優しさ故の事件

キザなRye

全編

彼はこれで21回目の逮捕になる。

この21回の逮捕は傷害罪や窃盗罪、公務執行妨害罪など色々な罪であるが、彼が逮捕されるに至ったものはすべて同じ思いから来ている行動によるものだった。


「人助け」


今回の逮捕は公園に一人佇たたずんでいたあざだらけの少女を助けるために身をていした行動が導いた。


ある日、いつものように彼は公園を歩いていた。

毎日午後5時過ぎに近所の公園を散歩するのが日課になっている。

たまには外の美味しい空気が吸いたいと身体に言われるがままに、である。

いつものコースを歩いてから20分くらいした頃に目の前に泣きじゃくっている4,5歳くらいの女の子が表れた。

表れた、というよりは視界に入ってきたという方が正確ではあるが、見ていて尋常とは言えなかった。

彼は根からとても優しい人なので老若男女構わず困っている人がいたら助けたくなってしまう性分で女の子のところへ急いで駆け寄った。


近付いてみて分かったことだが、身体の至る所が青紫色に変色していて相当暴力を食らったのではないかと思われた。

どうにかこの子を助けてあげたいとまずは温かい飲み物を買ってきてそれを飲ませてあげるのと共に自分のガウンを着せてあげた。


女の子が落ち着いてから彼は恐る恐る


「よく身体を殴られるの?」


と聞いた。

女の子は少し嫌そうな顔をして首をちょこんと動かした。


「お父さん?」


再びちょこんと動かした。


彼は許せなかった。

実の子に暴力を振るう、所謂いわゆる虐待が到底理解できなかった。

しかもこの子の年齢なら一番可愛い頃だろうに、と。


この時点で彼は児童相談所に話をしようかなと思った。

児童相談所が他の普通の家庭と比べてどれだけのものなのかは体験したことはないが、おおよそ分かる。

それでも今の家庭環境で育っていくより幾分ましだ。


そこへ酒に酔っているのであろう、顔を赤くした男性が近付いてきた。

酔っているから足元が覚束おぼつかない。

蛇行しながら、ものにぶつかりながら、少しずつこちらへと向かってくる。


正直言ってそれをずっと見守っているのすら心配なくらいだ。

今、彼の元に女の子がいなければ助けにいったのかもしれないが、幼い子が近くにいるし彼女は子供なので自分の力でどうすることも出来ないがあの蛇行している男性は自らの飲酒によって引き起こされたものなので優先が女の子に回るのも無理はない。


酔っ払いが近付いてくると女の子はブルブルと震えだした。

段々身体が縮こまっていって“私はいない”と思わせようとしているように見えた。


酔っ払いが彼の視界に入ってから5分くらい蛇行しながら近付いてきて彼の前で止まった。

というよりは女の子の前で止まったの方が正確だろう。


「かぇるぞぉ!!!」


低くて呂律の回っていない殆ど聞き取れない声で女の子に向かってそう言った。

このときに彼はこの人がこの子の父親だなと思い、ここで自分のポリシーを貫くところだろうと思ってその人に向かって言った。


「あなたがこの子の父親ですか?」


「あぁん、そぉーだよぉ!!!」


「こんなに痣を作っているのにですか?」


「それぇはぁ、くぉいつがぁいけねぇんだよぉ!!!」


「いつもお酒ばかりでちゃんと面倒を見てるんですか?」


「おぉまぇはぁ、このこぉのなんなぁんだよぅ!!!」


男性の方が彼の服を掴んで殴りかかった。

呂律も回っていない、足元が覚束ない人がちゃんと殴りかかれるはずもない。

それでも彼は自分の身を守るために、女の子を守るために酔っ払いに殴りかかった。

避けられるはずもなく、もろに彼のパンチを食らった。


公園の近所の住人がこの一部始終を見ていて通報したようで警察が到着した。

警察が到着したときに彼は馬乗りになって殴りかかっていて自分自身の気持ちが前面に出過ぎた。


彼は暴行罪で逮捕されてしまった。

駆け付けてきた警察官は彼と知り合いでまたやったのか、と思って逮捕したとのこと。


一方女の子の父親は入院し、女の子は児童相談所に預けられていた。


彼は女の子の父親との間に示談が成立したので罰金刑で釈放された。


彼は「人助け」においては力が入りすぎてしまうのですぐに犯罪に手を染めてしまう。

理由が理由とわかっているので重たい罪は付かないが、どうにかしなくてはならない彼の癖かもしれない。


児童相談所に保護された女の子はその後元気になり、今は楽しい毎日を送っているのだとか。

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優しさ故の事件 キザなRye @yosukew1616

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