第44話 会議は踊るそして綺麗な顔だね

 会議は踊るされど進まず。

 何故か三人の話し合いは思い出話にすり替わっていた。


「それで他にはどんな説があったんでしたっけ?」


「あれだな。メンインブラック説、神様が怒った説、僕達だけが時間に取り残された説、精神と時の部屋に迷い込んでしまった説、能力者が何処かで生まれた説、パラレルワールド説、夢説。まあとにかく馬鹿みたいに馬鹿な説を出しまくったよな」


 懐かしむように彩夢はどこか遠くの世界を見た。


「ああ、結構いっぱい出してたんですね。どれも渾身の説何ですが一つたりとも裏付けが取れてないのが口惜しいです」


「そうなんだよな。たとえ僕やお前、未来ちゃんが出す説に答えが合ったとしても正解かどうかが分かんない、それがネックだよね」


「マー君そんな肩を落とさないでよ。想定しているだけでも全然違うって昔言ってたでしょ」


「ああ、将棋を教えた時そんなこと言ったね」


 雅也はゴロンと仰向けになって天を仰いだ。もう何千回も見た全く同じ景色であるがそれでも青空は美しいと思ってしまう。


(僕も疲れてんな……美しいとかそんなもん気にする玉かよ)


 頭の中に流れていく彩夢のとんでも説の数々を真面目に処理していた雅也は急激に疲れていった。慣れているとはいえ膨大な数になると疲れるのだ。


(うん、まあ疲れるのは当然だね。とは言え彩夢がどんどこ出しまくるとんでも説の中に真実が隠れてるかもしれない……そう考えると無碍に出来ないんだよね。

まあそうでなくっても彩夢や未来ちゃんのことをぞんざいに扱う気なんてサラサラないけどね) 




 雅也と彩夢が出会って数か月のある時、彩夢はゴロゴロゴロゴロゴロゴロひたすら転がっていた。それなりに広い広場で人がいるにも関わらず時が止まっているのを良いことに転がりまくっていた。


『彩夢、お前それ酔わない?』


『あ、雅也さん………ぶっちゃけ酔います!!!!ですがこうしてるとなんか面白い考えが湧いて出るかと思って……ほら、よく頭の回転が速いって言うじゃないですか。身体ごと回したらさらに加速してめっちゃくちゃグッドアイデアが出るんじゃないかって。

 雅也さんも思ったことありますよね』


『ないよ』


『え!!!!???』


 心の底から驚いた顔と声であった。


『回るんですよ、グルグルグルグル、ゴロゴロゴロゴロ、回るんです!!!』


『うん、回ってたな。でも……いや』


 雅也はこの時すでに悟りを開いていた、彩夢と自分との脳内回路は別の時空につながることなんてしょっちゅうだということを。


『平行線にしかならなそうだから止めとこう。少し違うが論より証拠ってやつだ、なんかグッドアイデアでも思いついたのか?』


『グッドアイデアとは少し違うのかもしれませんが……どうして私達だけがこの世界に取り残されたのか目が狂った脳みそが囁いてくれました』


 目が狂った脳みそって何だよ、とツッコみたくなったが雅也は口をつぐんだ。


『実は取り残されたのは私達じゃなくって世界の方なんじゃないかって思ったんですよ』


『世界が取り残された?何その中二病的発想』


『中二を舐めたらいけませんよ。想像力を最も養うことが出来るのは中二です。逆に言えばこの時期を超えればクリエイティブな力を伸ばすのは困難と言うことです。

 と、そんなことはどうでもいいですね。なんでそんなこと思いついたかについてですがまあ確固とした根拠はありません。ただそっちの方が楽なんじゃないかって思っただけです』


『いまいち要領を得ないな……どういうことなんだ?』


 彩夢は少し目を閉じて何かを整理するように額をトントンっと叩いた。


『これからお話しするのは少々抽象的な話も混じるんですけど、世界が止まるって凄くエネルギーがいることだと思いませんか?』


『まあそれは確かに』


『確認こそできてませんが恐らく宇宙規模で時間は止まっているはずです。そんな文字通り宇宙規模の力が使われたって言うのに私達二人、失礼を承知で言うならちっぽけな力しか持っていない二人だけがあぶれるってのは不自然だと思います。

 でも逆にですよ、逆に私達二人だけを対象にしたのなら話は変わります。いわば試しとしてこれまで私達が過ごしてきた時間と別な時間を体験させられているというならばそんなバカみたいな力は発生しないはずです。

 もう少し分かりやすく言うならこれまで私達が想定していたこと、世界が止まったとする案は私達はそれまでと同じ世界線に生きていたわけですが、今の私の説は別の世界線に移動させられたってものです。

 まあ何でそんなことになってるのかって言われたら返答に困るんですけどね』



雅也はしばらく黙った後に一言『なるほど』とだけ口を動かした。






(あの時は僕と彩夢だけだったけど今は未来ちゃんも増えてる。とは言えあの時の彩夢が言った通り世界そのものに比べれば微々たるものか……僕達がいた世界は今でも普通に回ってるのか、それとも僕達の下で止まっているのか……確かめる術が欲しい……それさえあれば一気に話は進むのに

 はぁ、ないものねだりしたってしょうがないか。とにかくまた頑張って生きるとしよう)


 大きくため息を吐く雅也の眼前にひょいっと彩夢の顔が出てきた。


「どうしました雅也さん、そんなアンニュイな顔して」


「別に、大したこっちゃないよ……」


「そういう時は結構大したこと考えてるんですよね……でもま」


 彩夢はコツンッと額を小突いていたずらっぽく笑った。


「気が向いたら話してくださいね。大抵の事なら私も協力しますから」


 いつもとほとんど同じ彩夢の顔なのに何故かとても綺麗に思ってしまった。



(疲れて……んのかな?あはは。

ま、綺麗な顔見るのは悪い気分じゃないし、いっか)

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