第7話 湯上がりアイスを半分こ

「あの影はなんだ?」


 風呂に入ってるうちにいつの間にか冷蔵庫からアイスを取り出し勝手に食っているナンジャ。


「あれはな、大したことない。獣で言えば犬ころみたいなもんじゃ。獲物えものとしては物足りんのう」

「犬ころ一匹でも普通の人間にはたいしたもんだ。警官三人十三発の発砲でようやく制圧せいあつした例もある……俺が聞きたいのはそういうことじゃねえよ。お前言ってただろ、バンパイヤとかなんとか……」

便宜べんぎ的にそう呼ばれとる。人鬼ひとおに、バンパイア、イモータル等々、じゃがあれは真性しんせいのバンパイヤではない。いわばバンパイヤのいカスじゃな」


 アイスを食い終えたナンジャが冷凍庫を開けてもう一個アイスを取り出す。俺は首根っこを掴む。


「おい、お前さっき歯をみがいたばかりだろう」

「も……もう一回、磨くのじゃあ……」


 泣きそうな顔でアイスを握りしめるナンジャ。たかがアイスでそんな顔をするなよ。


「これはもともと俺の分で最後の一個だ。半分こなら許してやる」

「わーいなのじゃ」


 俺も湯上がりなのでアイスが欲しい。半分に分けようとすると、大きいの小さいのとナンジャがケチをつけてくる。


「ならお前が半分こにしろ。そして俺が先に選ぶ。これで双方そうほう文句なしだ。お前が正確に分ければいいだけだからな」

「ぬ…………」


 ナンジャがアイスを分けようとするが、ちまちまとけずったりうつしたり、なかなか決まらない。そのうちアイスがけて、涙目なみだめになってきた。


「時間切れ。俺はこっちをもらう」


 と言ってさっさと皿を取り上げてしまう。ナンジャがにたーっと笑う。


「わはは、大ばかなのじゃ! そっちは小さい方なのじゃ!」


 わざとだよ。それにたいして差なんかねえよ。それより溶ける方が問題だよ。


「アイスのことはいい。それより吸血鬼の話だ」

「この男……小さい方を取りおった……」


 バカめ! と、してやったり顔で俺を見返しながら、上機嫌じょうきげんで話し始めるナンジャ。


「人間が生き物を食わずば生きられぬように、人間の血やせいすすらねば生きていけぬものどもがいる。それがバンパイヤじゃ」


 バカめ! と二度めのドヤ顔をくれてくる。アイス一個でそのはしゃぎよう。俺もゆずってやった甲斐かいがあるってもんだ。


「説明したようにさっきの影はバンパイヤの喰いカスじゃな。バンパイヤは眷属けんぞくを増やすことができる。眷属を増やすにも決められた手順があるのじゃが、なんらかの理由でそれが失敗した時に、なりそこないが生まれるのじゃ。その場合、あるじが始末しまつするのがつね……」


 バカめ! と三度めのドヤ顔。ちょっとイラッときた。


「……なのじゃが、奴らにもいろいろおってな。面倒めんどうくさがりとか喰い散らかしとか、ざつな奴らがいるのじゃ。奴らには理性も知性もある。きちんとしてる奴もおるのじゃがその実、そういう雑な奴らの方が厄介やっかいなのじゃ……なぜなら…………」


 さっきまではしゃいでいたのに、いつの間にか船をぎ始めていた。子供の眠りだ。突然電池が切れる。


「おい、話の途中だ。歯も磨いてないぞ」

「くあー……くあー……」


 このガキ……。俺はナンジャを小脇こわきに抱え、洗面所に連れてゆく。むにゃむにゃしているナンジャの口に歯ブラシを突っ込んでゴシゴシやり、今は使われていない、親父の寝室に放り込む。

 俺は自室に戻り、ベッドで色々思いをめぐらせる。が、いつの間にか眠りこけてしまった。

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