第45話 季節が懐かしいです
雲を眺めながら彩夢は呟いた。
「冷たい空気が恋しいですね」
「まあそうだけどどうにもならないだろ」
「ですが雅也さん、私達と来たら年がら年中半袖の薄着、可愛い長そでやコートに袖を通すこともありません」
「着ればいいじゃん、今ならモフモフのファーだろうが最高級のふんわり服だか着放題だぞ」
彩夢はやれやれと言わんばかりに首を振った。
「雅也さんと来たら相変わらず女心がさっぱり分かってませんよね」
「女心はともかくとしてお前の心は少しばっかし理解できるようになってきたと思ってんだけどな……奇々怪々で奇妙奇天烈なお前の脳みそを……」
まだまだ言葉を繋げようとしたがふと彩夢も女心を持っている可能性は十分すぎるくらいにあることを思い出して口をつぐんだ。
「確かに春夏に着るモフモフコートは意外と乙なもんですよ。夏に食べるお鍋は美味しいですし冬に食べるアイスクリームもワンダフルです。
しかしながら、しかしながらですよ!!!アボカドとわさび醬油のようにこの世にはミラクルマッチする物があるんです。そしてその正当な力は圧倒的なのです。男の人にも分かりやすく言えば海と水着のコラボは天下一品ってことですよ」
「悪いな、僕には半分くらいしか理解できないよ。とはいえ、十分分かった」
彩夢はうんうんと軽く頷いた後するりと雅也の背中に抱き着いた。
「いいえ分かってません、雅也さんはまだ分かってませんよ。今暖かいですか?それとも冷たいですか?」
「暑いに決まってんだろ、ピッタリ引っ付いてんだぞ」
「そうですよね。ですがあら不思議、これが冬だったなら意外と良い温度なんですよ。ほら、あれです、冬場のスキー場で遭難した男女が裸で抱き合うのと同じ理論ですよ」
「多分ずれてるぞ」
「体温と体温を交換し増加させるという意味では一緒なのでモーマンタイです。
とにかく、雅也さん私は猛烈に冬を感じたいのです。もっと言えば雪合戦の火花で全てを熔かしつくしたいのです!!!!」
「んなこと言ってもな……この季節に雪が降ってるところなんて日本にゃないぞ。かといって外国に行けるわけもなし。まあ北海道にすらいけないんだけどね」
「そこなんですよ、そうなんです。まさしくそこなんです!!!私達は普通のやり方じゃ、雪を体験することが出来ない季節に生きてるんですよ。
さて、ここからが本題です」
ニコッと晴れやでいたずらっぽい笑みを見せた。
(随分と長い前置きだったな……単刀直入に言えばいいのに)
「それじゃあ興がないじゃないですか」
「僕の脳内を読むなよ」
「伊達に二年近く一緒に過ごしてませんからね、私がどんなことをすれば雅也さんが何を思うか、多少なら予想できますよ。もっとも雅也の思考回路は少々難解なので絶対的な自信はなかったのですがその反応を見るにあっていたらしいですね」
「思考回路云々についてはお前に言われたくない」
「ま、それは言いっこなしってことで。
まあともかく雅也さん、私この前ブラブラしてたら思い出したんですよ、この辺には私一押しの発明家さんが住んでたなってことを。その人ならきっと降雪機の一つや二つくらい持っているはずです」
グッと雅也の手首をとって彩夢は高らかに叫んだ。
「さぁ、レッツゴーです!!!!!!」
途中で未来を拾い、三人は彩夢の一押しという発明家かなんかの家に向かうのだった。
(何だろう、ちょっとだけ嫌な予感がする。まあ彩夢のすることには大抵この予感がするんだけどね)
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