芝居から出た実(まこと)
メラミ
21回目でやっと気づいた、この気持ち。
1年9ヶ月もかかった。俺が告白した回数は今年の2月で21回目を迎える。
なんでそんなに告白をしたかというと、彼女が憧れの存在だったからだ。
クラス中で噂になることもしばしば。もちろん俺が彼女に猛アピールしたことは、友人にも知られている。友人は俺のことを応援はしてくれているが、あきれた様子で見守ってくれていた。
告白の対象になっている彼女との出会いは、俺が高校2年になった時で、サッカー部を辞めて演劇部に入部した頃だ。
初めて彼女の芝居を観た時、彼女の存在に見惚れてしまった。
演劇部は、毎月14日に定期的に寸劇を披露していた。
俺も最初の頃は、簡単な芝居をしていた。彼女からも励ましの言葉をもらうこともあり、俺は嬉しくなった。それからだった……俺が彼女に向けて、月1回の告白が始まったのは。
演劇部の定期公演を終えると、いつもの演劇部のメンバーで、簡易的なお茶会がある。たまたま会話の中で、俺が彼女に告白をした話が浮上する。
「ヨリト、お前本気だったの?」
「え? まぁ、うん。結構本気のつもりだったんだけど?」
「なにその曖昧な返事。正直「結構」とか「つもり」ってのが引っかかってんだけど……」
彼女はクラスの中でも明るくて目立つ存在だった。月に1回、俺は彼女を呼び出して芝居掛かったプロポーズのようなものを披露していた。そんな俺の姿を見た彼女は、笑ってくれた。しかし、なぜか俺の気持ちよりも、俺の芝居に対してコメントするようになり、俺は彼女に
芝居をしているせいか、上手く好きだという気持ちを表せなくなっていた。
いや、本当は好きだという気持ちが伝わっていなかったのかもしれない。そんな風に思いながらも俺は諦めなかった。月に1回彼女を呼び出しては「好きだ」と大胆な芝居を交えてアプローチを続けた。
「今日のは、ちょっと面白いかも」
「嘘!? マジで? っしゃー!」
俺と彼女のこのやり取りは1年9ヶ月続いた。
それでも俺は、彼女の前で「本当に彼女のことが好きである」という気持ちを上手に伝えられずにいた。いつの間にかこの告白も、単なる部活動の練習のようにも思えてしまうのだろう。
去年の2月のバレンタインデーのチョコの数は0個。俺は演劇部に入っていても、全然モテなかったのだ。彼女はファンレターなどを貰うこともあるそうだ。
「くっそー、毎月14日がバレンタインデーだったらいいのになぁー」
「うわっ……その発想はなかったわー。そんなにチョコもらいたいのかよ」
「欲しいに決まってんだろ」
(特に、お前から貰いてぇんだけど……)
今年こそは、貰いたい。1個でも欲しいと思った。
受験シーズン真っ只中でも、演劇部は一応月に一度だけ、集まりはした。
一芸入試を目指しているメンバーもいたし、学校生活ももう直ぐ終わりを迎えるから、何かしら俺も演劇で形を残しておきたい。
そう考えていくうちに、あの彼女への告白をもう一度だけしようと心に決めた。
俺は同じ演劇部に所属している彼女に、21回目の告白をしようとしている。
ため息混じりで、彼女は待ち合わせ場所に現れた。
彼女の手には何か小さな紙袋が握られていた。俺はもしかしてチョコレートかもしれないと、一瞬頭を過ぎった。急に熱が込み上げてきてしまう。あれがもし、俺宛のチョコレートだとしたら……と。
「しつこいなぁ……これで何回目になるんだっけ……」
そう言いながら、彼女は指折りを始めて数を数え始める。
でも、何だかんだこの状況下を、楽しんでくれている様子だった。
「お、俺の芝居じゃなくて、気持ちを込めてるんだって所見てくれよなっ!」
俺は精一杯彼女にアプローチをした。小道具を使って、笑われるかもしれないと思いながらも、芝居を披露した。いや、芝居ではなく本当の告白をした。
彼女は紙袋を下げたまま、小さく頷いて拍手をしてくれた。
「うんうん、今までのよりいいんじゃない?」
「そ、そう?」
(で、その紙袋は誰のチョコ?)
俺は茜色に染まる教室の中で、息を呑んだ。
もう帰らなければならない時間だけど、彼女に気持ちは伝えられただろうか。
彼女の背に夕日が当たる。逆光で彼女の表情が上手く
俺はその場で深く息を吸って吐いた。一芝居終えたし、床に置いた鞄を抱えて教室を出ようとした。
すると彼女が――
「もう帰んの? ちょっと待って、これ」
と言って、手に握っていた紙袋を渡してきた。
「え? 嘘!? マジで?」
これは俺宛だったのか、と自然と笑みが溢れてくる。受け取った紙袋を、大事にすぐ鞄にしまった。俺は素直にありがとうと言いたかったのだが、彼女が先に予想だにしないことを言い出した。
「あのさ、これからも演劇続けるなら付き合ってあげてもいいわよ」
「――っ!?」
俺は芝居じゃなかった彼女の本音に、言葉を失ってしまった。
毅然とした態度でそう告げた彼女に、俺は口を開けたまま、しばらくその場に立ち尽くしてしまった。肩から鞄がすとんと下りて、俺はそのまま固まっていた。
「ねぇ、聞いてる? 返事は?」
「あ……ええと、これからも……」
(あれ? 今まで好き好き言ってきたじゃん、俺)
(急に緊張してきたんだど。なんだこれ……)
「こ、これからも、芝居続けるから、よ、よろしく……」
「ヨリト、何で緊張してんのよ!」
「そ、そりゃ、だって……お前のこと本当に好きだから」
「あたしも、今まで言わなかったけど……ヨリトのこと、好きだよ」
これは俺へのサプライズなのか?
今年のバレンタインデーのチョコは1個。
その1個は、憧れの彼女からの物だった。
俺は今、彼女と付き合うことが決まって気持ちが踊っている。
「じゃ、来月14日、楽しみだな」
「ふふっ、そうだね」
最初は俺の芝居が好きだと思われていたのかもしれない……と勘ぐっていた。
彼女はいつから気づいていたんだろう。俺の告白が芝居ではなく本当に好きだということに。21回目の告白は大成功という形で終わった。むしろ彼女からバレンタインデーのチョコを受け取り、俺は早く来月の14日が来ないかとうずうずしてしまう。ホワイトデーが待ち遠しくて、楽しみでしょうがなかった。俺は彼女に、どんなお返しを送ろうかと考えを巡らせるのだった。
芝居から出た実(まこと) メラミ @nyk-norose-nolife
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます