ。俺も試しにってみる。

 お姉ちゃんヅラしたナンジャの写真はいつもの表情と確かに違ってた。これもライングループにいてやるか。


「ナンジャちゃん可愛かわいいですね」


 何度もきた言葉だ。だが、俺はその次に続く言葉を予想している。


「だけどお兄さん、もうちょっと服装を……」


 内心ないしん、きた、と思って先手せんてを打つ。


「可愛い格好かっこうもさせてるんですけどね。遊ぶ時はああいうのを好むんです」


 とスマホの中から、鈴子すずこの店で着せた服を見せた。


 キャーと叫ぶママ。おめかししたナンジャの画像は相変わらず破壊力抜群ばつぐんだ。ママも鈴子のようになってしまうんだろうか、恐ろしい。

 そうこうしているうちに、遊びつかれた子供をナンジャがっこしながら連れてきた。


「よくぞわらわについてきたのじゃ、めてつかわすぞ、にな」


 になちゃんというのか。可愛い名前だ。


「またな、おねえちゃんはここまでじゃ、帰らねばならぬ。あとはママに甘えるがよい」


 何か言いたげなママに最後、ママとナンジャとになちゃんのスリーショット写真を土産みやげに、俺たちは公園をあとにした。


「あやつにはいんきざんでおいた。時々なら遊んでやらんこともないのじゃ」


 そんな使い方していいのか。プライバシーはどうなる。つーかその印とやら、俺にも刻んでたなそういえば。

 ナンジャが遊ぶ姿を初めてみた。テレビゲームやってるのは見たことあるが、あれは一人遊びだ。そうではなく、子供の遊び。あんなふうに遊んでるのをみると、本当にただの子供だ。その子供があんな恐ろしい化け物と……。


「おい、ナンジャ」

「なんじゃ」


 振り返るナンジャに真剣に尋ねた。


「お前の目的はなんだ」

「目的?」


 キョトンとした顔で聞き返してくる。


「目的なぞ、害獣がいじゅう退治たいじに決まっておるじゃろう」

「違う」


 俺は即座そくざに、ナンジャの言葉を否定した。


「もっと大きな話だ。動機どうきだよ。お前があの化け物と戦って、一人で旅をしている理由だ」


 ナンジャはちゅうを見、それから俺に視線を合わせ、ニヤリと笑った。


「なるほどなのじゃ。そろそろおぬしには話さねばならぬかもしれぬな」


 猫の時は子供、になちゃんの時はお姉ちゃん。そして今は……。

 こまっしゃくれたガキだ。


「全てを知ったらおぬしは後戻あともどりはできぬ! いな! わらわが後戻りなどさせぬ! くは修羅しゅら道行みちゆき! 片鱗へんりんれしものどもも運命うんめいからのがれることかなわぬのじゃ」


 俺はナンジャの顔面にアイアンクローをかました。


「カッコつけてるとこ悪いんだが、お前のごたくに付き合う気分じゃないんでね。話は端的たんてきに頼むわ」


「むぎぎ、痛いのじゃ、やめるのじゃ、もう許さんのじゃ」


 暴れるナンジャ。今日の俺は気が急いてる。ナンジャの小芝居こしばいにちょっとカチンときたのだ。


「おのれ、カンジャ……。もう許さん。ほとけごころを出したら調子に乗りおって……」


「ナンジャ、お前は何者だ。なぜこの街に来た。俺をあやつって何がしたいんだ」


 俺の指先がナンジャの頭に食い込み続ける。軽いおしおきのつもりだったのに、ナンジャの頭が感触かんしょくすぎてなかなか手が離れん。髪の毛がふわふわだ。ついいつまでもゴリゴリしてしまう。


 まあこれじゃあナンジャも真面目に答えようとはならんよな。しょうがないから手を離す。くずちるナンジャ。


「おぬし……ようもやってくれたんじゃ……」


 ハアハア言いながら俺をにらむ。ちょっとやりすぎたかな。


「もう許さん! わらわをはずかしめた罰は身体であがなってもらうのじゃ! くらえ! おぬしは一生わらわのしもべじゃ!」


 ナンジャが右の手のひらをこちらに向けて、顔の横から右目をおおう。そして、カッと指を開くと、すみれ色のひとみが輝き、眼光がんこうが俺をる。



「とわあ!」



 ナンジャがえた。俺は腕組みしたままそれを見守る。


「あ、あれ……?」


 ナンジャがあわてる。俺は次の手を待つ。くさ芝居しばいもこう続くとイラッとくる。


「な、なぜかぬ……」


「お前の手口てぐちはとうにれてんだよ」


 俺はナンジャの肩に腕を回した。


「俺にやらかしたあれやこれやもな……」


 ナンジャがガタガタふるえ始めた。


「そろそろ帰るとするか。おっとその前に晩飯ばんめしの買い物をしないと」


 肩に腕を回したままナンジャの耳元でささやく。


「いっぱい買い物しないとなあ」


 涙目なみだめのナンジャが逃げ出さないよう、俺はがっしりと肩をつかんだ。

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バンパイヤハンター ナンジャ 大葉カヤロウ @tanikami

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