第51話 お腹いっぱいですね
ぐでぇ
「ああ………一体何が起こっているんでしょうか……全然身体に力が入りません」
すべての力がなくなったスライムのように彩夢は某大手家具店から拝借してきたベッドの上で倒れていた。
「頭がボーっとするし手や足の先に至るまで私と違う誰かが私を操作しているようです……」
「口はちゃんと動くようじゃないのよ」
「うう………」
「私は医者でもなんでもないから断言はできないけどまあ多分風邪だと思うからしばらく動かないで寝てなさい」
「うう……まさか菌やウイルスは普通に動いているなんて……予想外でした」
「………そりゃまあ動いててもおかしくないよね冷静に考えりゃ……僕達が動いてるってことは酸素は普通に肺の中に入ってんだから……食べてる食品の中に何か変なものが入ってる可能性もあるし」
雅也は彩夢のすぐ隣のベッドですまし顔のままどこか遠くを見つめていた。
「マー君も今は彩夢に突っ込まなくていいから。質の悪い彩夢ウイルスがマー君の中を侵食してるってこと忘れないで」
「私は病原菌ですか?」
「あんたの中で再生成されたウイルスは尋常じゃない効力を持ってそうだからね」
「あの……普通病人にはもっと優しくするものじゃないですか?」
「随分優しくしてるじゃないのよ。ほら、あーんして」
「あーんです」
先ほど作っておいたおかゆをレンゲですくって彩夢の口の中に入れた。
「おお……沁みますぅ。未来さんってお料理作るの上手なんですね」
「一通りは出来るわよ。それにおかゆくらい誰が作ったって同じような味になるでしょう」
(そんなことよりあんたの唇の方が美味そうよ)
「そうですかね?シンプルな料理だからこそ個々人の技量が光ると思いますよ」
(光ってるのは貴方の口から綺麗に垂れた涎のことよ……もう、仕方ないわね)
「そうだよ未来ちゃん……それに火をおこすのも面倒だったろうに」
「い、いやいやそんなこと全然ないよマー君!!!!!私からすればちょちょいのちょいってもんだからきりもみ式で閃光のごとくだから」
(むぅあからさますぎるくらいに対応が違います……くそぉ、私が元気だったらきりもみ式で火を起こしたのに)
「ほらほら、マー君。あーんしてあーん」
雅也は黙って口だけを大きく開けた。舌を器用に使っておかゆを喉の奥にしまい込んでいく。
(ああ、普段はあんまり見えないけど近くで見るとマー君ってこんな舌裁きしてたんだ。ジュルジュルって吸い込んでいく感じがする……食べられちゃっても美味しそう)
「うん。確かに美味しいよ今まで食べてきたおかゆの中で一番美味しい」
「ありがとう!!!」
(私ったら風邪で耳まで参ってるんでしょうか……未来さんの声が随分と甘い気がします……あの初心な未来さんに限ってそんな分かりやすいシグナルをだすわけが……)
何とか懸命に耳を澄ましてみるが「まあでも火加減にも注意したし」「料理は愛情って偉い人は良いこと言ったよね」「ほらもう一回口開けて、あーん」すべてが甘い気がする。
(もし未来さんが積極的になったのならそれはそれで素晴らしいことではあるんですけど人ってそう簡単に変わるものですかね?
ああ駄目です、やっぱり頭が回りません。最高に妄想するべき何かであるはずなのに……無念です)
最近少し未来の中の倫理観か何かが弾けてきたことに彩夢は気づき始めていたのだがすぐさま謎すぎる悔恨の念に埋め尽くされてしまった。
「あ、そう言えば私まだ一口しかおかゆ食べれてません」
小腹がすいたことに遅ればせながら気づいた。
(でも意外とお腹いっぱいだったり……しますね)
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