第11話 ギャルとドンキと由葉沙希と 2
「ナンジャちゃん。おにいちゃん、もういじめないって」
「恥ずかしがり屋さんなのね」
クスッと笑い、沙希が距離を
「どうした?」
ナンジャは俺の背中から、沙希の顔をじっと見つめている。
沙希は気を悪くするでもなく、しゃがみこんで。
「お姉ちゃんのこと嫌い? あんまり嫌うと、ナンジャちゃんから、おにいちゃん取っちゃうよ?」
ちらりと俺に視線を投げる沙希。
「取ってもいいけど、近づくななのじゃ」
「あーっ」
笑いながら
「どうする
「なにが?」
「あたしに取られとく?」
まーたこいつは。
「お前に取られるなら
「んふ」
というと、沙希は俺に腕を
「じゃーね、ナンジャちゃん。おねーちゃん、おにいちゃんを取っちゃうね。バイバイ」
そのまま店先まで連れてかれてしまう。ナンジャは置き去りだ。
「さてと……」
沙希が身体を離す。
「いじわるしちゃった。ナンジャちゃんに謝っといてね」
「気にすんなよ。そんなタマじゃない」
「
両手の指を
「ナンジャちゃんと仲良くしたいな。よろしくね、おにいちゃん」
エンジのベルトで巻いたチェックのラップスカートをなびかせて、立ち去ろうとする。
「あー、沙希」
その後ろ姿に俺。
「なあに?」
振り返る沙希。
「その服、似合ってるな。俺みたいなガキには釣り合わないくらい大人っぽいぜ。ナンパに気をつけて帰れよ」
その言葉に、口を手に寄せて、あははと笑う沙希。
「どう解釈すればいいの? わたし、褒められたの? 遠回しに振られたの?」
「さあな。好きにとればいいぜ」
沙希が行ってしまうと、いつの間にか隣にナンジャがいた。
「世界は広いのじゃ」
腕組みして、なにやらつぶやくナンジャ。
「おぬしはあれと付き合ってるのかなのじゃ」
「ねえよ」
「それにしては
「いつの間にかああやって
「はー、ややこしい間柄があるもんじゃのう。それ、いくとこまでいったらどうなるんじゃ」
ど、どうなるんだ。それは考えたことがなかったぜ。
「それにしても意外だったぜ」
俺はナンジャを見下ろして言った。
「お前が
「人見知り? わらわが?」
ありゃ? ナンジャの表情に眉をひそめてしまう。
この表情、俺の勘違いのようだ。
「沙希が仲良くしたいってさ」
「わらわがあやつと? それは無理じゃぞ」
「どういうことだ?」
「あやつはわらわの
「おおん?」
「わらわが
ちょっと待て。ナンジャが聞き捨てならんことをノベた。
「精神操作だと?」
なにをいまさらという顔で、俺を見上げるナンジャ。
「血まみれの記憶など
「そこじゃねえ。お前は人の記憶を
「前も言ったじゃろう。襲われてたおなごの記憶を……」
言ってたな。聞き流してたわ。まだこいつのことを信用してなかったし、
「たまに
なるほど、幼女一人がウロウロして平気な理由がひとつわかった。
「おい、あの店員はひょっとして」
「あれは
だと思ったよ。あの迫力は、完全オリジナルだ。人に操られて出せるオーラではなかった。
でもそこではない、
「……俺はどうなんだ?」
「あー……残念じゃ」
面白くないという顔でそっぽを向いた。
「おぬしに効いてたら、店での苦労はなかったんじゃー……」
「ふっ、だろうな」
内心ヒヤヒヤしていたが、アパレル店での
「お前のようなガキに
「……いつか操り人形にしてくれるのじゃー」
「やかましいわ」
「高いのじゃー! 速いのじゃー!」
「わはははは」
肩車して走り出す。見た目通り、お前軽いなあ。
「
「なにを言っておるのじゃ、お前に忘れられても痛くも
俺にはわかる。強がっているが、ナンジャは照れた顔をしているに違いない。俺は気づかない振りをしてやる。
小さい女の子が、得体の知れぬ化け物と
ならこいつが心を操ることのできない俺は、こいつのことを覚えておいてやる義務がある。俺ができる小さなことと言えば、そのくらいのものだ。
さてもう用事は済んだ。日が暮れる。家に帰って飯の
今日はスーパーでたらこを買って、パスタを買って、そしてたらこだ。
おっとたらこも買わなきゃならないな。パスタも忘れず。
そして肝心なのはたらこだ。そしてたらこ……。
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