第3話 雅也と女湯
長谷雅也は自分のことをちょっと普通じゃない男の子だとは思っている。
雅也がまだ中一の頃、高校生だった姉が当時身長がなかなか伸びず130センチのあたりをウロウロしていた雅也を女風呂に連れて行ったことがある。当然中一が女風呂に入るなんて許されることではないのであるが困ったことにこの姉は自分の裸を見られることも弟が他の女の裸を見ることも少しも気にすることはない性格だったのだ。
性に爛れているわけではなく、シンプルに大雑把なだったのである。そんな彼女は単に風呂で一人になるのが嫌だったという少し可愛らしい理由で弟の身長が低かったことを幸いに連れ込んだのだ。
そして弟はそんな姉と遜色ないほど困った男の子だった。自分が女風呂に入ることが倫理的にも法的にもよろしくないことであるのは理解していたのだが特別抵抗することも恥ずかしげな様子もなく姉の手を握ってしまったのだ。
別に女性のおっぱいを見たかったわけでも尻を舐めるように見回したかったわけでもない。当然シスコンを拗らせていたわけでもなければ姉が命じれば指をなめるような従順の皮を被った腐れイエスマンだったわけでもない。ただ好奇心が疼いたのである。
自分は裸の女性ばかりが周りにいる中でどんな反応をするのか気になってしまったのだ。
結果から言えば女風呂で雅也は特に何もしなかった。
普通に裸を見て、普通に裸を見られて、普通に身体を洗って、普通に身体を洗われて、普通に湯船に浸かって、普通に談笑して、普通に身体を拭いて、普通に腰に手を当て牛乳を飲んだ。
若い女性はいた、スタイルの良い女性もいた、朗らかな笑みを浮かべる女性もいた、雅也に近づいて頭を撫でる女性もいた、おっぱいを見せつけるように動く痴女もいた、滑って転んで弟を自分の裸体と床とでサンドイッチした姉もいた。
それでも特に沸いてこなかったのだ、年頃の男ならば当然に感じるはずの心地よい恥じらいに染められた性欲というものが。
「雅也さん、何を読んでるんですか?」
漫画喫茶にお邪魔していた二人は勝手に漫画を読み漁っていた。時が止まるまではデジタル隆盛期であったが文明の利器がほとんど使えなくなった以上自然と紙に手を伸ばすのである。
「この前彩夢が言ってた漫画だよ」
彩夢の顔が少し爛漫となる。
「それは嬉しいです!!どうですか?」
「そうだね。思ったより設定も練り込まれてるしエロだけで男を釣るような漫画じゃないってことはよく分かったよ」
「そうなんですよ。そうなんですよ。いやぁ、雅也さんが食わず嫌いするような男性じゃなくって本当に良かったです。私感激ですよ!!!」
楽しそうに手を取ってくる彩夢を感じながら雅也の心はニッコリと笑った。
雅也は多分彩夢のことを多少なりとも恋愛対象としては見ているのだと理解はしている。ただそれはこれまで何度か生まれたような細やかなものではあるしそもそも性欲の方は今まで通りさっぱり沸いてこないのである。
(人によっちゃ女の子に触られただけでおっきするって聞いたことあんだけど……はぁ、そんな自制心のない人を羨ましいって思ったのは初めてだよ。彩夢って結構可愛い顔してると思うんだけどな)
「ウフフフ、でもそれはまだ3巻みたいですね。未だ連載は続いていますが現在出ているだけで40巻なのできっと雅也さんはもっともっと魔女海のことを好きになれるはずです!!!」
(魔女海って略すんだ)
そんなどうでもいいことを考えながら雅也はふと前かがみになった彩夢の胸元が開いていることに気が付いた。くっきりと谷間が見えている。張りがあり、見るだけで甘い味を連想させる美味しそうな谷間が。
それをしっかりと見た雅也は未だ勝手にヒートアップしている彩夢の額をコンっとつついた。
「ブラするの忘れてるよ。昨日干しといたピンクのやつはどうした?」
「あ、すいません。さっきお風呂に入ったのでついうっかりしてました」
そう言って軽く頭を下げた彩夢の胸元をよく見ようとすれば乳首までは見える。少なくとも見えるかもしれない。
だがそんなこと思いつきもしなかった雅也は(やべ、もしかしてデリカシーがない発言だったかな)なんてことをひっそりと反省するのであった。
全くもって度し難いバカである。
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