第36話 彩夢の家族

「あれは夏休みを利用して私達がおじいちゃんの家に遊びに行った時の事でした」




 彩夢の祖父が住んでいる場所は排気ガスが一グラムも空気に混じっていないようなド田舎だった。そんな中にけたたましい絶叫が轟く。


『あははははは!!!!!!!ねえ斉人、今どんな気分?どんな気分?』


『このくそ姉貴がぁぁぁぁ!!!!!!』


『にいにい、ねえねえにそんな言葉遣いしたら駄目ですよ。メッです』


『ゴメン彩夢!!!!でもできれば助けて!!!!!マジで!!!!!謝るから!!!!』


 斉人は遊彩によってボッコボコに叩き潰された後に上半身裸ではりつけにされていた。さんさんと輝く太陽に無駄に白い肌を晒されている。


『謝っても駄目よ、彩夢の風呂を覗こうとした罪は重いわ。本当は一輪車に括りつけて市中引き回しの刑を実行するつもりだったんだからせいぜい彩夢の優しい心に感謝しなさい』


『俺って兄だぞ!!!こんなちっちゃい妹がいたらそりゃ心配に思うよ!!!だってここって五右衛門風呂だもん!!!!怖いよぉ!!!天下の五右衛門様の釜茹での再来になっちゃダメでしょう!!!!』


『そう言うのはあたしに任せなさい、異性のバカ兄はいつ妹に嫌われるかをビクビク怯えて待ってればそれでいいのよ』


『ひでぇぞ!!!!!』


 ギシギシと斉人はもがくが固く締められた縄はびくともしない。


『そうじゃぞ遊彩、早く私達を開放しろ!!!』


『じいちゃん、さほど長くない寿命を縮めたくなかったらそれ以上口を開かない方が良いわよ』


 遊彩は斉人の犯行を手伝った実の祖父と


『こら!!!実のおじいちゃんに向かってなんて口の使い方だ!!!!俺はそんな子に育てたつもりはないぞ!!!』


 実の父も同じ刑に処していた。


『奇遇ね、あたしもお父さんにそんな風に育ててもらった覚えはないわ。だって勝手に育ったんだもの。まあお父さん、実の娘の入浴を覗こうとした罪科をお母さんにチクられたくなかったら少し口を閉じてなさい』


『くっ、卑劣な奴!!!パピーの弱点を知り尽くしてるなんて』


『ブーメラン発言って知ってるかしら?キモイわよパピー。ったくうちの野郎どもはどいつもこいつも……彩夢の裸を見ていいのは同性の姉である私だけよ!!!!!』


 因みに遊彩も同じ穴の狢である。偶然女だったこと利用しているだけのラッキーガールなだけなのである。


 そんな遊彩は彩夢の可愛らしい頭を撫でまわした。


『まあ彩夢が天使も裸足で脱げだすくらいの可愛さを持ってるってことは認めるわ、人魚だろうとクレオパトラだろうと小野小町だろうと見るだけでるだけで自信喪失しちゃうでしょうね。でもだからと言ってやって良いことと悪いことがあるわ。貴方達はいっぱしの大人としてこれからの彩夢を立派に育てないといけない、違う?』


『く、この姉貴正論を』


『たまたま女に生まれただけの小童のくせに』


『なあ彩夢、お前はお姉ちゃんと俺達どっちの味方だ?』


 彩夢がこれまで姉たちの会話に口を挟まなかったのは皆が何を言っているか分からなったからだ。自分のことで何かがあったと言うことだけは分かっていたが正直に言って裸を見られることに抵抗はなかったしはりつけにされた皆を見ることもただ楽しかった。


『えっと……そうですね』


 だが質問を振られた以上何かしらの答えを出さないといけない。彼女は元来生真面目なのだ。しかしながら幼く恥という概念が本格的に理解できない彩夢にはどう考えても答えが思いつかなかった。知恵熱で風呂が沸きそうなほど脳みそを回したまさにそのとき


 ピキュン!!!!


 異世界スイッチが彼女の脳内シナプスに割り込んできた。


(ああ、なんでしょうかこれ……とっても気持ちいいです……そうか、理性も本能も超えた快楽の世界………それがここ……ですがこの感覚は恐らく……いえ、今はまずこの世界で初めて私と出会ってくれた言葉を口に出しましょう)


『私は私を受け入れてくれる人の味方です。にいにい達の今の格好面白いんですが、私の願いを受け入れてくれますか?』


『ったく、仕方ねえな』


『可愛い孫娘と遊ぶのも楽じゃないの』


『まあこう言うのもいい経験になるだろう』


『切り替え激しいわねあんたら、そう言うところ好きよ』


『姉貴に好かれてもな』


『そこまでのぉ』


『なあ』


『一生はりつけのままにされたいのあんたら』


 楽しい家族たちに微笑みを送りながら彩夢は思った。





「あの時私は思ったんですよ。この世界にはまだまだ深く広く、何より奇々怪々で楽しいのだと。私はまだ門扉を開いただけなのだと。

 どうでしたか?」


 屈託ない笑みを浮かべる彩夢に向けて雅也は口を動かした。


「そうだな………色々言いたいことはあるけど一つ。

 お前の家族って凄いな」


「知ってます!!!!!だって私を育てた家族ですもん!!!!」




 自覚がある狂人が最も恐ろしいことに彩夢は知らなかったのだった。

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