第12話 激闘
「右じゃ」
肩の上に乗るナンジャの指示に従って、俺は道を右に曲がる。
「どうした」
「
「餌?」
「はよう走るのじゃ」
「わかった」
俺は
「先に行くのじゃ」
そう言って、ナンジャは俺の肩から工事用のフラットパネルを乗り越えて、さっさと中に入ってしまった。
「おい!」
乗り越えようにもフラットパネルだ。とっかかりもなく、とても乗り越えられそうにない。しばし周囲を走りまわり、隣のビルの非常階段から、中を見下ろせることがわかった。壁を乗り越え足を伸ばすと、フラットパネルに足が届く。
「よっと……」
支柱パイプを足がかりに、なんとか進入に成功する。パネルが倒れるんじゃないかと心配したが、現場のおっさんが良い仕事をしたらしい。無事に着地した俺はそのまま、
鍵の心配はなかった。なぜなら扉が半開きだったからだ。
建物の中に一歩踏みこんだ瞬間、空気を
「あれ?」
奥から黒い何かが伸び、たったいま
「やべえな……」
完全に
床にはいつくばる影を見つけた。
俺は影に駆け寄り、
「息はしてる……な」
口元に手を当てると呼吸を感じる。
ぐったりしているが命に
シュボウッ、と音が聞こえ、光が闇を貫く。ナンジャの雷撃だ。すでに戦いは始まっているらしい。もう一人女子高生を見つけた。長い髪の細い子だ。持ち上げる。二人合わせて合計100kgを越えている。これは運ぶのは無理だ。
俺は二人を
「おっと」
後ろ跳びに、影の攻撃をかわしたナンジャの身体を避けきれずとっさに受け止める。
ナンジャの右手にはあの
「おぬし……」
そのまま柱に隠れる。たったいま立っていた足元に、影の槍が突き刺さる。あぶないところだった。
「邪魔じゃの」
「おいおい、せっかく来てやってんのにどういうこった」
「うーむ、さっさと
あれ? 何か脳に違和感を感じる。あーこれ……。
完全にやられてるわ、と認識したが、とりあえずこの状況を何とかしてからだ。
「何すりゃいい?」
「今はない。せいぜいわらわの稲妻に気を付けるが良いのじゃ」
確か稲妻は秒速150km。うん、せいぜい気をつけることにするよ。
「てや!」
ナンジャが稲妻を放つ。俺はとっさに飛びついてナンジャの杖を掴んで
「なにするんじゃ、おぬし。邪魔するんじゃないのじゃ」
「なにするんじゃじゃねえ! お前はあれが見えないのか!」
「見えとるが?」
「見えとるがじゃねえよ!」
影を
人間だぞ。お前は人間相手に電撃喰らわせる気なのか。
「拾ったのじゃろ、あの二人を。心配いらん、死ぬほどではないのじゃ」
と、ナンジャが電撃を放つ。女子校生が避けると、コンクリに穴を
「ナンジャー!」
「ちょっと手元が狂っただけじゃ」
「そっちじゃねえよ! 威力が強すぎねえかっての!」
「なりそこないになりかけじゃ、この程度、なんてことないのじゃ」
「信じていいんだろうな!」
「当たり前じゃ」
再度、ナンジャが電撃を
「うーん、狭い場所では電撃が
全然信じられねえ。
「うーん」
ナンジャは首を
「本調子じゃないのじゃ」
「不調で何人も殺しかけんな! ……どうすんだこれ」
ギャルの身体から槍が伸びる。カカカカッとコンクリート壁に穴を
「殺すのか」
「まだ人間に戻せるのじゃ。要は電撃で、あるじの毒を焼き尽くしてしまえば良い。じゃが……」
ナンジャが杖で影の槍を叩く。バチバチッと、火花が目を
「こいつはさっきの二人より毒が強いんじゃ。加減がめんどくさいのう。このおなご、いっそ最大火力で……」
「ダメに決まってんだろ!」
「この女がなりそこないに
ボケかマジか判断がつかない。そんなナンジャにガチツッコミは無理だ。
「とりあえず最大火力はやめてくれ、
ふんと鼻を鳴らすナンジャ。大きく杖を振りかぶる。
「まあ心配するななのじゃ! 電撃でおぬしの心臓が止まっても、心臓マッサージくらいしてやるのじゃ!」
「そりゃありがてえな!」
ナンジャが電撃を放った瞬間、俺は柱から飛び出した。稲妻がギャルの目をくらます
「な、なにをしとるんじゃおぬし!」
「いいから攻撃続けろ! 俺に当てるなよ!」
「無理いうななのじゃ!」
俺はばたつくギャルの足に必死にしがみつく。スカートがまくれるが、パンツに目をやる余裕もない。
ナンジャが電撃を
俺もそこそこ腕力には自信があるぜ。絶対に離すもんか。
「ナンジャ! いまだ!」
俺ごと撃て、という意思表示だ。さっきからナンジャの電撃は不安定だ。今の攻撃は危険すぎる。俺を殺さない程度の
俺はナンジャを信じる。
「ふん」
ナンジャが一気に距離を詰めると、ギャルの胸に杖の
「んぎゃあああああ!」
柄から稲妻が絶え間なく流れ出、俺たちを包み込む。皮膚一枚の下に絶えず流される電撃が、全身の筋肉を
メチャメチャ足が痺れた時のあれが、全身を包み込むような感覚だ。
「……なにをやっとるんじゃ、おぬしは」
おう、それは自分で自分に聞かせてやりたいぜ。まさかこのガキ、ここまで
ようやく電撃が止まると、ナンジャはギャルの髪の毛を
「見とるか? こやつのあるじよ」
ナンジャがギャルの目を覗き込みながら、ささやく。俺は思い出した。なりそこないと
「ようもまあこんな安い
ナンジャが
「確かに餌を
喰いカスとはこないだのなりそこないのことだろう。つまり警告とは……。
「のうあるじ、ぬしはそれとわかってわらわの目の前でポイ捨てして見せたのじゃ。それはつまり、そのつもりである、ということじゃろ。よろしい、ならば戦争じゃ」
ギャルがナンジャの手首に喰いつこうとする。ナンジャが電撃を流す。のあああああ。俺まで
「なに、ぬしに
ナンジャが杖を
「
え? そっち? そっちを名乗るの?
「そして……おい、なのじゃ」
電撃で息も
「おぬしのなまえ……なんじゃったかな……」
「カ、カ、カ、カイ…………」
そういえば名乗ってない。というかこの流れで名乗らねばならんのか? 完全にろくでもないことにしかなりようがないではないか。おいナンジャ、どうする気だナンジャ。
「カ、カ、カ……カンジャ……」
ナンジャに抗議したつもりが、電撃で痺れた舌からおかしな言葉が出た。カイヤとナンジャが混ざったのだ。だがこれ
「……ってことでよろしく」
本当の名を吸血鬼に知られるより相当マシだ。
するとナンジャは俺の顔を、ギャルの眼前に突きつけて叫んだ。
「こやつの名はカンジャ!
うおおおおナンジャ! こいつめ! 吸血鬼に俺の顔をドアップで
結構、珍しい苗字なんだぞ!
「てやあ!」
ナンジャの杖から伸びる稲妻の
俺は特大の電撃を浴び、全身がジーンと痺れると痛みも衝撃も感じるまもなく、自分の心臓が止まる感覚を覚えた。
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