第16話 姉ちゃんとの合戦
一面を白で埋め尽くすように雪が降っている日だった。小学生だった雅也は姉である恵那に首根っこ掴まれ半袖のまま外に連れ出されていた。
「さっむ!!!!」
「こら、もう10歳なんだからそんな震えるんじゃないわよ」
「いや、寒いだろこれは!!せめて長袖着させて!!!」
「私だって半袖にスカートなのよ。ったく、男のくせに情けないわね」
「ジェンダーハラスメントで訴えるぞ」
「ったく面倒ね。じゃあ言い方を変えるわ」
恵那はひょいッと雅也を抱き上げた。
「私の弟のくせに情けないわよ」
「悪かったね、もう」
雅也はこんな風に自分のことを真っ直ぐに見ながら言い返すことが難しいことを言ってくる姉のことが好きだった。
「それで?僕をこんな格好で連れ出して一体何をさせる気なの?」
「フフフ、ねえマイブラザー、このコンディションを見て気づかないの?
一面雪だらけ、そして私と貴方はお互いに動きやすく雪の影響を受けやすい半そで姿、そして私と貴方は最近勝負不足よ。ここまで言えばわかるでしょう」
(ああ、そういうことね……ったく一体何歳なんだか)
「うん、つまり雪合戦したいってことね」
恵那はゆっくりと雅也を地面に置いた後しゃがんだついでとばかりに雪を掴んでポイっと雅也の顔に叩きつけた。投げたのではない、直接叩きつけたのである。
「そうよ!!!ただし雪玉投げるなんて甘っちょろい雪合戦じゃないわ!!!雪と雪とのぶつかり合い!!!デッドオアスノーよ!!!!!」
嬉々としていう恵那の声を聞いて鬼気とした雰囲気をだした。
「こんにゃろ!!!不意打ちはせこいだろうが!!!!」
「デッドオアスノーにせこいはないのよ!!!!だってデッドオアスノーだもの!!!」
「ただの雪合戦を」
雅也は姉に比べてまだまだ小さな身体をさらに低めて右手で雪を引っ掴んだ。そして左手を軸のようにして身体を反転させたうえステップを混ぜることで恵那の背後を取った。
「デッドオアスノーなんてカッコつけんじゃねー!!!」
「甘い!!」
恵那は雪を蹴って雅也の顔にぶっかけた。
「うげ!!」
「私の裏をかこうなんて100年早いのよ!!いい?敗北宣言以外で勝負は終わらないわ!!!風邪ひきたくなかったらさっさとギブアップするのね!!!!」
「誰がするかぁぁ!!!!」
そして二時間後、雅也は肩で息をする恵那の膝で力なく雪を掴みながら倒れていた。
「ちくしょう……」
「は、私に勝とうなんて100年早いのよ」
「僕は……僕はまだギブアップしてねえぞ!!!」
眼光だけは力を失っていない。雅也はまだ終わっていないのだ。ただ、絶望的なまでに力がでないだけである。
「ふふふ、そう来なくっちゃ……でも雅也、もうすぐ晩御飯の時間よ。今日はすき焼きだってお母さんが言ってたわ」
「マジか」
眼光に食欲が多分に混じり口から出そうになるものが息だけではなくなってきた。
「………姉ちゃん、一時休戦ってことで」
「ええ、いいわよ」
未だに胸と胸板がピッタリとくっつき、雅也は柔らかさを、彩夢はたくましさを感じていた。
「それで、僕は次の日倒れちゃったんだけど姉ちゃんは何も無かった顔で学校に行ったんだよね……まあそう言う姉なの」
「おお」
感激したような麗しい目に雅也を収めていた。いや、雅也を通して別の何かを収めていた。
「素敵お姉さんですね」
「彩夢ならそう言うと思ってたよ」
「うふふ。でも確かに雅也さんからすれば疲れるお姉さんだったのかもしれませんね。私のねえねえとは少し違うタイプのようですが……そんなお姉さんも欲しかったです、なんて欲張りでしょうか」
「ま、でもあの姉ちゃんで今は心底良かったって思ってるよ」
つい口をついてそんなことを言った、言うつもりはないのに言ってしまったのだ。
彩夢の屈託ない笑みをすぐ近くで見てしまったせいなのか、それとも胸のドキドキを直接感じてしまったせいなのかとにかく言ってしまった。
そして勢いそのままこう言うのだ。
「彩夢のことをすんなり受け入れられたのは姉ちゃんのおかげだろうからさ」
「あら、光栄だって思っておきますね」
彩夢の中で雅也への好感度が大きく上がったのだった。
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