第6話 影との戦い 2
「来たのじゃ」
ナンジャが杖を持って立ち上がる。
「これでおぬしの無実は確定じゃ」
「そんなことはわかってんだよ!」
ガラス
「ついてくる必要はないのじゃぞ」
あっという間にあの丘にたどり着く。ナンジャの前に黒い影がうずくまっている。
黒い、熊のような大きな影だ。ナンジャが小鹿に見える。
俺は恐怖も忘れ、ナンジャをかばおうと追いすがる。
が、俺の手が届く前に、影がぐうっと
その時だ。
ナンジャが杖を空に向け、振り下ろした。
シュボウッ!
白い稲妻が影を撃った。空気が焼け、オゾンの匂いが鼻を突く。影は
な、なんだこれは。これをナンジャがやったというのか。
「最初の一撃で
飛び
「印から逃れるには、
再び杖を振り下ろす。影は
「
「おいコラ!」
飛び上がろうとする、ナンジャの頭を
「ななななんじゃ」
「うるさい、なんだあれは」
地面にはまだ、稲妻をまとってのたうちまわる影の肉片が転がっている。
「お前は俺にこれをやろうとしたのか」
「し、心配ないのじゃ、人間には
「あーん?」
見る間に稲妻は肉片を
ナンジャはそう言うが、俺の頭に引っかかるものがある。
俺が受けた電撃はなんだったんだよ。
「もういいじゃろう、わらわは追うのじゃ」
「……俺も行く」
「死んでも知らんのじゃ」
「毒を食らわば皿までよ」
巻き込まれたとはいえ、この
ナンジャは自転車の
「
「おい……」
俺はしょうがなく、自転車を発進させた。
「妙なやつじゃな、自分から来ておいて、なぜ逃げたのじゃ……それにわらわはそんなに強い印を刻んだ覚えはないのじゃが……」
走りながら、ナンジャが呟く。
印とは、前日、俺が追いかけられた丘の前で影と
「ま、加減を間違えたのじゃろう」
ナンジャが杖を振った。
ナンジャが自転車をおり、距離を
落ちた影が、背中を丸める。引き
「しゃらくさいのじゃ」
影の攻撃は、残らず杖に打ち落とされ、ナンジャはすたすたと散歩のように歩を進める。
「
ナンジャの全身が
「おぬしは、わらわが何者かと問うたな。わらわは魔法使い。この世のことわりを正すもの。そして……」
ナンジャの杖が光り輝く。高電圧の気体が
「時にこのように
ナンジャが杖を伸ばす。プラズマが放電し、稲妻を放つ。稲妻が影を撃ち抜く。
「わかりやすい名で言うとバンパイヤキラーじゃ」
雷光が影を包み、
「ぬしらに罪などない。いずれ……」
ナンジャが目を伏せると、燐光が消える。
「わらわもまた
「な、なにするんじゃあ」
「それはこっちのセリフだ、みろこのザマを!」
俺の乗っていた自転車が
「死ぬとこだっだぞおい!」
「死んでも知らんとわらわは言った!」
「……言ってたな」
「ほらあ!」
ナンジャは泣きながら抗議する。だが俺は
「人間には
「あー……直接は効かないんじゃ……じゃが
「つまり昨夜の雷はやはりお前の
俺はナンジャの細い首をきゅーっと締め上げる。
「死ぬとこだったじゃねえか!」
「かんべんなのじゃー!」
ナンジャの叫びは天まで届いた。
散々
玄関をくぐるとちょうどピーピー音が聞こえた。洗濯機の乾燥が済んだ合図だ。
「おら、洗濯が終わったぞ。今後こういうことがある時はちゃんとパンツを
「夜だからどうでもいいのじゃ。どうせ見えんし」
こいつは俺のTシャツ一枚でドタバタ走り回っていたのだ。ツッコミを入れようにも非常事態で、指摘する場合ではなかったのだ。
「とにかく洗濯物を回収しろ。シワになる前に
「まったく口うるさいのじゃ……」
ぐずぐずと泣きながら、とぼとぼ洗面所に向かうナンジャ。
ふう、俺は疲れた。ナンジャがどいたら風呂に入ろう。その時だった。
「ウギャーーーー!」
「ど! どうした!」
ナンジャの
「お、おぬし……おぬしというやつは…………」
「な……なんだ?」
「おぬしのパンツとわらわの服を一緒に洗濯したというのか!」
「…………………………あー…………………………」
「お主の
はいはい、お前が着ているTシャツも散々、俺のパンツと一緒に洗濯しましたよ。大体、いちいち洗濯物を分けてたら…………
「水道代がもったいねえじゃねえか!」
俺はナンジャを叩き出して、服を脱ぎ、風呂場のドアを開ける。
そして空っぽの
「水道代……」
水道代もそうだが、全裸でカラの風呂桶を見下ろす気分の
あーあ。
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