第23話 夢現の彷徨い人(ワンダー)

 美咲町、駄菓子屋――


 すっかり辺りは暗くなり、玄関を開けると冷たい風が通り抜けた。雫が座って靴を丁寧に脱いでいる横で水は靴を脱ぎ捨ててそのまま階段を駆け上がった。


「ちょっと水! いくら急いでるからって……まあいいけどさ」


 バタン――


「……ん? 水? 大丈夫?」


 雫が階段を登っていくとドアを開けて倒れこんでる水の姿が視界に入り、小走りで駆け寄った。


「……噓……何でよ……」


 純が寝ているはずの部屋に純がいない。掛布団が無造作に畳に置かれて窓が半分開いて白いカーテンが風に揺れていた。


「間に合わなかった……純が……」

「違う! 水。自分で起きたんだ。鍵を壊された形跡は無い……窓から出ていったのは分からないけどきっと大丈夫だ……」


 パチ、! パチ、!


 窓の外から懐中電灯で部屋を2回照らされ、何やら外から声が聞こえる。


「だ、ダメですよ! こんなとこに車停めちゃ! どう考えても迷惑でしょ」

「ガハハハッ! わるいわるい! だってここで間違おらへんのやろ?」

「し~~~~!!!! あと声もでかいです!!!!」

「やかましいわ!」


 水と雫はこっそりと首を窓から出して声の正体を確認すると白の軽トラの近くで2人の男がふらふらと駄菓子屋の周りを歩いていた。1人は作業着に身を包み、タオルを首に巻いた工場で働いているような関西弁で話しているおじさん。もう1人は燈火と同じくらいの小柄の大人しそうな男の子で深々と帽子をかぶっている。

 水はきっと彼らは組織の人じゃないなと判断しておそるおそる話しかけた。


「あのぅ~~。うちに何か用ですか?」

「ほら来よった! あがらせてもらおう!」

「ずうずうしいにもほどがありますよ……」

「おい! 具合が悪いんか!」


 男の子がその場で何やら体調が悪そうにしており、水は急いで駆け下りて2人を中に入れて倒れこんでしまった男の子の方を天音純が寝ていた布団に寝かせた。


「ボクは天音雫。この駄菓子屋の店主の一応妹……。こっちは友達の潤羽水。あなた達は?」

「おれは緑川定男と言います。こっちは瑞希君。AAOで二人とも天音君にお世話になりました」

「瑞希です……。お兄さん……天音さんを探しに来たんです」

「大丈夫? 体の方は」

「AAOの弊害ですね……。体中の筋肉がいうことを聞かない……」


 AAOはゲームの世界。行くのは体ではなく脳のため使わなかった体はどんどんやせ細って筋肉がなくなってしまうそうだ。


「純はここには居ない……ごめんね」

「そうですか……」

「AAOで何があったの?」


 ……


 2人は潤羽水の真実は知らない。水と雫にはAAOで怪盗ストレリチア開催した3つのゲームのことについて話した。


「その優勝景品で2人はこっちに戻れたのね。でも瑞希君は帰るつもりはないって言ってなかったっけ?」

「3つ目のゲームが終わった後、怪盗ストレリチアが僕らの前に現れて今すぐ戻って天音純の所へ行けとだけ急に言われたんですよ。そしたらAAOワールドの町が少しずつ消えていって……それで……」

「消える!? 他のみんなは!?」

「間に合わんかったと思とります。優勝景品をもろてへん人、そもそもゲームに参加してへん人はただただ消えていく世界を眺めることしかできひんかったと……」

「そんな……」


 ……


「でもありがとう……。教えてくれて。純からこの場所を教えてもらったの?」


 瑞希はむくっと起き上がってカラーコンタクトレンズを外して空色の瞳を2人にみせた。


映像記憶カメラアイ。AAOワールドの街並みと現実世界の街並みは同じなんですよ。だからここへは来れたんです。ついでに言うと3つ目のゲーム内で緑川さんの家の風景も記憶していたので僕たちは何とか合流できました」

「凄い……ありがとう!」


 水は感動のあまり瑞希の手を握って顔を近づけて満面の笑みを見せた。


「べ、別に普通ですよ……これくらい」


 瑞希は照れくさそうに眼を逸らした。


「映像記憶……」

「どーしたの雫……?」

「そのゲーム会場も記憶しているのか?」

「はい、ですがその……探すのが難しくて……」

「なるほど。ならボクと協力すればその場所がわかるかもしれない」

「?」 


 瑞希はキョトンとした顔を水に見せると水は雫の能力について簡単に説明をした。


「幽霊と意思疎通……?」

「そ。君のカメラアイよりは使いづらいけどね」


 雫は押入れからスケッチブックを取り出してそこに記憶している建物の特徴を描いてほしいと言い、瑞希は数枚のページを使って様々な角度から見える建物の特徴をなるべく丁寧に綺麗に描き進めた。


「おじさん! あの軽トラどーみてもおじさんのだよね! 運転できるのおじさんしかいないのわかるよね? 頼んだよ!」

「……おじさん。どーみてもおじさん……」


 雫はスケッチブックを抱えて軽トラの助手席に乗り込み、水と瑞希を荷台に乗せて発進させるように緑川に指示した。


「反撃開始ってとこかな、菊」

「キク? なんなんだこの子は……。せやけどほんと天音君の周りにはおもろい人しかおらんな!! ガハハハッ!!」

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