第27話 悲しき街角
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、」
ナンジャがマッサージチェアで遊んでる。
俺は
「これはさすがに無理だ」
俺はひとりごとのようにつぶやく。
「わかってるわよ」
沙希がマッサージコーナーに視線を投げる。ナンジャを見て
「ナンジャちゃん、かわいいね」
「女子は可愛いものが好きだな」
「おにいちゃんも鼻が高いでしょ?」
「ああ? とんでもないクソガキだぜ。テレビの
「でもあんな美少女連れて、おにいちゃん、まんざらでもないって様子だよ」
「美少女? やめてくれ、可愛いのは認めるが、あいつはまだ幼女だ」
「手足もすらっとしてるし、もう少女って感じするけど」
「は? 中身も見てくれもガキだぜ?」
「そうかなあ……年齢的には少女に当てはまると思うんだけど」
沙希が天井を見上げた。
「定義など知らん。年齢も知らん。俺には俺のイメージがある」
「火馬くんにとって、少女と幼女の違いってなんなの?」
「ブラジャーの有無だ」
沙希が微妙な顔をした。少々
「おいナンジャ」
「なんじゃ」
「お前、ずいぶん余裕だな」
「なんかたくさんのテレビを見てたらどうでも良くなってきたのじゃ」
「よくねえだろ」
「よく考えたらなんであんなアホたちのためにわらわが骨を折らねばならんのか、目的を見失ってしまったんじゃ」
おーおー、それはテレビをカチ割る前に気づいて欲しかったものだな。子供の
「ところでこれはお前の
家電量販店のフロアを埋めるうちの高校の制服姿を見回して言った。
「知らんのじゃ」
まあそうだろうな。クラスの様子が変なのは、ナンジャが学校に来る前からのことだ。俺は腕を組んだ。つまり、沙希と俺の関係に
「まあでも、目的の一つは果たせ。沙希はお前と仲良くなりたいんだってよ」
「前に言ったろう。あやつ……」
とナンジャは沙希をあごで指す。
「あやつにはわらわの催眠術が効かぬ。だから学校でも捕まってしもうた」
まあな、ナンジャと沙希が一緒だったのでそれは予想がついていた。
「さっきからずーっと試しておるんじゃがな……やはりまったく効かん。おかげで肩がこってしもうた、あ、あ、あ、あ、あ、あ、」
ナンジャがマッサージしているのはそういうことか。移り気も関心の対象がゲームから沙希に移ったからなのだろう。
「催眠術に頼らなくても、お前が甘えたら周囲は大概、言うことを聞く。そんな
「別れが辛くなるんじゃ」
ガチな返しに息を
「可憐なわらわとの別れが辛くなった奴が地の果てまで追いかけてくるかもしれん。面倒の
あーあーそうですかっと。しんみりとした気分が吹き飛んだぜ。心情を吐露してくれたかと思って、少し感動したのに。
だが、そんなナンジャの手を握って沙希の前に連れてゆく。
「あいつら
沙希がぼんやりとこっちを見て微笑む。だが表情は今朝までのよそよそしさが戻りつつあった。
「テレビはどうするんじゃ!」
「第三
「そ、その相談はいつ行われるんじゃ」
「さあねえ。おふくろがいつ帰ってくるかわからんから」
「なら、おぬしが学校におるあいだ、わらわはどうやって時間を
「……お前、ゲームのことはどうでもいいとかさっき……」
「それはそれなのじゃ!」
「お前が悪いんだろ」
「ムグーッ!」
悪い口を
「やめてあげて」
沙希が俺の手を
ほらな、
だが、ナンジャは肩から手を引き剥がした。沙希の表情が曇る。
「ナンジャちゃん、おねえちゃんのこと嫌い?」
「関心がないんじゃ」
「おい、ナンジャ」
「おぬしと馴れあう気も仲良くする気もないんじゃ」
「そっか……」
沙希が顔を伏せた。悲しそうな表情に胸が痛い。
「ごめんね、ナンジャちゃん、おねえちゃん、わがまま言って」
「お、おい沙希……」
俺は怒りに全身が燃えたが、これはナンジャの問題だ。さっきも思った通り、俺が口を
「あたし、ここで帰るね。じゃあナンジャちゃん、街であったら
暗い影を顔に落とし、それでも微笑んで手を振る沙希。
「……ナンジャ、あのな」
「これもあやつのためなのじゃ。
「んー…………」
俺は言うに言われぬ
「痛いんじゃ! なにするんじゃ!」
「まあいい……今日はご苦労さん。パーっと遊んで帰るか」
俺はこのモヤモヤした感情をどこかで
「カンジャさーん!」
「げげ!」
「げげってなんですかー! シツレーっすよカンジャさん!」
「ここここんばんは」
「キグーが多いっすねー。やっぱうちら導かれてるっつーか」
「うんめーっしょ!」
ナルミキマコにバッタリ出くわしてしまった。いつも通りテンション高い二人。ペコリと頭を下げるナルだけが
「どこいくんすかー?」
「にーちゃんと遊びにいくんじゃー」
「お、おいナンジ……」
止めようとしたが手遅れだった。ミキマコが深刻そうに眉をしかめて天を
「うちらもそんな気分だったんすよー!」
「
うおおおおお、とマコがナンジャを肩車した。おおお……おお? とちょっとよろける。ギャハハと笑うナンジャ。俺は助けを求めるようにナルに視線を投げる。ちょっと困ったような顔をするが、ナルは突然俺の腕にしがみついて引っ張りだした。
「お、おい……」
「いきましょ、カンジャさん」
女子中学生に腕を組まれて悪い気はしないが、そうそういい気分など長続きしない。帰ったはずの沙希と本屋の前で出会い頭に出くわしてしまったのだ。
「あーっ!」
「ほらナル! この人カンジャさんの正妻の!」
「これは
「
マコがナルに両手を捧げる。
「愛人候補ミキ!」
ミキが両手の親指で自分を指す。
「愛人二号マコ!」
ナンジャを担いだまま、マコが
「負けられない女の戦いがここに!」
ミキマコの
ナンジャが嬉しそうにマコに肩車されて、ナルが俺の腕にしがみついて、
またこのパターンか。
俺と沙希はこういう
「楽しそうだね、
「いや、これはその」
「うちらこれからカンジャさんと楽しくカラオケっす!」
「ナンジャちゃんと仲良くデュエットっす!」
「彼女さんもどーっすか! ついでですまんすけど!」
ふーっと息を吐いて、ミキマコに首を振って答える沙希。
「お誘いありがとう。ナルさん、ミキさん、マコさん、火馬くんと仲良くね。そしてナンジャちゃんまたね」
沙希はひらひらと手を振ると言ってしまった。するーっと無視され俺は息を
ミキがぽんぽんと俺の肩をたたく。
「おにーさん、これはいただけないっすわー」
「ハッキリしないカンジャさんが悪いっすね完全」
「フニャフニャっすよ、フニャフニャ」
「いったい誰が本命なんす?」
「ハーレムやってる場合じゃないすよ!」
「男らしく彼女さんかナルかあたしかハッキリさせて欲しいっす!」
おめーら言われる筋合いはないんだが、俺は反論する気力すらなかった。ぐいぐいと胸を押し当てながら引きずるナルに、なんの抵抗もできない。
何もかも俺が悪いんだよ。もうそれでええわい……。
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