第50話 キスの妄想しましょう


 

 雅也は自分の胸をしっかりと抑えて誰もいない場所で呟いた。


「僕って二人のこと好きなのかな?うーん」


 柄にもなく座禅をして目を瞑った。

 座禅は慣れてないと苦しいなんて言われるがしかし雅也は案外楽々と出来た。おかげでふっと精神世界の中へダイブを出来る。


(真剣に考えろ、僕は現時点でたった一人の野郎なんだ。そんな僕が一番しっかりしないと冗談でもなんでもなく世界が終わるんだぞ)




 ちょうど同じころ彩夢はハンモックを作ってブラブラと寝転がっていた。


「ふぅ……空が青いですね。あ、あの雲良く見たらお茶碗みたいですね。アハハ、それにしても私達がやってることって」


 青いキャンパスに自分の顔を映しながらとある真実に辿り着く。


「活発なニートでしかありませんよね。そろそろ本腰入れないと妊娠適齢期を過ぎちゃいます……ちょっと妄想してみますか」


 やたらと格好をつけて額に指をつけた。


「妄想展開!!!」


 そう言い放った瞬間彩夢の世界の色が変わった。


(まずは私がどの位雅也さんのことを好きになったのかを確認してみましょう……えっと、まずはキスのシチュエーションから)



『雅也さん、目を閉じてください』


『え?』


 彩夢は雅也へと身体を寄せ付けていく。


『素敵な匂いがします……さぁ、私達の愛を確かめ合いましょう』


『うん』


 二人の口と口が重なり合った。そして彩夢が雅也の首を抱えてより深い口づけをかわす。


『ンッン』


 ジュルジュルジュルジュル

 脳髄を熔かすような艶めかしい音が直接骨に響き渡る。一つの音がするたびに彩夢の体温は高くなっていき、血管の底から幸せが溢れ出てくる。


『ああ……いいですねこれ』




 その様子を妄想した彩夢は渋い顔になる。


「なんか違いますね……私と雅也さんはこういうステレオタイプのキスは多分しないと……いやいやいやいやそうじゃないでしょう、私がどの位雅也さんのことが好きなのか問題です!!!


 でもその点からすればなかなかいい感じだったんじゃないでしょうかね。キスするだけで幸せになるって言うのは愛がないと無理なやつ………はっ!!!!」


 彩夢は思い出した、その昔父母やにいにいねえねえと毎日のようにキスをしていた時も同じような感触が覚えたことを。


 愕然としガクリとハンモックの上で項垂れた。


「なんてことですか……もうすでに家族の域に達しているなんて……いやまさか、きっと男女特有の甘いものが混じっているはずです!!!!そうだ、未来さんの方で妄想してみましょう。きっと何かの違いが生まれるはずです」




『未来さんの唇ってプルプルしてますよね。とっても麗しいですよ』


『ちょ、あんた何言ってんのよ……恥ずかしいことをそんなスラスラと』


『恥ずかしいですか?それはそれとして未来さん、キスしても良いですか?』


『え?ちょっと……まあ女同士だし別にいいけど』


『うふふ、そうですかなら失礼して』


 そっと柔らかく唇と唇を合わせた。


『んんっんんん』


 未来の顔が蕩けていくのを間近で見るだけで彩夢の心はポワポワとしてくる、舌先どころか足の先まで痺れてきているのは気のせいではないだろう。


『ううんっ♡♡』


『うふっ、お味はいかがでしたか?因みに私はとっても幸せでした』


『うきゅぅぅう』






(んーーーーーー幸せな気持ちは全然変わってないですけどベクトルがどこか違うような気がするのでよしとしますか………あれ?私って未来さんとキスとかするべきなんでしょうか?まあ楽しければそれでよしです!!!

 甘―い甘―い時を過ごせるのは最高のハッピーですからね。次はどんな妄想しましょうかね)





 本来の目的をすっかり忘れて一人妄想を楽しむ彩夢、一方の雅也は。


「なんていうか……うっすら恋愛対象になりえるかなレベルにはなってる気がする……いやなってる!!!!!そう思おう!!!!!」


 一人大声で断言した雅也の中では二人との距離がググっと近まったのであった。


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