第17話 平和とは
「大丈夫じゃ。奴らも人目が多い場所で襲ってくるような
「本当だろうな」
「それに昼間は比較的安全じゃ。奴らは日光を嫌うんじゃ」
それは実にテンプレのような吸血鬼
「まあ日が暮れる前に帰ってくれば平気じゃろう」
俺は制服を着て登校の用意を済ませた後もガタガタ震えて、玄関から出ることができない。これはもう完全に遅刻タイムだ。
「わらわは忙しいんじゃ」
朝からPS4コントローラーを握りしめたド
「待っとれ虫どもなのじゃ」
超重粉砕迫撃砲を四
一時間目は完全な遅刻だった。初老の古文講師に頭を下げ、席につく。真面目に授業を受けていると、何を自分があんなにビビっていたのかわからなくなってくる。
学校は平和だった。
「なあ
昼休みに声ををかけてきたのは、クラスメイトの
「何食ってんの?」
「何って……昼飯だろうが」
「ふうん」
俺はタラコスパゲッティをちゅるちゅるすする。児玉はそのまま話題を変えた。
「五時間目の体育が、フットサルらしいんだけどさ、一緒に組まない?」
「ああいいぜ。勝手に組んでいいのか?」
「いいらしいよ。先生、組み合わせ考えるのめんどくさいってさ」
「
夏生とは体育教師の下の名前である。俺が思うにこいつは夏に生まれたのではないだろうか。どうでもいいことだが。こいつはマッチョのくせに
メンバー選びを任せておけば、勝ち負けは自己責任だ。適当に組ませて、ミスしただの、足を引っ張っただの、生徒同士でゴタつかれるよりは教師的には楽なのだろう。
ちなみに俺はフィジカルは悪くないのだ。体力テストでは上の中くらい。部活で一生懸命やってる連中を除けば学年でもトップクラスという自負はある。ではなぜ部活をやってないかというとなんだが……。
体調に波があるのだ。時に異様なだるさ、不快感に襲われることがある。こうなってしまっては、もう運動どころではない。さっさと家に帰って寝るしかないのだが、他に症状もなく、見てわかるものでもなく、こればかりは誰にも理解してもらえない。
そのため、俺は部活をしないと決めているのだ。
「しまちーとたかっぽに声かけといた。これで四人だ」
そうか。ガキっぽいあだ名は、小学生の頃からの友人だからということらしい。俺は昼飯をやっつけると着替えに向かった。
体育の授業は男女別なので、隣のクラスと
それはつまり
「火馬くん」
「どうした朗」
朗が声をかけてきた。メンバーに加えてほしいということだった。
「ほら。
相変わらず朗は入間のグループでパシリのような扱いを受けていた。本来はメンバー内で
そのため運動神経がなく、
「ちょうど一人足りなかったところだ。歓迎するよ。いいよな」
児玉以下、異論はない。こいつらも大した運動神経はない。体育の成績が最底辺の朗が加わったところで大差ない。勝つ気もさらさらない。
「まあゲームだから努力はするがね」
授業が始まる。いきなり試合だ。人数がいるのでさっさとやらないと時間内に終わらない。
のっけが入間のチームだ。相手はサッカー部がメインのおそらく最強チーム。
いきなり入間が先制点。入間のやつはサッカーもうまい。というかスポーツ万能だ。いけすかないやつではあるが、認めざるを得ない。空手なんて金にならないスポーツはやめて、野球かサッカーでもやったらどうだ、とこいつを見てるとそう思う。
「入間くんすごいよねえ」
感心したように朗が言う。同感だ。勝てるわけがないのに入間は頑張っている。点を入れれば飛び上がって喜び、取られれば本気で
ヤンチャで乱暴者だが、男女問わず人気があるのはこういうところだろう。パッと目をを引くのだ。
まあ俺とは
順当に入間のチームが負けた。当たり前だ勝てるわけがない。本当に悔しがる入間にサッカー部が健闘を称えている。今から入部しても、レギュラー取れるかも知れない、そのようなことを言っているが、半分お世辞で半分本気のようだ。
さて、俺らの出番だ。
コートに立つ俺らは実にサマになっていない。俺は身体を動かすのは得意だが、球技は得意ではない。運動神経のわりに器用さが足りないのだ。サーカスで言えば、飛んだり跳ねたりは得意だが、ジャグリングは苦手。そんな感じだ。それでもパス回しくらいはできる。
相手メンバーも似たようなメンツだった。こりゃ良い勝負になりそうだ。せいぜい
俺は朗にパスをした。朗は俺のパスをスルーした。パスと同時にあらぬ方向動いたのだ。あっという間に相手ボールだ。キックオフ早々これか。俺は軽く驚いた。
だがまあ、そこは俺らのやることだ。ボール目掛けて全員集合。まるでおしくらまんじゅうだ。ポジションもへったくれもあったもんじゃない。
ボールを取る。遠くに蹴る。群がる。その繰り返しだ。あまりに不細工だ。
この無様なゲームを
今度は相手がポジションを意識してきた。すると当然のように相手のカウンターが決まる。あっという間に同点だ。
こちらもポジションを作る。本当はゴールキーパー以外、三つのポジションがあるのだが、俺らにそんな細かい分け方は無理だ。
途端にゲームが
それでも俺は果敢に攻める。だが二人に
ところが気付くとその場所から朗が消え失せている。どうなってんだ。瞬間移動でもしてるのか。まるで狐に摘まれてるような気分だ。
この面子では俺が頭一つ抜けている。だが、朗にパスが渡らず、攻撃の決め手が生まれない。そうこうしているうちに時間が迫る。
俺はヤケクソでゴールに向けてボールを蹴った。壁二人の狭い隙間を通ってボールはゴールに向かう。まあ小さいゴールだ。当然のようにキーパーに弾かれる。もう時間ギリギリだ。これはドローと思ったところが、弾かれたボールが朗の顔面に激突し、ゴールネットを揺らした。朗はどうと背後に倒れてしまう。
なんとも冴えないゴールだが、得点は得点だ。かろうじて勝ちを拾えた。
「朗、大丈夫か」
「役に立てた?」
俺は笑った。役立たずが最後に役に立った。
勝てたのはお前のおかげだよ。
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