第30話 由葉沙希 2
「なあ、こんなとこで何してんだ」
地元でずっと一緒だった奴だ。口を聞いたことなどほとんどないが、顔くらいは知ってる。
「……誰?」
自転車にまたがったまま、俺はサングラスをずらして顔を
「……
「お前は何してんだ? 親はどこだ?」
駅前の
「なにか困ってんのか?」
そういうとそいつは
「なんでもないの、平気」
「そうか」
俺は自転車を
「飲むか?」
そう言うとびっくりした様子でそいつは顔を上げた。
「あ、ありがと……」
ストローでちゅうちゅうと長いこと吸い続けている。よほど
「ん」
俺は手を伸ばして、そいつから紙パックを奪い取った。そして自分用のストローを刺すとぐいぐいと飲み始めた。
「ふう……」
そして再びそいつに紙パックを渡す。しばしためらっている。
「飲んどけよ。のど渇いてんだろ」
俺がそう声をかけると、
「ありがと」
というと勢いよく吸い上げ始めた。女のくせにいい勢いだ。紙パックから透けるお茶の
「おい待て待て」
「半分こだ」
空に近い紙パックをあおり、残ったお茶を身体に流し込む。
「ほとんど残ってねえじゃねえか……」
不満そうにそう言うと、そいつはうふふと笑って明るく言った。
「火馬くん、ありがとう。おいしかった」
女子に正面からお礼を言われると
「で? お前は何してんだこんなところで」
「それはお互い様でしょ。火馬くんは何してるの?」
「俺のことじゃなくてお前のことだろ!」
「……なにムキになってるの?」
「俺は……サイクリングだ……」
俺はムニャムニャ言って話を
「あのなあ……」
「火馬くん」
「なんだ」
そいつが俺の目をしっかりと見て言った。
「私の名前知ってる?」
「えー確か……ユバ……」
当たりか? 俺がそういうと嬉しそうに笑う。
「火馬くん、私の名前、知ってたんだ。
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