第23話 彩夢への第一印象

 未来は海瀬彩夢という女に戦慄にも似た感情を抱いていた。


「ねえ、あの海瀬って子何なの?」


「彩夢って呼んでやって、こんな状況だから少しでも親交深めたいんだってよ」


 二人は妙な気を回した彩夢に二人っきりにされていた。


「そう……彩夢……ね。初対面の私に飛びつくしなんか急に気持ち悪い顔になるし、かと思ったら『ふへへへ、ちょっと私は用事を思い出したのでどうぞ幼馴染のお二人水入らずで談笑でもしていてください』とか言ってどっかに行くし……私の身体のこと知ってもひいてる様子はなかったし」


 雅也はやれやれという擬音を発するように肩をすくめた。


「まあそういうやつなんだよ。言葉遣いと行動の端々には慎み深さと品があるけど彩夢を形成してるのは好奇心と欲望だ。でも愉快な欲望しか持ってないから一緒にいて飽きることはない」


 楽しそうな雅也を見ている未来はプクっと頬でも膨らませてやりたい気分だった。


「珍しいね、マー君がそんなに絶賛するなんて」


「絶賛した覚えはないけど。ま、二人っきりで一年以上もいるからね」


「え!!!??」


 突然弾けた未来に思わず雅也は目を見開いた。


「一年も二人っきり?」


「そうだよ。まあ体感時間だけど」


「変なことしてないでしょうね!!!!!」


 ギシギシと妙な音が掴んだ肩から鳴る。


「変なこと?」


 瞬間的に生乳を触ったことを思い出したが、その思い出はその他諸々の彩夢の奇行に一瞬にして塗りつぶされた。


「変なことしかしてない……かも」


「へーーそうなんだぁ……マー君ったら随分と軽い男になっちゃったんだね」


 肩の痛みがさらに増した。


「っつつ。力入れすぎだよ未来ちゃん。それに多分未来ちゃんが考えてるような変なことじゃないから安心して……それよりせっかく久しぶりに会ったんだから色々聞きたいことあるんだけど……そうだね、まずは」


 その瞬間ぜぇぜぇと荒い息づかいとともに彩夢が二人の前に表れた。20センチはある重そうな石を地面に転がす。



「ハァハァハァハァ………疲れました」


「どうした彩夢?」


 彩夢はゴロリと寝転がった後に仰向けになって未来の方に目線を向けた。


「未来さんにお願いがあるんです……もし可能だったらそれ粉々にしてくれますか?」


「は?何でそんなことをしないといけないのよ?」


「見たいからです」


 疲労の色を見せながら顔を歪ませている彩夢であったが瞳は真っすぐで声色は至って真面目である。


 だが、だからこそ未来はまた困惑してしまった。


「未来さんってスーパーマッスルがあるんでしょう……実は私は以前から石がぶっ壊れる所を見てみたいと思っていたんですよ。勿論出来ないなら出来ないでいいです、でももしできるのなら是非とも見せてください。お願いします」


「なんでそう言う思考になるのよ?」


 ポンっと肩に手が置かれた。


「そこを突っ込んでもどうしようもないよ未来ちゃん、見たいもんは見たいってだけなんだから。

 それにしても彩夢、お前頑張ったな、重かったろうに」


 仰向けになった彩夢は胸を上下させながら息を整えていく。胸が大きいからか、その動きはよく目立った。


「当然です……私のわがままを叶えてもらおうとしているのですから苦労の大半は私が請け負うべき、それが礼節というものでしょう」


 額に汗を浮かばせとても女とは思えないほど無防備な体勢をしている彩夢をしばらく見た後に未来は苦い顔で雅也を見た。


「なるほど……これは変なことばっかりやったでしょうね」


「分かってくれて嬉しいよ」



 未来は軽々と石を片手で持ち上げた後空中にポイっと投げた。そして落下していくタイミングと合わせて思いっきり拳を叩きつける。



 バッコーン!!!!!


 粉砕、その言葉がふさわしかった。


「おお!!!!ワンダフルです!!!!ありがとうございました!!!!!」


 石の粉末をキラキラとした目で見ている彩夢の黄色い声援を受けて未来は思った。


(この子、悪い子ではないのね)


 そんな未来を見ていた雅也は安心した。


(仲良くできそうで良かった)


 そして彩夢は純粋に心そこから浮かんだ言葉を叫んだ。




「いやっほーい!!!!!!テンション爆上がりです!!!!!!」


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