第4話 幼女襲来

「デートはいつ?」


 などとおちょくる沙希さきを無視して、帰宅を急いだ。

 昨日のことが頭を離れず、俺は日が暮れる前に家に着きたかった。丘沿いの道を外れると遠回りだが、止むを得ない。二倍の時間をかけて家にたどり着いた。


「ふう……」


 家のベッドで横になると、安堵あんどと共に、自分が何をそんななビビってたのかよくわからなくなってくる。そのうちとろとろと眠くなってきた俺は、晩飯の用意の前に眠りこけてしまった。

 不穏ふおんな気配を感じたのは、目を開ける前だ。腹の上に何かがのしかかっている。目を開くとあの幼女だ。昨日と同じように杭を振り下ろしてくる。


「うおおっ!?」


 俺はとっさに杭を白刃取しらはどりで受け止めた。しょせん幼女のパワーだ。縛られてなければこんなもんよ。


「でえい!」


 俺は幼女を振り下ろすと立ち上がった。

 床に転がるもなおも闘志とうしを曲げない幼女がゆっくりと身を起こす。銀髪を背中で揺らし、白いワンピースの胸を張る。口角こうかくを上げ、傲岸ごうがんにもあごを上げて俺の目をまっすぐ見つめている。


年貢ねんぐおさどきなのじゃ」

「取り立てられる年貢なんて身に覚えはねえよ」


 ふん、と鼻を鳴らす幼女。


「身に覚えがなくても取り立てるのじゃ。観念するがよい」


 幼女の手には杖、だろうか。握りの部分に複雑な幾何学きかがく模様もよう彫刻ちょうこくされている。それを振りかぶると俺めがけて振り下ろしてくる。


「くらうのじゃ!」


 ポカリ。


 当たった。俺の頭に握り部分が当たる。握り部分は金属だ。痛いに決まっている。


「何をするこのガキャ……」

「あ、あれ……」


 なぜかあわてる幼女。


「くらえ! くらうのじゃ! えいっ! えいっ!」


 ぽかりぽかりと幼女の打撃を立て続けに食らう。幼女はメチャメチャに振り下ろしてくる。


「な、なぜ効かぬ……」

「効いてるわ。痛えぞこのガキ」


 俺は幼女の首根くびねっこを掴むと、床に押さえつける。


「杖が……杖が効かぬのじゃ……こいつは何者なんじゃ……」

「それはこっちのセリフだ」


 なおも振り回す杖を取り上げる。年の頃は十歳前後だろうか。いや、おそらくもっとおさない。せているので手足が伸びきっているように見えるだけだ。力は非力で、片手で軽々と押さえつけられるくらいだ。


「お前が誰かわからんが、俺の命を狙うからには、狙われる覚悟はあるんだろうな?」


 押さえつけた頭の上で低い声で囁く。脅すような声に怒りを混ぜる。ちょっとしたお仕置きだ。幼女が手足をバタバタさせる。非力ひりきすぎて面白くなってきた。


「よーし、時間切れだ。お前がどこの誰であろうが、この世からいなくなってしまえばどうでもいい話だ。覚悟はいいな」

「ひあああああ~~~~……」


 耳元で脅し文句を並べると、幼女が情けない声を上げた。急に幼女の身体から力が抜けたかと思うと、何かが膝をらした。床を見るとじわじわと水たまりが広がっている。


 こ、このガキ、らしやがった! なにしてくれる! 俺の部屋だぞ!

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