エピローグ
七森 かしわ
ぼくら
僕達は、取り憑かれている。
僕達は、迷わされる。
僕達は、押しつぶされそうになっている。
僕達には、魔物が付きまとっている。
その魔物の名は、『青春』とか言うらしい。
その魔物は、大人と社会、そして僕たちが生み出したもので、多分消えやしない。
ある大人は語った。若いうちはまちがってもいいから全力で頑張ってみようと。たとえ挫折したとしても、それは大きな価値をもつと。曰く、
「青春とは、かけがえない一瞬。」
ある企業の清涼飲料水のcmは若者に魅せる。
広がる青空、輝く汗と友情、恋愛。
一生に一回しかないものを楽しめと。曰く、
「青春とは、甘酸っぱいもの」
嗚呼、僕らは魅せられた。騙された。
表面上ばかりの幻想を抱いた。
青春とは、そういうもんだと思ってた。
星新一は言った。「青春とはもともと暗く不器用なもので、明るくかっこよくスイスイしたものは
商業主義が作り上げた虚像にすぎない。」
それを大人は、かけがえないものと。
それを企業は、甘酸っぱいものと。
謳う。
実際は違う。
僕らの青春は灰色だ。
受験、未成熟な人間性が生み出す複雑な人間関係。
肥大化していく自意識。子供のまま、好きなままでいられなくなる。自分を誰かに認めてもらいたくて、たまらなくなる。
まだ出来上がったばかりのガラスよりも脆い器に、大人の事情とやらを流し込まれる。理不尽という言葉で片付けられる事象の数々。
それをかげがえないものなんて、
それを甘酸っぱいものだなんて。
間違ってる。
味覚音痴もいいとこだ。
大人たちは謳う。諭す。矯正する。
若さ。努力を怠るな。肩を組み、笑い合え。
それはかけがえないものだ。
僕らはそれをあたかも真実のように思い込む。
僕達は取り憑かれているんだ。
恐ろしい魔物に。
ああ!青春って、すばらしい!
なんて。
俺には分からない。大人になれば、こんな挫折と後悔と不安に塗れた日々も輝かしいものだったと思えるのだろうか。青春の日々は素晴らしいものと。
子供たちに、かけがえないものと、甘酸っぱいものと、教えているのだろうか。
今の俺を肯定できるのか?俺にはそうは思えない。
あの日とれなかったサッカーボールも、消毒液の匂い、折れてしまった心。
あの時、ああしていれば。なんて、過去に縛られたこの日々を。無慈悲に踏みにじられた花壇。誰かを不快にさせないように殺した自分。青春という虚像を追いかけた無為な日々。
1、2年後、俺は笑っているのか。泣いているのか。
俺はここに居ていいんだ!って。
自分を肯定してやれるんだろうか。分かんねえ。
いつかこんな日々も、
素敵な青春のエピローグになるのかよ。
エピローグ 七森 かしわ @tai238
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ありふれた大学生の日記最新/花空
★3 エッセイ・ノンフィクション 連載中 260話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます