第22話 初めまして未来さん

 あまりにも奇妙でロマンチックな再会を果たした二人よりも心に嵐が吹き荒れていた女は目を見開いた。


(マー君!!???それって雅也さんのことですよね、ママじゃなかったんですか……それに未来ちゃん……こりゃお二人の関係はとっても親密と考えて間違いないでしょう。

 そんな二人がこんな状況で運命のテグスを引きあい出会う。なんてロマンチックでドラマチックなんでしょう!!!!)


 ウキウキになった彩夢は近くの物陰に隠れた。


(何やってんだ彩夢。まあいいや、あいつの考えてることを一々精査してたらいくら時間があっても足りやしないからね。そんなことより未来ちゃんだ)


 目をぱちぱちさせている未来に雅也は微笑みかけた。


(なんかぎこちないですね。まあ普段は苦笑いとかばっかりですからね……あれ?もしかして私って雅也さんに苦労かけてたりします?………考えないようにしましょう)


「未来ちゃん、言いたいことも聞きたいことも山のようにあると思うけど取りあえず本当に久しぶりだね。会えて嬉しいよ」


「ああ……うん、私もよ」


(ん?久しぶりに親しい友人に会ったにしては何かガクガクですね。ハグくらいして然るべきだと思うんですけど。ハグがハードル高いならせめてハイタッチとかシェイクハンドとか)


「えっと。マー君はどうしてここにいるの?」


「銃声が聞こえたからだよ。あんだけバンバン撃ったらいくら僕が寝坊助でも気づくって」


(本当なら後ろから飛びついてやろうと思ったけどギリギリのところで未来ちゃんだって気づけて良かったよ、いやマジで)


「そっか。なら銃を使って良かった」


(マー君に会えたもの)


「本当にね。なんで銃なんて使ったのさ?そんな物騒なもん使う必要なんてないでしょう。護身用にもならにないよ」


(なると思うのは私だけでしょうか……いや、皆さんが止まっているなら必要ないのは間違いないんですけど……うーん、まあもう少し様子を見るとしましょうか)


「うん……でもマー君、私達はなんでこんな目に遭ってるのかしら?こんな摩訶不思議ワールドに放り込まれるようなことした覚えはないんだけど」


「それは本当それ、僕もずっとこんなことになった理由は考えてんだけど……ま、いくら頭回してもさっぱり分かんないんだよね」


「そうだよね。それが分かったら苦労しないよね」


(何でしょうか、当たり障りがないにもほどがあります。もっともっと甘くて面白い話をして下さいよ。幼馴染ってことを意識してほしいですねマジで。後でその関係性の尊さを小一時間説いたほうがいいでしょうか?)


 全く関係ないくせに自分の妄想を補いたい女の身勝手な考えを知ってか知らずか雅也はおなじみの苦笑いをした。


「それより未来ちゃんゴメンね、うちの馬鹿が何かしたんでしょう」

(私は馬鹿じゃありません、少し抜けているところがあるだけです。いうなればおっちょこちょいです)


 即座に馬鹿が誰なのか気づいた自称おっちょこちょいはそんなことを思った。


「いや、そういう訳じゃないんだけど……こっちは銃を撃ったうえに初対面の人にするのはおかしい質問したのに異様なまでにあっさり受け入れたから罠かなって思ったくらいで……いや、勿論どんな罠が出てきても乗り越えられる自信はあるよ」


(そこは『マー君が傍にいてくれればね』ってはにかんだ顔で言うところでしょう。久しぶりに幼馴染と出会ったんですからそのくらい言っても許されると思いますよ。少なくとも私ならそうします。絶対に言います)


「そっか……まあそうだよね。彩夢だもんね」


「それで雅也君、あの女の子は大丈夫なの?」


 雅也は動かない空に一瞬目を上げた。


「大丈夫……ではないな」


(失敬な、です)


「じゃあ拘束した方が良いの?」


「いやいやそう言うタイプの大丈夫じゃないじゃないから安心して。信頼はできるし作ってくれる飯は美味い、それに何より」


「何より?」


 彩夢が隠れた方に一瞬目をやった後に照れもなく続けた。



「一緒にいて退屈することはない」


(えへへ、照れますね)


「多分今照れるとかなんとか思ってんだろうけど、半分くらいは馬鹿にしてるからな」


(えへへ、それでも半分は褒めてくれてるんですよね。やっぱり照れます)


 隠れながらポジティブシンキングをする彩夢とは対照的に未来はどこか不満げだった。


「そうなんだ何か楽しそうで良かったよ」


「なに、これから一緒に暮らすことになるんだから未来ちゃんすぐに彩夢の恐ろしさを知ることになるよ……いや、今すぐかな」


「え?」


 その瞬間、雅也に向いていた未来の神経が空気の揺れを感じた。咄嗟に身体を翻そうとするが時すでに遅し、彼女の背中に柔らかい感触がムニュっと走った。


「そういう訳です!!!私は海瀬彩夢と申します!!!どうかよろしくお願いします……ね?」


 飛びついた彩夢は違和感を覚えた。自分の行動には一ミリも違和感を持っていなかったが感触には違和感があったのだ。


(あれ?てっきり天女の弾力が私と交換されるとばかり思っていたのに……あれれ?)


「お、彩夢のその顔久しぶりに見たな……唖然としてる」


「ああそうですか、それは結構なことです……結構ついでに無知な私に一つお教え願います」


 グルリと首だけを回して未来を見つめた。何とも器用な女である。


「貴方……いえ、未来さん。貴方もしかしてボディビルに造詣が深かったりしますか?それも自分でマッスル鍛えるタイプで」


「違うわよ」


「ですが細い身体とは思えないほどに筋肉の塊です、プロレスラーも真っ青の筋肉量ですよ。これは相当緻密な計算に基づいたハードトレーニングをしているとしか」


「違う違う、そう言うのじゃないんだよ」


 余程彩夢の顔が面白いらしく機嫌の良さそうな雅也が割り込んでくる。


「雅也さん、知っていらっしゃるんですか?」


「まあね。一言でいうと生まれつき」


「はい?」




「未来ちゃんは生まれつき人よりも遥かに筋肉があったんだよ。そしてそれは成長する度に加速的にさらに強くなっていき、小学校の時には弾丸くらいなら弾き返せるようになったんだ。分かりやすく言えば未来ちゃんは最強ってこと」


(雅也さんがこういうってことは本当なんでしょう、なるほど弾丸を弾けるのに銃なんて必要ありませんね。

 フフフフフフフ)


 彩夢は自分の胸がたまらなくドキドキしていることを自覚した。何処までも激しく動き、甘い血液を全身に流してくれている。





(すっげぇ面白いです!!!!)


 ドンドン蕩けていく顔を彩夢は止めることが出来なかった。


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