第37話 目の保養に行きましょう

 この世にはエンタメが多すぎると彩夢は常々思っていた。

 手遊び、言葉遊び、漫画、演劇、芸術鑑賞、音楽、睡眠、映像メディア、スポーツ、ゲーム、ネット、異性交遊、お喋り、そしてその人々特有の趣味たち。


 だが暇つぶしに迷走をしていた時にふとこんなことを思った。


「そう言えば時間が止まったせいでエンタメの数が思いっきり減っちゃったんですよね」


 今まで度々思っていたことではあった。しかしながらそれはふと思いそして袖についた水のように気づいたときに消えていったのである。


 今回は逃すつもりはなかった、極端に制限されてしまったエンタメについて打開策を模索しようと誓ったのである。





「という訳なんですけどこれは由々しき問題だとは思いませんか」


「急に血相変えて何かと思ったら………そんなのとうに前から分かってるだろう」


 未来が町内一周ランニングに出ているタイミングで妙なのが来たなと雅也は額をつついた。


「いえいえ、昔の私達と今の私達は全く違います。私達が出会ったことで確かに寂しいという気持ちは薄まり出来ることも増えましたがそれを踏まえても尚私達ができることはとてつもなく少ないです……

 人生100年時代、偶然気候が良い時間で止まってくれましたがそれゆえにどうやって暇つぶしをするべきなのかという問題が現れてきたのです」


(なんかこれまで見てきた中で一番真面目な顔してるような気がする……人生これ暇つぶしみたいな女だもんな)


「それによくよく考えてみたら最近だって瞑想の時間が増えているような気がするんですよ。普通なら今頃大学生活を謳歌していたか、それとも社員として働いていたか」


「お前ならきっとユーチューバーとかじゃないか?」


「あるいはそうかもしれませんね。ともかくそう言うことをしていたはずなのに瞑想ですよ瞑想。修行僧じゃないんですから普通ならすることじゃありませんよね、でもそれでもやっちゃってるんです!!!!」


「なんで瞑想とかしてるの?」


 ふふっと笑いながらしたり顔を見せる。


「瞑想とはつまり妄想ワールドに足を踏み入れるためのカギです。最近少しばかりマンネリ化していた現実世界に色を付けるために私は異世界に旅立っていくんですよ……それこそが私が瞑想をする理由です」


「多分だけど本来とは真逆の用途で使ってんなお前」


「時代は多様性、そして柔軟性です。本来の用途に囚われずに使うことにこそ大切なこと、そうだとは思いませんか?」


「そうだな……にしても楽しそうに生きてるお前がそこまで言うなんて……まあ僕達が出会ってからもうかれこれ2年くらい、未来ちゃんが増えたとはいえ流石に少しくらいは怠くなるってもんだよな。どうする?この後未来ちゃんと二対一でバスケでもするか?」


「なるほどそれは妙案ですね……しかしながら今の私はそれよりもしたいことがあるんです。実は雅也さんにその提案をするためにやってきた次第で」


「してみたいこと?何だ?」


 雅也は分かっていた、彩夢が普通のことをしたいなんて思うわけがないことを。これまでやってきたことがないとんでもないことが口から飛び出てくるに違いない。


(僕が絶対思わないこと考えるからなこいつは………いや、もしかしたら野球拳とかそっち系かもしれん)


 今日何枚服着たかなとか普通ならば男よりも女の方が一枚くらいは着ている服が多いなとか考えている雅也にグイっと顔を近づけて彫刻品のように笑った。


「芸術鑑賞に行きましょう!!!!」


「え?意外と真っ当」



 雅也はここ数カ月で最も驚いた。この驚きとは時が止まったことを理解した時のそれよりも遥かに大きく、彩夢のクレイジーさを理解した時と同じ程度の物であった。



「さ、未来さんを見つけて一緒に目の保養に行きましょう!!!!」

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