第10話 ギャルとドンキと由葉沙希と 1
会計を済ませて店を出ると、ナンジャはギャル女子高生に囲まれてた。
「ウェーイ」
「あ、あんたら、ちょっと待ってくれ」
「なに?」
女子高生がうろんな目でこちらを見ている。三人組だ。手に
俺はナンジャの背後に周り、両肩に手を置く。
「こいつの
「えー? なに関係? 全然似てねーし」
「あー……兄だ。ぎ、義理の」
女子高生からわっと声が上がる。
「やべー。こんな可愛いギリの妹ってやばくね?」
「
「一生の運使い果たしてるっしょ。ぱおん」
「そうだ、妹は可愛いんだ。だから
女子高生は顔を見合わせる。
「……そーいうことならまー」
「妹さんの
「しゃーない消しとくわ」
よかった。話のわかるギャルどもで。胸を
「じゃ最後におにーさんもいっしょに」
全員集合で、パシャリ。
「おにーさんだけ空気ちげーしww」
「ギャルに囲まれて少しは嬉しがれしw」
「両手に花のチー
写真はエアドロップでシェアしてもらう。別にいらんが刺激しないように適当にノリを合わせとく。ナンジャ目当てに遊びに誘われたが、何とか振り切って、その場を離れる。
「ナンジャ」
「なんじゃ」
「これが怖かったんだよ、お前は目立ちすぎる」
ナンジャの機嫌はすっかり治っていた。ぴょんと跳ねるとあご下ピースでウインクポーズ。
「似合ってるかなのじゃ」
似合ってるどころじゃねえ。目を奪われんだよ。
「調子に乗んな」
「なにするんじゃ~」
ナンジャの頭をワシワシする。ちいせえ頭だなおい。
「お前が言ってたんだぞ、俺らは狙われてるって。
だからこその俺
「平気なのじゃ、わらわはそこそこ強いぞ」
「基準がわかんねえよ」
「なりそこないの強さはあるじの強さに
ナンジャが胸を張り、キメ顔で言い放つ。
「こないだのあれな、わらわはあれの十倍は強いぞ」
うーん頼もしい。俺はナンジャの手を引いて、店に入る。
「いかにあるじが強いとて、なりそこないの十倍はあるまいてなのじゃ」
「そうかそうか。で? お前はどの髪色がいい?」
山と積まれた
「お、おぬし話を聞いとるのかなのじゃ」
「聞いてる聞いてる、聞いてるが念のためだ。お前の目立つ髪色をだな。その他大勢と同じに染め倒す」
ナンジャが髪に手をやり、さっと青ざめる。
「やー、なのじゃー」
「おとなしくしろ。俺のためだ。我慢しろ」
「おぬしのためだけなのかなのじゃー」
俺も命がかかってる。用心に過ぎることはない。手首から必死に俺の手を引き
「これは一族
しかたがない、ナンジャが役に立たないならば、俺が染髪料を選ばざるを得ない。暴れるナンジャの手を握り締めたまま、染髪料の箱をひっくり返していると、背後から声がした。
「
「沙希か。お前こそ何だよ。ドンキに何の用だ」
「わたしは火馬くんの姿が見えたから、様子を見にきたの。なあに? 女の子いじめてるの?」
「そうなんじゃー、ひどいんじゃー」
「あーこの子」
にっこりと沙希が
「こんにちは、わたし
腰をかがめて目を合わせる。ナンジャは沙希と目を合わせるも、なにも言わず、じっと見返している。
「こないだの女の子でしょ、火馬くんが校庭で鬼ごっこしてた」
言われて顔が勝手に赤くなる。バツが悪いにも
「学校中で噂になったのよ、火馬くんが小さい女の子と抱き合ってたって。週明けが楽しみね」
恥ずかしいったらありゃしねえよ。あーと声を上げて頭を
「あのこ、誰なの?」
「あー、
「全然似てないじゃない」
「
「血の
「デートじゃねえ。しばらく預かることになったんで、服を買いに来てやっただけだ」
「あのかわいい服? 買ってあげたの? ますます妬けちゃう」
ナンジャが商品
「ここではなにを買ってあげるの?」
「染髪料だ」
「なにそれ? 火馬くん、髪でも染めるの?」
「あいつの髪を染めてやろうと」
「……なに考えてるの火馬くん」
腰に手を当てて、顔を近づけてくる。
「
「こ、校則違反だからだ。日本の学校では
適当に話を作ったんだが、沙希は
「どこの学校? 小学生に髪を染めさせるなんて許せない、しかもあのこ、外国人でしょ。わたし抗議してくる」
思わぬガチな反応に俺は
「う、嘘だ。校則のことは嘘だ。髪を染めるのも嘘。ちょっと生意気だったから、脅かしただけだ。髪を染めるつもりなんてない」
こっちの方が嘘なんだが、この場を
なんて日だ。今日はおっかない女どもに、俺の計画がことごとく
「ふーん…………」
「ねえ、あの子なんていうの?」
「ナンジャ」
「ナンジャ? 変わった名前ね。なにナンジャ?」
「ひ、火馬ナンジャ」
「ひまなんじゃ? あはは、本当なのそれ?」
名を聞かれる場面を想定していなかった。とっさに答えたが、今回ばかりは、マシな嘘も思いつかない。
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